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我が身に宿るは高潔なる聖者の魂。だが、深層から陰の者がこちらを覗き見ている!  作者: キケス


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3話 違和感

「アテナ様、起きて下さい」

「う、う〜ん。ウィリアムを振っちゃったから傷心気味なの。学園は休むわ……」

「では、ネイルズ氏にはそのように伝えて来ます」



そして、盛大に寝坊した。


「昨日まではちゃんと起きれてたのに……」

「初めての王都に入学。無意識に気を張っていたのではないかと」

「セレスも同じじゃないの?」

「はい。なので、いつもより一分程寝坊致しました」

「…………」


セレスは起こそうとしたと証言しているが、全く役に立たなかったのも事実。

早急に別の方法を考えなければ……



「遅れて申し訳ありません!」

「アテナとセレスか。休むんじゃなかったのか?」

「体調が良くなったので来ました」

「まあ良い。席につけ」

「はい」


特に自分の席などは決まっていないので空いた席に座る。

ネイルズ先生はベテランの教師で、基礎的な部分を全て担当している。

基礎課程を終えたら、専門の教師とバトンタッチする仕組みらしい。


そんなネイルズ先生の話と黒板に書くチョークのリズムですぐに眠りへと誘われた……



「今日の授業は終わりだ」

「……ひぁお!」


午前中の授業が終わっていた。


「セレス、起こしてよ!」

「申し訳ありません。アテナ様が余りにも気持ちよさそうに寝ているので起こすのが憚れました」


やはり、セレスに頼るのは無理っぽいわね。

誰か他に起こしてくれる人を探すしかない。



昼食後は実技の授業となる。

学園には大食堂があるので向かおうとすると、背後から呼び止められた。


「あ、アテナさん!ちょっと良いかな?」

「えっ!?」


まさか声を掛けられるとは思っていなかったので驚いて振り向いた。

そこには可愛らしい顔をした、私よりも背が低い男子生徒が居た。

ズボンを履いてるから男子よね?


「私に何か用かしら?」

「ひぃ!」


別に凄んでないのに悲鳴を上げられた……

内心で深く傷ついていると、男子はオドオドと話し始めた。


「ぼ、僕はリノア。アテナさんは治癒術が得意なんだよね?」

「ええ。欠損の再生、大病の治療、呪いの解呪、何でもいけるわよ」

「す、凄い!」


憧れの目で私を見上げてくるリノアくん。

凄く可愛いわね。

もし弟がいたらこんな感じなのだろうか。


「あ、アテナさん。恥ずかしいよ……」

「……あら?ごめんなさい」


無意識にリノアくんの頭に手を置いて撫でてしまっていた。

中々離そうとしない手を強引に引き離す。

自分の体なのに何か違和感が……


「ぐぬぬ……」


隣ではセレスが唇を噛んで悔しがっていた。

セレスに気を取られていると、違和感は次第に薄れていった。



食堂でお昼ご飯を食べながら詳しく話を聞く。


「ぼ、僕の母の病気を治して欲しいんだ!」


話を要約すると、リノアくんの母親は昔から病気がちではあったが、女手一つでリノアくんを育てたそうだ。

だが、最近は寝ている事が多くなり昨日から意識が戻らないらしい。


幸い、家は王都にあるようなので、今から向かう事にした。


「授業を欠席させる訳には……」

「私の都合なんて気にしなくて良いわ。リノアくんにとっては大事なことでしょ?」

「アテナさん……」





王都の平民街にある一角。

継ぎ接ぎだらけのぼろぼろの一軒家があった。


玄関から中に入ると、一人の女性がベッドに横たわっていた。


「これは……」


セレスも気付いたみたい。

まだ女性は生きている筈だが、物凄い死臭が部屋に漂っている。


「昨日から声をかけても揺さぶっても起きなくて……どうかお願いします!」

「任せなさい」



女性に近付いて肌に触れる。

本来は美しい女性だったのだろう。

くすんだ金髪に痩せこけた体。

症状は隻眼、隻腕、肺の壊死、内臓機能停止、その全ての原因が呪いに起因していた。

時と共に成長する呪いとは……相当腕の立つ呪術師に仕掛けられたようだ。


これ、解呪して大丈夫かしら?

解呪した呪いは、呪いをかけた本人に跳ね返る。

これだけ成長していたら間違いなく……


まあ、別に良いか。

人を呪っていいのは呪い返される覚悟があるやつだけだって本に書いてあったし。


治癒術を使って解呪と体の再生をまとめて行う。

横たわっていた女性の全身に白い布を被せる。

欠損の再生時は見た目が結構グロテスクなので、見なくて良ければ見ないに越したことはないのだ。

昔、父様に「何だそれ!手品かよ♪」と馬鹿にされた事があるが、それ以降父様にだけは絶対に治癒術は使わないと心に誓っている。


「終わったわ」

「えっ?もう?」

「ええ。後は栄養がある物を食べて体力を戻すくらいかしら」

「アテナ様、流石でございます」


後から知った事だが、その日王城に居た宮廷魔術師団の団長が不審な死を遂げた。



「……うっ!あれ?此処は天国?」

「母さん!!」

「リノア……」


リノアくんが母親に抱き着く。

私に声を掛けてくれて本当に良かった。

流石に知らなければどうしようもないから……


「リノア、そちらの方達は?」

「クラスメイトのアテナさんとセレスさん。アテナさんが母さんを治してくれたんだよ!」

「……目と腕、それに呪いも?」


ステラさんは自分の体をあちこち触って変化を確かめている。


「私が解呪したわ。心当たりはある?」

「……はい。絶対に……許しません」

「因みに、その相手は多分呪詛返しで死んでるから、復讐しようと思っても出来ないわ」

「……えっ?」

「そんなことより、今からの幸せを考えるのをお勧めするわ」


復讐は何も生まないなんて綺麗事を言うつもりはないが、復讐相手がいないのなら気持ちを整理して自身で昇華していくしかない、と思うのは私のエゴだろうか。


「あ、挨拶が遅れて申し訳ありません。私はリノアの母のステラです。アテナ様、このご恩は一生忘れません。それに、治療費は何年かかっても払いますので!」

「それは大丈夫よ。リノアくんに働いてもらうから♪」


私は満面の笑みで二人に告げた。


「ぼ、僕は何をすれば……」

「じゃあ、学園がある日は私を毎日起こしに来てちょうだい」

「えっ?そんなの、全然釣り合ってないよ」

「死活問題なの!何をしても良いから絶対に起こしてね!」

「わ、分かった」



その後、ステラさんのための数日分の食材を買いに行って、リノアくんと別れた。



「ふう。良いことをした後は気持ちが良いわね」

「アテナ様。気分がよろしい時に申し訳ないのですが、とうとうお金が底をつきました」

「……えっ?」


入学費用が思ったよりも高かったらしく、元々数日分の食費くらいしか残っていなかったようだ。


「……日雇いの働き口ってあるのかしら?」

「それであれば冒険者ギルドに登録するのが妥当かと。日銭を稼いで生活する者も居ると聞いたことがあります」

「それ良いじゃない!すぐに登録しに行くわよ!」


セレスが通行人に道を尋ねて、冒険者ギルドがある建物に向かった。


目的地に着くと、三階建ての大きな建物に多種多様な人種が出入りしていた。


「セレス、見て!蜥蜴の亜人が入って行ったわ!ほら、あの人なんてめちゃくちゃ強そうよ」 

「……私の方が強いです」


興奮しながら中に入ると、更に人が増えて物凄く混雑していた。

入口で立ち止まっていると、壁際にあるテーブルで飲み物を片手に騒いでいる集団に目をつけられた。


「その制服は学園の生徒かぁ〜!此処は子供が遊びに来る所じゃねえぞぉ〜!」


筋骨隆々の大男が酒臭い息を吐きながら迫って来た。


「此処で冒険者に登録出来るって聞いたわ。どうすれば良いのかしら?」

「なんだぁ〜。子供が冒険者になるなんて100年早えんだよ!」

「100年も待ってられないわ。それに、大人になるまで数年よ。ちゃんとしたことを教えてよね」


私がそう言うと、周りでドッと笑いが起き、ヤジが飛んだ。


「子供におちょくられてんぞ!」

「ナメられたままで良いのかよ!」


酔っ払いの顔が怒りに歪む。


「子供だからって容赦しねえぞ!」

「あれ?嬢ちゃん達はこの前の……」


大男が凄んで武器に手をかけようとした瞬間、背後から声がした。

振り向くと、入学試験の試験官だった冒険者が居た。


「試験官じゃない!そう言えば誰かが冒険者って言ってたわね」

「ラクスだ。試験官はあれっきりだから名前で呼んでくれ。それで、嬢ちゃん達は何でこんな所に居るんだ?」

「私がアテナでこっちがセレスよ。今日は冒険者登録に来たの。酔っ払いの相手しに来た訳じゃないわ」


ラクスは周囲を見渡して、大男に詰め寄った。


「命拾いしたな。俺が声かけなきゃお前は死んでたぞ」

「ら、ラクスの旦那。それはどういう……」

「おい、全員聞いとけ!死にたくなかったら、この嬢ちゃん達にはちょっかい掛けるなよ!こっちの桃色髪の嬢ちゃんは俺と同じくらい強いからな!」

「……私の方が強いです」


セレスは絶対に優位アピールを忘れない。


「嘘だろ……」

「旦那の贔屓目じゃねえのか?」

「自殺願望があるなら止めはしねえ。一応、忠告はしたからな!」


その言葉で周りは静かになった。


「冒険者登録はあっちの受付でやるんだ。一緒に行くぞ」


ラクスは通りすがりに私の耳元に囁く。


「戦いたくないのはアテナちゃんの方だがな」

「えっ?」


殿方が淑女の耳元で言葉を囁くなんて、まるでプロポーズ……

ラクスは顔は良いし、筋肉質だし、名声もあるし、お金もきっと貯め込んでいるだろう。

それに、冒険者特有の言動や行動の荒々しさが堪らない。

かなりの優良物件だわ!


「ラクスは結婚してるの?」

「何だ?急にどうした?」

「もし、結婚してなかったら……」

「同じパーティーの奴と少し前にな。そんなの知ってどうするんだ?」

「……何でもないわ。忘れてちょうだい」

「そ、そうか……」


落ち込みそうになるが、まだ一敗目なので何とか持ち直す。

まだまだチャンスはあるわ!

狩りをする肉食獣が如く、強かに狙っていくわよ!



受付では綺麗なお姉さんが対応してくれた。


「ラクスさん。そちらの方達は?」

「冒険者登録がしたいそうだ。手続きしてやってくれ」

「はい、それは構いませんが……。ではお二方はこちらの書類に記入をお願いします」


紙を渡されたので、セレスと横に並んで記入する。


名前と年齢、職業は……学生?

特技は……治癒術と結界術ね。

犯罪歴?これって幾らでも虚偽申告出来そうだけど。

もしかしたら、後で嘘を発見する魔道具を使って虚偽の申請をしたかどうか暴かれたりするかもしれない。

私は正直に書いて用紙をお姉さんに渡した。


「はい、確認しますね。……アーティナリストさん、15歳で……治癒術!?」

「……治癒術って冒険者に向いてないの?」

「いえ、治癒術などの回復系の術の使い手は教会が囲い込んでいて滅多に居ないんです。アテナさんも狙われるかもしれないので気を付けて下さい」

「アテナ様なら特に問題ないかと」

「そうだな。アテナちゃんならどうにでもなるだろ」


二人は通じ合ったかのように同時に頷いている。

人を何だと思ってるのよ。

抵抗出来ずに連れ去られたりするかもしれないでしょうが!


「では、登録試験の方に……」

「それも大丈夫だ。俺が学園の試験官をやった時に確認してるからな」

「そうですか。では、冒険者カードを発行するので少しお待ち下さい」


待つ間にラクスが色々と説明してくれた。

依頼の受け方、報酬の受け取り方、魔物の素材売却など、初心者の私達には本当に為になる情報だった。


「ラクス、ありがとう。お礼をしたいけど、手持ちのお金がないからまた今度お礼するわ」

「お礼なら、今度セレスちゃんと一対一で戦わせてくれ。全力を見てみたい」

「……臨む所です。私が勝ちますが」

「ラクスがそれで良いなら別に良いけど」


何で戦う事がお礼になるの?

普通、お礼っていったらお菓子とか食事とかじゃないの?

私の感性が変なのかしら。

私の疑問を余所に二人は既に意欲満々である。


「私は今からでも構いませんよ?」

「奇遇だな。俺も時間空いてるぜ」

「ダメよ。寮の門限に間に合わなくなるでしょ」

「……承知しました」

「アテナちゃんが言うなら仕方ねえな」


最後に、もう一度ラクスにお礼を言って冒険者ギルドを後にした。


「依頼は学園が休みの時に受けるわよ」

「割の良い依頼は朝早く来ないとなくなるそうです」

「……善処するわ」


いつまでも付き纏う朝の目覚まし問題。

リノアくんの永続雇用が決定した……






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