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我が身に宿るは高潔なる聖者の魂。だが、深層から陰の者がこちらを覗き見ている!  作者: キケス


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15話 王女の家出②

「ストーカーじゃありません!」


私の計画はターニャの一言で破綻した……


「……どうやら早とちりだったようね。そこのカフェで話を聞きましょうか」

「着替えは!?」

「ズボンが動きやすくて気に入っちゃった。リノアちゃんも満更でもないんじゃない?」

「そ、そんなこと……」


その反応は本当に満更でもなさそう。

リノアくんの新たな性癖を開花させてしまったようだ。


「でも、本当に可愛いですね。こんな妹が欲しかったなぁ」

「あら。今なら一日レンタル可能よ。お姉ちゃんって呼んで慕ってくれるわ」

「人身売買反対!!」

「カナルーア王国では極刑に処されますね」

「冗談よ。それじゃあ、行きましょうか」


奴隷制度がある国も存在するが、この国では人身売買は重罪とされている。

レンタルの場合は売買扱いになるのだろうか。



カフェのテーブルを囲んで飲み物と軽食を注文する。

ターニャが奢ってくれるそうなので一安心だ。

キュイが口を開けて待機していたので、千切ったパンを放り込みながら話を聞いた。


「それで、ターニャは何に困ってるの?」

「はい。毎晩眠りに就いた後に決まって悪夢を見るんです。真夜中に飛び起きたまま朝まで眠れず、どうしても顔に出てしまって」

「夜中起こされるなんて可哀想……」

「アテナさんの場合、悪夢とか平気そうだよね」

「現実は悪夢より恐いのよ……」


何より夢には母様が出て来ない。

それだけで、心穏やかに一日を過ごせるのだ。


「それは、呪いに間違いないわね」

「いくらなんでも早合点じゃ……」

「リノアちゃん。睡眠を妨げるのが呪いじゃなくて何だと言うの?」

「いっぱいあると思う。……あと、ちゃん付けは止めて欲しいかな」

「その見た目でくん付けは無理があるわ。耐えてちょうだい」


私の暴論で頬を膨らますリノアちゃん。

ここまで可愛いを具現化出来るのに、くん付けなんてありえない。


「……で、何の話してたっけ?」

「呪いの解呪についてどうすれば良いか、だったかと」

「そうだったわね。ターニャ自身は呪われてないから、住んでる所に何かあるかもしれないわ」

「呪いじゃないもん……」


拗ねるリノアちゃんの表情に意識を持って行かれそうになる。

最早、自称するだけでは男だと証明出来ない域にまで達していた。



ターニャはギルド職員用の寮に住んでいるらしく、四人と一匹で目的地まで歩いていると、周囲から否応なしに注目が集まる。


私、セレス、リノアちゃん、ターニャ、キュイ

可愛いが渋滞してるわね……



『どさくさに紛れて自分を入れる神経の図太さよ……』

『思考が読まれてる!?私のプライバシーは何処よ!!』

『プライバシーってそんな対したものじゃ……』

『お風呂の時は私の胸も見てるんでしょ!?』

『ごめん。足の爪先しか見えなかったから気付かなかった。で、君の胸って何処にあるんだい?』


此奴は言ってはならぬ事を言いおった……

もう泣いて謝っても許されぬぞ……


『許さないってどうするのさ。僕に触れる事も出来ないのに』

『こうするのよ!』


私は今まで生きてきた中で見たグロ画像トップ3を思い出す。


『ひっ!!……』


名もなき声の気配が消えた。

まさか三位で逃げ出すなんてね。

これは中々に使えそうだわ。




ターニャが借りてる部屋に着いた。

中に入ると、質素な家具とベッドがあり、物もきちんと整理されていた。


「見た感じ、禍々しい気配はないわね」

「分かるのですか?」

「ええ、悪夢だから眠らないとダメなのかしら?」

「夢魔の類かもしれませんね」


夢魔とは、人の夢を自在に操る悪魔系の魔物で、眠っている間に人の生気を吸い取ると云われている。


「ターニャ。早速だけど眠ってちょうだい」

「……わ、分かりました」


ターニャは悪夢を見るのが分かっているからか、余り気乗りしない様子。


「抵抗があるならリノアちゃんを抱き枕にすれば良いわ。きっとすぐに眠れる筈よ」

「良くないよ!?」

「……私もお供します」

「それに何の意味があるのさ!?」


と言うことで、一人用のベッドに三人が川の字になって横になる。


「何でこんなことに……」

「リノアちゃん。お姉ちゃんがいるから安心して眠りなさい」

「リノア、狭いです。もう少しターニャ様の方に寄って下さい」

「僕は抱き枕……僕は抱き枕……」


得意技である『思い込み』が発動して、抱きつかれるがまま枕になりきるリノアちゃん。

レイアの時も思ったけど、かなり有能な特技なのではないだろうか。




暫くすると、ターニャの寝息が聞こえてきた。


来たわね……


ベッドの上の空中に転移してきたのは、真っ黒なローブを身に纏った骸骨。

手には体長の二倍はある大きな鎌を持っていた。


『何故、四人も居る?……何だ、貴様は?』

「私はアテナよ。あなたは夢魔なの?」

『あのような下級悪魔と一緒にするな。我は死神。魂を黄泉に案内する神の使徒である』

「なに仰々しい事言ってるのよ。やってることは夢魔と一緒じゃない」

『……殺してやる』


手にした大鎌が振り下ろされるが、セレスの剣が間に入り私に届くことはなかった。


「起きてたのね」

「眠ったのはターニャ様だけですね。リノアは抱き枕と化しております」

『多勢に無勢か。此処は引かせてもらう…………な、何故転移出来ん!?』

「結界で閉じ込めさせてもらったわ。先ずは話を聞かせてちょうだい」

『ふざけるな!こんな結界など、すぐに破壊してくれるわ!』



10分後……


『はあ!はあ!はあ!…………何でも聞くが良い』

『キュイ♪キュ〜イ♪』

「う〜ん。治癒だけじゃ何か物足りないわね。……そうだわ!歌で死者を蘇生すればインパクト抜群よ!」

『キュ、キュイ!?』

「アテナ様、それは流石に何処ぞの研究機関が動き出すかと」

「研究機関は不味いわね。キュイが解剖されて改造竜になってしまうわ」

『キュイ……』


キュイがガタガタと震えていたので、抱き締めて安心させる。

きっと、大勢の前で歌うから緊張してるのね。


『……何をしておるのだ?』

「何って、ドラゴンのキュイが明日路上歌竜デビューするから最終調整中よ」

『……狂人だったか。それより、聞きたい事があるのだろう?』

「そうだったわね。なら単刀直入に聞くわ。…………あなたがターニャのストーカーね!」


短い沈黙の後に死神にビシッと指を突き付ける。

決まったわ。

私の推理にぐうの音も出ないでしょう?


『……そこの女。此奴は馬鹿なのか?』

「アテナ様は馬鹿ではありません。遥か別の次元で本質を捉える事が出来る、崇高な頭脳をお持ちなのです」

「セレスったら、急にどうしたの?そんなに褒めても何も出ないわよ?」

「いえ、主を褒めそやすのは忠臣の義務ですので、お気になさらずとも結構です」

「そう?……で、何の話だったかしら?」

『確かに畏れを感じる程の思考回路だな。逆らわぬ方が賢明か……』

「アテナ様。ターニャ様に悪夢を見せるのは何故なのか?だったかと」

「そうよ!言い訳は必要ないから、真実を語りなさい!」


何故死神がターニャを狙うのか、皆目見当が付かない。

きっと、黒幕がいる筈よ!


『我は契約を遂行しているに過ぎぬ。不審死では調べが入るが、衰弱死ならば足は付かぬからな』

「契約?」


どうやら慎重に暗殺を行う死神らしい。

どんな死神よ……


『うむ。我の他にも大悪魔を数体召喚して、要人暗殺の為に契約していたぞ』

「契約していたって、誰が?」


冒険者ギルドの受付嬢を暗殺する必要がある人なんているの?

ターニャさんは人気があるから、他の受付嬢に嫉妬されてるとかはありそうだけど。


『それは契約上口に出す事が出来ぬ』

「契約を破ったらどうなるの?」

『強制送還だな。まあ、結界に閉じ込められている今、どうなるか見ものではあるが……』

「やってみたら?」

『そうだな。どの道、我を結界から出す気はないのだろう?』

「別に、ターニャにちゃんと謝るなら出してあげても良いわよ。あっ、でも、迷惑掛けたんだから詫びの品くらいあげなさいよね」

『……狂人ではなく変人だったか。良かろう、では契約主を教えてやる。我に暗殺を指示したのは、フィリア・オウル・カナルーア。この国の第一王妃だ』



死神の口からその名が発せられると、部屋の中が静寂に支配された。

まあ、最初から静かなんだけど……


「王妃ってレイアの母親?」

「レイア様の母君は第二王妃ですね」

「ふ〜ん。王様って二人も奥さんがいるのね。私も第三王妃になれないかしら?」

「無理ですね。国が滅んでしまいます」

「もう!私が傾国の美女って言いたいの?セレスったら本当にお世辞が上手なんだから!」

『国が滅ぶ未来が容易に想像できるな……』


その後は何も起きなかったので、死神に詫びを入れさせることにした。

ターニャを起こそうとすると、死神がターニャの額に指を触れる。


『この娘の魂と契りを結んだ。今後、我が迎えに来るまで、娘が寿命以外で死ぬ事は罷りならん』

「それは……」

「どういうこと?」

「ターニャ様は天寿を全うすることが約束されました」

「死神って実は凄かったのね。骨だけってみすぼらし過ぎない?って思って悪かったわ」

『……見た目を変えることは可能だ』


死神は一瞬で暗黒系イケメンに変身した。

えっ?ちょっと待って!

この出会いは必然だったんだわ!

私は即座に三つ指を付いて頭を下げる。


「死神様、不束者ですがどうぞよろしくお願い致します」

『丁重にお断りさせていただこう』

「返事早くない!?ちょっとは悩んでよ!」

『……これが恐怖という感情か。この我が今すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られるとは』


その時、ターニャが目を覚ました。


「……ん。ど、どうなりましたか?……」

「起きたのね。紹介するわ、悪夢の犯人だった死神よ」

『此度は本当にすまなかった。正式に謝罪させてもらう』


ターニャの目が死神を捉えて離さない。


「シニガミ様と仰るんですね。私はターニャと申します。……あっ!飲み物も用意せずに申し訳ありません」

『いや、気にしなくて良い。それより許してもらえるだろうか?』

「シニガミ様を見た瞬間に許しました。あれはもう懐かしい思い出です!」


名乗った後は、目を伏せて頻りに自分の髪を手櫛で直すターニャ。

視線をキョロキョロさせて挙動不審である。

こ、これは……恋する乙女の行動10選の一つ『一目惚れしちゃった!うぅ……見られてて恥ずかしい!』だわ!

だが、そんなターニャに今から残酷な現実を突きつけなければならない。


「ターニャ。死神にはもう会えなくなるわ。諦めなさい」

「えっ?そ、そんな……」

『会えないことはないぞ。何を勝手なことを言っておるのだ?』

「さっき、あなたがそんな風なこと言ってたじゃない」

『迎えと言うのは、我が魂を刈り取るという意味だ。送り迎えのことではない』

「じゃあ、まだいらっしゃるんですね!」

『うむ。どうやら送還もされぬようだし、暫し現し世を楽しむとしよう』


死神に積極的に話しかけるターニャ。

気を引こうとしているのが丸分かりである。

不動のターニャは何処に行っちゃったの!?



結局、死神はターニャの部屋に居候することが決まった。

契約不履行で次の暗殺者が来るかもしれないらしく、事が落ち着くまでは護衛をするそうだ。

ターニャの送り迎えをして、それ以外の時間は自宅警備をしながら家事全般をやっておくとのこと。

ターニャのファンが暴動を起こしそうな内容だが、相手が死神なので本当に何人か逝ってしまうかもしれない。


『短い間だがよろしく頼むぞ』

「一生一緒に居て下さいませんか?」

『一生か……まあ、良かろう。人の寿命は短いからこそ儚くそして美しい。そなたの最期は我が責任を持って看取ってやる』

「シニガミ様……」


しなだれ掛かるターニャを死神はしっかりと抱き止めた。


……は?

はああああああああ!!!???


いやいやいや!

おかしいでしょ!?






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