6話 対話
『矮小な人間が此処まで辿り着けるとはな』
「う、う〜ん。私が方向音痴じゃなくて、この洞窟がおかしいのよ……」
『所詮、我が宝を掠めに来た盗人であろう?速やかに殺してやる!!』
「……はっ!頭の中にイケおじボイスが!?………って、何これ?」
目を覚ますと、自動結界が何かを防いでいた。
尖った何かがびっしりと並んでおり正直気味が悪い。
『くっ!我が顎で砕けぬとは中々やるではないか!ならば、これでもくらえ!』
「……ドラゴン?」
ドアップだと分からなかったが、頭部が離れて漸くその正体に気付いた。
薙ぎ払われた尾が結界に当たって弾かれる。
『ば、馬鹿な!?』
「言葉は通じるのかしら?ねえ、ドラゴンさん。ちょっと相談があるんだけど」
『小癪な蛆虫め!我が最強の一撃をくらうが良い!!』
私はドラゴンを結界に閉じ込めた。
結界に気付いていないドラゴンは、そのまま口から何かを放ったかと思うと、結界の内側が光に包まれた……
『ぐわあああああああ!!!!!』
「……大丈夫?」
光が消えて現れたのは、体中がズタズタになったドラゴン。
心配して声を掛けてみたが、全然大丈夫そうではなかった。
「今から治してあげるから、私の話を聞いてね?」
結界を解き、ドラゴンに近付いて治癒術を使う。
「治ったわよ。それで、話聞いてくれる?」
『……貴様、一体何者だ?』
「私はアテナよ。あなたこそただのドラゴンじゃないみたいだけど?」
『あんな劣等種と一緒にするでない。我の名はバルガンディス。……つい先程まで己が最強だと勘違いしていた愚かな堕竜だ』
何か自虐が始まったんだけど……
これって慰めないといけない感じ?
「バルは強かったわ。危うく……はなかったけど、もっと自信を持って良いわよ!」
『……まさか、人の子に情けをかけられるとはな。だが久しく忘れていた強さへの執着が蘇ったのはアテナのおかけだ。礼を言わせてもらう』
「お礼は良いわ。それより、私をこの洞窟の出口に案内してちょうだい」
『それは容易い……待て、アテナは治癒が出来るのだな?』
「ええ。バルはもう完治してるわよ」
『ああ。昔勇者に付けられた古傷まで治っている……ではなく!我が子を治して欲しいのだ』
勇者って本当に居たのね。
絵本の中の作り話かと思ってたわ。
「別に良いわよ。案内してちょうだい」
『本当か!』
この交渉が失敗すると、私の方が詰んでしまう。
この洞窟で一生を過ごすハメに……
バルに連れられて洞窟の奥に進むと、巣穴のような場所に三匹の子竜が引っ付いて此方を見ていた。
め、めちゃくちゃ可愛いじゃない!
バルからは想像出来ない程に小さくて愛くるしい見た目をしている。
『右端の子だ。恐らく何かの病であろうが、原因が分からぬ。幸い伝染るものではなかった故、共に過ごさせてはいるが……』
確かにその子は他の子達と比べると体が小さかった。
「もう治したわよ」
『……先程も思ったが、術の過程は何処に行った?』
「知らないわ。出来るんだからしょうがないでしょ」
そんな事を言い合っていると、治した子竜がよちよちと近付いて来た。
『キュウ?……キュウ!キュウ!』
はわわわわわ!!!
首を傾げる仕草と鳴き声がクリーンヒットよ!
『どうやら、アテナを恩人だと理解したのだろう。撫でてやってくれ』
「それじゃあ、遠慮なく……」
頭を撫でてやると目をすぼめてくすぐったい表情になった。
そして、私の足にしがみついて抱いて欲しそうに此方を見ている。
その潤んだ目に抗えずに抱いてやると、私の胸に頬ずりする子竜。
はい!私この子のママになります!!
『どうやらアテナに懐いたようだな。うむ。人の世の見聞を広げるのも悪くない。アテナの側なら安全だし、一緒に連れて行って「任せて!!」……やってくれ』
かなり食い気味に返答した。
「この子の名前は?」
『まだ名は付けていない。アテナが決めてくれ』
「そうね……『キュウ』なんてどうかしら?」
『安直過ぎるぞ……』
何とでも言うが良いわ。
この子は気に入ってくれたみたいだし。
キュウの可愛さを堪能していると、頭の中にバル達とは違う声が響く。
『ドラゴンとかどうでもいいよ……』
『うるさい、黙れ』
『!!?』
水を差されたので、抗議の念を送っておいた。
その後もぎゃあぎゃあと煩かったが、完全スルーを決め込んだ。
その後は、約束通り洞窟の入口付近まで送ってもらった。
『この左の道を真っすぐ進めば入口だ。……いつでも会いに来い。キュウが居れば迷う事なく我の住処まで辿り着ける』
「分かった。また顔見せに来るわ」
『ああ、キュウの事もよろしく頼むぞ』
「任せて!」
バルと別れて歩いていると、結界に閉じ込めたリノアくん達を発見した。
「調子はどう?」
「アテナさん!?何処に行ってたんですか!?……って、頭に何か乗ってるんですけど!?」
「キュウよ。ほら、キュウ挨拶して」
『キュウ〜♪』
キュウは私の頭の上でゆらゆらと揺れて鳴き声を上げた。
「……可愛いですね」
「でしょ!暫く面倒を見る事になったからよろしくね」
ケイトスとメルディも驚いているが、何やら様子がおかしい。
「なあ、このダンジョンでドラゴンの遭遇例なんてあったか?」
「無いわよ。でも、まだ誰も下層まで到達出来てないから、一概に居ないとも断言出来ないわ」
二人は何やらコソコソと話し合っている。
「アテナの嬢ちゃん。その幼竜はどうしたんだ?」
「バルガンディスって言う名のドラゴンから譲り受けたわ」
『キュウ?』
キュウが「そうだっけ?」っと首を傾げる。
私が育てるんだからキュウはもう私の子供よ!
私は間違った事をしたらちゃんと叱れる親だから心配いらないわ!
一人で子育ての決意を固めていると、ケイトス達は呆れていた。
「ネームドのドラゴンが人間に子を託すなんて聞いた事ねえぞ……」
「まるでペット感覚ね。ドラゴンと人間が共存出来ると思ってるの?」
「ペット?聞き捨てならないわね!キュウは私の大事な子供よ!」
『キュウ!キュウ!!』
キュウが「違う!違うよ!!」と言ってる気がするが、気がするだけなので放っておく。
「これは、共存なんて生温いものじゃないの!子育てという名の試練のその第一歩なのよ!」
このまま勢いで行ってやるわ!
「メルディ、その内あなたはラクスとの間に子を授かるでしょう。産まれてきた赤ちゃんをキュウだと仮定してご覧なさい!」
『キュウ?』
キュウは私の意図を汲み取ったのか、よちよちと歩いてメルディに近付いて行き、その足にひしっと抱き着いた。
『キュウ♪』
「……悪くないわね」
キュウを抱き上げ、我が子を見るような慈しみの表情を浮かべるメルディを見て思う。
この世には正論や道理よりも大事なことがある。
そう、『可愛いは正義』なのだ……
「凄い……質問に答えもせずに自分の意見を押し通すなんて!」
「メルディが丸め込まれるとはな……嬢ちゃん、ヤバ過ぎるぜ!」
そこ、黙りなさい!
人聞きの悪い事を言わないでちょうだい!
メルディの懐柔に成功したので、今日の探索は終了の流れになった。
ケイトス達を結界に閉じ込め、ダンジョンの探索とドラゴンとの遭遇……
初めてにしては、中々に充実した冒険だったのではなかろうか。
ダンジョンの入口に戻ると、セレスとラクスの二人はまだ戦っていた。
「体力どうなってやがるんですか!?もしかして不死身ですか!!」
「ずっと変な動きしやがって!時間止めれるなんて聞いてねえぞ!!」
二人は互いに武器を下ろして言い合っていた。
恐らくは、数知れない程に斬り合った後なのだろう。
ラクスは全身の傷に対して流血が少な過ぎるので、継戦や持久戦に特化した能力を持っていると予想出来る。
一方、私も認知しているセレスの能力は『時間停止』。
僅か一秒程度だが、達人同士の戦いでは生死を分けるには十分な時間だ。
ただ、セレスが癇癪を起こした母様を止めようとした時は、一秒程度の時間停止など何の意味もないと悟ったらしい。
まあ、母様は威圧だけで相手を死に至らしめる事が可能な人の皮を被った化け物なので、比較するだけ無駄である。
「セレス、帰るわよ!」
決着が付くのを待ってたら日が暮れてしまいそうなので、強制的に終わらせる。
「命拾いしましたね。次は必ず仕留めます」
「逃げるのか?」
「時間切れです。もし不服なら、次はアテナ様が相手してくれると思いますよ?」
「……それは勘弁してくれ」
「賢明な判断です」
話し終えた二人が近寄って来た。
ついでに二人の傷を治しておく。
「ありがとな、アテナちゃん。……って、メルディは何を抱いてるんだ?」
「私達の子よ。大切に育てましょう」
『キュウ!?』
メルディからキュウを奪い返して、私の頭の上に乗せた。
どさくさに紛れて連れて帰ろうとしたらしい。
別れを惜しむメルディを余所に、ラクスとセレスにもキュウを紹介した。
「アテナ様、流石です!」
「何で初めてのダンジョンで下層まで行ってんだ?」
「不可抗力よ。矮小な人の身ではどうすることも出来なかったわ」
「何の話だよ……」
別れ道が多すぎて、例え地図があっても二度と辿り着ける気がしない。
その後もバルの話で盛り上がっていると、突如メルディがラクスにしなだれかかった。
「ねえ、ラクス。私、赤ちゃん欲しいな」
「!!?め、メルディ。急にどうしたんだ?」
「ダメ……?」
「ま、まだ俺達稼ぎ時だし……早くないかな?」
ラクスはメルディの勢いに押さて後ずさった。
……ヘタレか!
心の中でツッコんでいると、またあの声が頭に響いた。
『あの女、二面性凄そうで好きになれないんだよな〜』
『気が合うわね。私も同感だわ』
『……って、だから何で会話出来てんの!?』
『私に聞かれても知らないわよ!今は忙しいからまた後でね』
『また……分かった!こっちはいつでも大丈夫だから!』
今回は騒ぐ事なくすぐに静かになった。
一体何者なのか、今度じっくり問い質すとしよう。
転移陣から王都に戻り、冒険者ギルドに寄る。
キュウは可愛いので皆からの注目を浴びていた。
「もしかして、ドラコンの子供ですか?」
「色々あってな……。この娘のテイマー登録をしてくれねえか?」
危険な魔物を街中で連れ回すのはご法度なのだが、テイムという特殊な力を持った者だけは登録すれば同行が可能とのこと。
ラクスは私達を色々と助けてくれるのでお礼がしたいわね。
何かあるかしら?
「ねえ、ラクスに何かお礼がしたいのだけど。お金以外で……」
「……なら、アテナちゃんが会ったドラゴンの情報で良いぞ」
「情報?」
「ああ。冒険者にとって未知に対する情報は何物にも代えがたいんだ。まだ誰も到達していない下層の魔物の情報。それを売るだけで金になるんだよ」
「……そういうものなのね」
「アテナちゃんから聞いた限りだと、そのドラゴンとは戦わない方が良さそうだしな。無謀な挑戦をして無駄死にする奴は減ると思うぞ」
バルとは親しくなったので、助けを請われれば応じるつもりだが、本来は出会った時のように殺し合うのが当然な関係なのだ。
自然と手が伸びてキュウの頭を撫でる。
「私が誰にも負けない最強のドラゴンにしてあげるからね」
『キュウ!?キュウ!キュウ!』
キュウもすごく喜んでるわね。
きっと『最強!?わ〜い!嬉しい!』って言ってるに違いないわ。
「先ずは適当な崖を探さないとね。『先人は子を崖から落とした』って言うし」
「アテナ様、それではただの殺害現場です。先人ではなく獅子かと」
「そうだったかしら?」
「それに、キュウは飛べるので崖から落としても意味はないと思います」
確かに、今もふよふよと空中を漂うことがあるので、素直に落下はしなさそう。
「……じゃあ、底なし沼にしましょうか。這い上がって来れたら合格よ!」
『キュウ!!キュウ!!!』
「やった!!楽しみ!!!って言ってるみたい。キュウ、頑張ろうね!」
『キュウウウウウウウ!!!!!』
「……違うような気がするなぁ」
こうして、キュウの最強育成計画が始まった……




