4.お似合いの2人(蒼天side)
庭園でお茶を飲みながら、肩を寄せ合い一つの本を読む二人を遠目に見つめていた。
陽華は、知らないのだ。もうかなり前から、朔夜が婚約者の最有力候補に挙がっていることを。
彼女の婚約者、つまりはこの国の時期王となる人物になるというとだ。
その点、朔夜は品行方正、博識で、思慮深く、家柄も申し分ない。
何より、陽華自身が朔夜に惚れ込んでいることが、大きな決め手の一つだったのだろう。
それに、朔夜が陽華に向ける眼差しは、きっとあいつも……、長く2人を見てきた俺にはわかる。お似合いの二人だ。
それにしても、俺は、なぜあんなことを口走ってしまったのだろう。
陽華を困らせることはわかっていたのに。
どう考えても、あいつが初めて外の世界に行く時、あいつの隣にいるのは、朔夜が良いに決まっている。
陽華は外の世界に幻想を抱きすぎているが、王宮から一歩外に出ると、そこは危険と隣合わせだ。そんな世界でも、あいつなら、陽華を守りながら、外の世界をたくさん教えてやれるだろう。
俺は、護衛として、そんな二人の背中を後から守れるのであれば、それで十分だ。
「お前も、お姫様抱っこくらいできないとな〜。女にモテないぞ」
「……!!」
突然、俺のそばで声をかけてきたのは、林峻だった。
一体、いつからそこにいたのだろう。
「俵担ぎはねえわ。そんな紳士のカケラもない男に育てた覚えはないんだがな」
「うるせーー」
林峻の戯言を俺は気にもかけていないように装って、棒読みで言葉を返す。
けれど、このおっさんの厄介なところは、それが通じないことだ。
まるで、こちらの考えていることを全てわかっているかのように、見透かしてくる。
そもそも、俺を育てたのはこの男なのだ。おそらく、俺自身以上に俺のことをわかっている。
「まあ、諦めるんだな」
「……何を」
「わかってるくせに」
「……」
「大切な人の一番にならない方が良い時もある。全てを懸けて守れなくなるからな」
「……?」
「自分が死んだら、その人が涙を流して悲しむんじゃないかって、迷いが生じる」
林峻はそれだけ言い残し、俺の髪をぐしゃぐしゃに撫で回して、その場を立ち去った。
そうだ。あの日。俺が人生で最大の罪を犯した日。俺は決めたのだ。
何があっても、あいつを守るって。この命に変えても、守りたいって。
「……蒼天、蒼天?」
ハッと気づくと、目の前には陽華と朔夜がいた。空は夕色に滲んでいる。
「そろそろ部屋に戻ろうと思って。朔夜も今日は帰るって」
「ああ、じゃあお前が逃げないように、部屋まで見送るよ」
「もう〜〜、今日はそんなことしないって!」
そして、いつも通り、陽華の半歩後ろを歩き始めようとした時だった。突然、朔夜が俺の手を引いて、陽華に聞こえないような声で、耳元で囁いた。
「×××××、××××」
「な、何だよ急に」
「ううん。何でも」
「……」
「ただ、蒼天のことは、一番信頼してるからね」
驚く俺に、朔夜は微笑むことしかしなかった。
「蒼天〜〜!何してんの?帰るよ」
「あ、ああ」
少し遠くで陽華が俺を呼ぶ声が聞こえる。
俺は、動揺を隠せないまま、陽華の元に駆け寄った。
「朔夜と、何話してたの?」
「……陽華の悪口」
「は〜??嘘つかないでよ。蒼天はまだしも、朔夜がそんなこと言うわけないでしょ」
「うわ、今のは傷つくな〜〜」
それにしても、あの言葉の意味は何だったのだろうか。しかも、突然に。
言葉の通り、受け取ればいいのかもしれない。けれど、何だか嫌な胸騒ぎがした。




