16話 王女の家出③
死神とターニャがカップルになった……
でも、相手は死神。
いくら顔が良かろうと、人外ならば諦めが付く。
僅かな未練を断ち切ろうとするが、目の前には恋する乙女顔になっているターニャを穏やかな表情の死神が背中から包み込んでいる光景。
……羨ましくなんてないんだからね!!
「……ターニャ。もう大丈夫よね?」
「はい。シニガミ様に引き合わせてくれたアテナさんには感謝してもしきれません。ありがとうございました」
『王妃が何を企んでいるのかは知らんが、ターニャは私が守るから安心しろ』
仲良く手を振る二人を見ながら部屋を後にした。
さながら私は恋のキューピッド。
……って、他人のキューピッドしてる暇なんてないの!
私がキューピッドされたいのよ!!
「目に見えて落ち込んでるね」
「アテナ様の魅力に気付かぬとは……死神も見る目がありませんね」
「元々目玉無かったけどね……はは」
『キュイ……』
思わず乾いた笑いが出る。
寮への足取りはとても重かった。
そして、制服を入替え忘れたリノアちゃん。
帰宅途中を学園の生徒に見られたせいで、一目惚れした男子がいたとかいなかったとか……
リノアちゃんと別れて寮に戻ったが、レイアはまだ戻って来ていなかった。
「まさか、行方不明?」
「アテナ様、このままですとあの方の耳に入る可能性が……」
はっ!!
①レイアが行方不明
②任された私の責任
③バーミリオン家に連絡が行って、母様が激怒
④母様が王都に侵攻
⑤ラクス達と一緒に立ち向かうも敢えなく全滅
⑥そのままの勢いで王都陥落
⑦バーミリオン王国樹立
「不味いわね。このままじゃ、バーミリオン王国が誕生してしまうわ!」
「いや、そこまでは……」
「明日は朝から冒険者ギルドに行くわよ!レイアの探索依頼を出さないと!」
「大事にしない方が良い気がしますが……」
「母様が来ても良いの?」
「今すぐ行きましょう!!」
「今日はもう無理でしょ……」
善は急げと言うことで、明朝から冒険者ギルドに向かった。
運が良いことに、ラクス達のパーティーが居たので話し掛ける。
「ラクス、お願いがあるの!」
「よお、アテナちゃん。どうしたんだ朝から?学園があるんじゃねえのか?」
「レイアが帰って来ないから探して欲しいの!このままじゃ、王国が滅んでしまうわ!」
「……第三王女が居なくなっても国は滅ばないと思うぞ」
「違うの!母様……魔王が来るのよ!」
「魔王だって!?」
現在、その存在を確認出来ているのは、海を隔てた南にある魔大陸に居る魔王カルディアのみ。
10年前にあった侵略戦争で魔王と対峙した母様曰く「話が分かる紳士だったわ。すぐに軍を引いてくれたもの」とのこと。
幼心に感じたのは、絶対母様にビビっただけじゃね?だったが、あながち間違っていないと思う。
……あれ?もしかして母様って魔王よりも強い?
「ただの魔王じゃないわ……大魔王よ!」
「大魔王!?」
「初めて聞いたぞ……」
「アテナさん。それは正式な依頼と受け取っても良いのかしら?報酬は用意出来るの?」
メルディが冒険者として正論を言ってきた。
こんな事もあろうかと、ちゃんと策は練ってきている。
「……ええ。報酬は勇者パーティーだった賢者様が持っていた魔法の本よ!」
「魔法の本!?」
「バルから貰ったの。レイアが驚いてたから本物よ」
「ラクス!絶対に見つけるわよ!!」
目の色を変えたメルディはラクスの返事も聞かずに走って行ってしまった。
「はぁ……ケイトス頼めるか?」
「あいよ」
ケイトスもメルディを追って出て行った。
「り、リノア……くん?そ、その格好……は?」
「あっ、カロさん。おはようございます。アテナさんに女装させられてしまって……似合ってないですよね?」
「……………」
恥ずかしがってモジモジしながら上目遣いを決めるリノアちゃん。
スカートを履く背徳感と、カロの身長が高いことで、この絶妙なポージングが出来上がってしまった。
カロは立ったまま気絶していた……
ラクスが冒険者達の注目を引いて叫ぶ。
「皆、聞いてくれ!緊急の依頼なんだが、この国の第三王女が行方不明らしい。見つけた者にはもの凄い報酬が出るから、全力で探してくれ!頼むぞ!!」
ラクスの号令により冒険者組はすぐにギルドから飛び出して行った。
私達も早く動かないと。
「キュイ。これはレイアのハンカチよ。この匂いを覚えて何処にいるか探してちょうだい」
『キュイ……』
「やっぱり未使用だと匂いが判別し辛いみたいね。使用済みの下着でも持ってくるべきだったわ」
『キュイ、キュイ!!』
「それなら、大丈夫!!ですって?キュイは頼もしいわね」
「そんなの、無理!!だと思う……」
寮に戻る時間も惜しいから今回は見送りね。
「アテナ様、私は単独で探してもよろしいでしょうか?」
「その方が良さそうね。だけど、先ずは目星を付けるのが先決よ」
「レイア様が行きそうな場所ってこと?」
「ええ。魔法の本を持って行ったのも考慮しなくちゃ」
「……城に帰ったんじゃないかな」
「…………」
「…………」
『…………』
もう頼んじゃったんだけど……
「か、可能性はあるかもしれないわね。でも、私達はお城に入れないから確認出来ないわ」
「キュイに飛んで見て来てもらうとか?」
『キュイ!?』
キュイが何言ってんだコイツみたいな顔でリノアちゃんを見ていた。
「キュイ。はじめてのミッションよ!失敗したら斬首刑かもしれないけど、私達が最期まで見守ってあげるから安心してちょうだい!」
『キュ!?……』
キュイは驚いて倒れたまま起き上がらなかった。
「気絶したわね……」
「斬首刑とか言ったからだと思う」
『プランBよ。殿下に頼んで城の中に入れてもらうわよ!』
「アテナ様、理由があるとはいえ、今は学園をサボっている状態なので学園の中に入るのは危険かと」
セレスの言う通りだ。
学園に来てるのに授業を受けませんは通用しないだろう。
そうだわ!
ふと、リノアちゃんを見た瞬間に閃いてしまった。
「私とリノアちゃんなら多分行けるわ!」
「行けないよ!?すぐにバレるよ!」
「私の妹で押し通すわ。名前はリノンよ」
「アテナさんの妹……分かった、やってみるよ」
急にスイッチが入ったリノアちゃん。
これは期待が出来そうだ。
学園に到着したので、殿下がいるであろう教室をしらみ潰しに探していく。
勿論、好奇の目で見られたが、王国滅亡の危機に比べれば安いものだ。
「ねえ、ゾンゲお兄ちゃん。もう疲れちゃった」
「おかしい。リノンの素性は頻繁に尋ねられるのに、私は何も聞かれない……」
何処からどう見ても男装の麗人でしょ?
せめて女子は興味持ちなさいよ!
って言うか、ゾンゲお兄ちゃんって私のこと!?
実際に存在するであろうゾンゲさんには悪いけど、もっと他に良い名前があるんじゃないかな……
「私のことを探しているというのは君たち……」
背後から声を掛けられたと思ったら殿下だった。
私とリノアくんとは気付いていないみたいで、振り向いたリノンに目が釘付けになっている。
「殿下、探してたのよ!私達お城に入りたくって……」
「………」
全く反応がない。
その視線はリノンを捉えて微動だにしなかった。
好都合ね。
このままお城の中まで連れて行ってもらおう。
「殿下。リノンがお城の中を見てみたいらしいわ」
「リノン……なんと神秘的な名であろうか」
リノアくんと一文字しか違わないのに何を言ってるのかしら……
「殿下、お城は?」
「ああ。勿論、大丈夫だ」
「リノン、手を繋いであげて」
「!!?」
壊れ物を扱うようにリノンの手を優しく包み込む殿下。
まるで初恋でもしているかのように顔が真っ赤になっていた。
「さ、さあ。行こうか!」
「はい……」
送り迎えのための馬車は常に学園に待機しているらしく、馬車で王城に向かう。
先にセレス達と合流して四人と一匹で乗り込んだにも関わらず、殿下にはリノンしか見えていないようだ。
「一国の王子がこの有り様で大丈夫なのでしょうか?」
「間違いなく大丈夫ではないわね」
『キュイ……』
優しく微笑むリノンと幸せ絶頂の殿下。
二人の世界を創りながらも馬車は走り続ける。
例えそれが儚い夢だとしても……
馬車はそのまま城門を通過して城内に着いた。
「先ずはレイアの部屋に行くわよ」
「リノン、馬車の移動は疲れただろう。私の部屋で休むとしようか」
「はい……」
リノンの照れる演技は高貴な身分のイケメンに憧れる少女そのもの。
思い込みのスキルの万能性に戦慄していると、殿下の部屋の前に着いた。
此処まで来ればレイアの部屋の場所は大体分かる。
……セレスが。
「セレス、行くわよ!」
「リノアは放っておくのですか?」
「……そうね。キュイ、リノンと一緒に居て。殿下が手を出そうとしたら守ってちょうだい!」
『キュ、キュイ!』
リノンをキュイに任せて先を急ぐ。
今更感は拭えないが、少しでも急いで来た風を装うことでレイアからの心象も変わる筈だ。
「此処です!」
「レイア、早まらないで!」
部屋の前にいる護衛の騎士を結界で動けなくして、扉を盛大に開け放った。
「……アテナ様?」
「近衛兵は何をしている!誰も入れるなと言っただろう!?」
部屋の中を一瞥し状況を整理する。
其処には超絶イケメンに剣を向けられるレイアの姿があった……
「貴様、何者だ!?」
「あなた暗殺者ね!?大人しくしなさい!」
「アテナ様、待って……!」
イケメン暗殺者の動きを封じる。
どうやらギリギリで間に合ったようだ。
「ふう。こんなイケメンでキラキラしてるのに暗殺稼業をやらないといけないなんて世も末ね」
「……これ程の狼藉、不敬を通り越して反逆の意図があると見做すぞ」
「不敬?暗殺者が偉い訳がないじゃない。勘違いにも程があるわよ」
偶にいる強さに溺れて不遜になるタイプの人間みたいね。
「それに、例えあなたがどれだけ偉かろうと私には関係ない。大人しく裁きを受けなさい!」
「アテナ様。助けていただいたのに申し上げ難いのですが、そちらは私の異母兄であるシャール第一王子ですわ」
「………………影武者ね!暗殺なのに本人が直接出向く訳がないわ!」
本物がきっとこの城の何処かにいる筈なの!
そうじゃないと私が死ぬの!!
「……あら?確かに纏った雰囲気が本人とは違いますわ」
「何を世迷言を……」
レイアが口車に乗ってくれた。
今が好機よ!!
「王子の影武者兼暗殺者がいるのは驚きだけど、このまま大人しく引き下がるなら大事にはしないわ」
「この我を前にしてその豪胆さ……面白い女だ。良いだろう、ここは引いてやる」
何とかなった?
結界を解くとシャール殿下は何事もなかったかのように部屋を出て行った。
「アテナっち、マジありがと〜!」
「身内のいざこざに巻き込んでしまい申し訳ありません」
「別に良いわ。それより、レイアが見つかって本当に良かった!」
「アテナ様……」
「どうして急に居なくなっちゃったの?やっぱり一日一食が不満だった?」
「一日一食?」
レイア両肩に手を置き、真剣な眼差して問いかける。
今回の騒動はレイアの悩みに気付いてあげられなかった私の責任だ。
ここは本音で語り合うべきタイミングだろう。
「私に不満があるなら言ってちょうだい」
「再三に渡ってお伝えしたのですが、アテナ様が魔法の本を余りにもぞんざいに扱うので、売られる前に私が魔法を会得しようと思った次第ですわ」
「……………」
いや、だって要らないから……
「……そんなに欲しいならレイアにあげるわ」
「宜しいのですか?」
「別に良いわ。因みに、その本って何の魔法が覚えられるの?」
「『未来視』の魔法ですわ!」
「みらいし……って何?」
「これから起こることが予見出来る、神託にも劣らない規格外の魔法ですわ!」
「ふ〜ん……って。じゃあ、私の旦那様になる人も分かるってこと!?」
「可能だとは思いますが……急に俗物的な話になりましたわね」
自分の生涯の伴侶以外に知りたいことなどあるだろうか?
あるわけがない!!
「じゃあ、レイアは逸早く魔法を覚えてね。覚えたら帰って来て良いわよ」
「元からそのつもりでしたが、アテナ様から言われるのは釈然としませんね……」
レイアの無事も確認出来たし、母様に追及が行くことはなくなった。
これにて一件落着よ!
「そう言えば、アテナ様が城に来たら是非会いに来るよう伝えてと母様に言われておりました。宜しいでしょうか?」
「……王妃が?」
帰ろうとしたら、呼び止められた上にそんな事を言われてしまった。
特に断る理由も見つからなかったので、レイアに大人しく付いて行った。




