13話 財宝
「ねえ。ちょっと聞きたいんだけど、バルって親戚はいないの?」
『親戚?ああ、系譜のことか』
「そうそう。例えば竜人族……とか?」
『ドラゴニュートのことだな。だが、人間の血が濃くなりすぎて、竜族とは無関係な者の方が大半の筈だ。隣のベルガ大陸にはまだ我を信奉する集落が残っていたと思うが……』
隣の大陸……
まあ、私が嫁ぐ訳だし距離は関係ないかな。
「その竜人族を紹介して欲しいんだけど」
『紹介?一体何の目的が……』
「旦那探しよ」
『……アテナ程の者が番に恵まれぬとはな。人族の感性は分からぬ』
あら?
良いこと言ってくれるじゃない。
そうよ、私レベルの女を放っておくなんて人間の男共は見る目がないのよ!
『そうだな。今度、信奉者達に顔を見せに行く時に一緒に連れて行ってやる』
「本当?なるべく早い方が良いわ」
『うむ。子供達が長距離飛行出来るようになるまで100年くらいかかるだろうが、期待して待っておくといい』
「…………」
寿命で死んでるよね!?
治癒術で延命したとしても、よぼよぼのお婆ちゃんよ!
『アテナ、愛してるよ』
『あ〜?何だって?最近は耳が遠くていかんのう』
『君はなんて魅力的なんだ』
『はて?どちら様かのう?』
『……もう限界だ。別れよう』
……って、なるでしょうが!!!
「……分かったわ。期待せずに待つわ」
「目に見えて落ち込んでいますわね」
「ぼ、僕が……」
セレスがリノアくんの肩に手を置いて首を横に振っている。
あれって何なのかしら?
やっぱり、婚活は地道に続けていくしかないか……
明日からのことを考えていると、バルがセレスを宝がある場所に案内しようとしていた。
一緒に付いて行くと、子供部屋より奥にその広間はあった。
広間全体を埋め尽くす金銀財宝。
思わず目が点になる。
「……これは王城の宝物庫など足元にも及びませんわね」
「……マジで財宝の山じゃん」
「……す、凄い」
こんなにあるんだから一つくらい私にくれても良くね?などと思っていると、素朴な疑問が浮かんだ。
「どうやって集めてるの?バルの巨体じゃ外に出れないんじゃ……」
『別の場所に外に繋がる縦穴があるのだ。それに『竜魔法』である程度体の伸縮も可能だからな』
「魔法!?まさか、そんな……」
「レイア、急にどうしたの?」
「魔法は、魔術の究極形であり、世界の理を無視した『願望を具現化』するものだと言われています。今代の大賢者でさえ、その一端にすら触れていないと……」
セレスが魔法を使えるようになってるんだけど、物凄く言い出し辛くなったわね。
「これにします」
『ほう。まさかそれを選ぶとはな……』
セレスが財宝の山の中から手に取ったのは、一冊の本。
……本?
バルがどうやって読書するのだろうか?
爪の先を合わせて限りなく慎重に捲っている姿を想像しておかしくなってしまった。
プッ
『今「今笑ったのは誰?」……』
即座にバルの言葉に被せて話の主導権を握る。
真っ先に自分を疑いの対象から外す高等テクニックよ。
「……小賢しいですわ」
「あら?レイア、もしかしてあなたなの?それとも、思わず放屁したとでも言うのかしら?」
「アテナっち、マジさいてー」
「何のことかしら。私は早く放屁した犯人を探したいだけよ」
「「「「…………」」」」
「……分かったわ。今日は私がやったことにしてくれて良い。でも、放屁は恥ずかしいことじゃないの。それだけは心に留めておいてね」
特に意味もない会話を挟めば、事の発端などすぐに忘れてしまうものだ。
「それで、何が面白かったの?」
「そりゃあ、バルが本を読んでる姿を想像したら………あっ……」
皆からジト目で睨まれる。
どうやら、リノアくんは策士だったようだ。
帰りは両手に花の刑に決定よ。
『初めからそう言えばよい。人間とは回りくどい生物だな』
「それで、その本は何なの?こんな野ざらしの所に長時間放置してある保存状態でもないし」
『勇者の付き添いだった賢者と名乗る者が置き忘れていった本だな』
「……まさか、初代賢者ゼルニールの本!?」
またもや、レイアが一人で驚いていた。
「初代賢者?」
「アテナ様達もご存知の筈ですが、王立学園の建物が老朽化しないのは初代賢者の『不朽』の魔法の力だと伝えられています」
「ああ。そんな感じのことを何処かで聞いたわね」
「何で驚かないのですか!?魔法ですよ、魔法!!」
そんなこと言われても……
よく知らないことに驚けというのは無茶振りである。
「そんな!魔法の本だなんて!?良くやったわセレス。その本を売ったら服が買えるわよ!」
「売れる訳がないでしょう!!」
驚いたら怒られてしまった。
一体どうしろと?
「……まあ、セレス様が判断なさることなので、私はもう口出ししませんわ」
「アテナ様、こちらを忠誠の証として献上致します」
「勿体ないですわ!金塊をドブに捨てる行為ですわ!」
しっかりと口出ししてきたレイアを無視して、セレスから本を受け取る。
重いわね……
こんなの持ち運び出来ないじゃない。
「重いからセレスが持ってて。寮に戻ってから読むわ」
「承知しました」
「それって、絶対読まないやつじゃ……」
「……もう何も見なかったことにします」
「アテナっち、マジ勉強嫌いの学生じゃん。ウケる♪」
何とでも言うが良いわ。
私が本気を出したら本の数冊なんて簡単に読破出来ることを証明してあげるわ。
今度、時間がある時にね!
「じゃあ、そろそろ帰るわね」
『ああ。アテナとの会話は良い気晴らしになる。また来るが良い』
「キュウ。帰るわよ!」
キュウに声をかけるが反応がない。
『キュウ!』
『キュア!キュア!』
『キュイ!キュイ!』
キュウは他の二匹に部屋から押し出されようとしていたが、必死に抵抗していた。
「久しぶりに帰って来たから家族から離れたくなくなっちゃったのかしら……じゃあ、キュイちゃんで良いわ。一緒に行きましょ!」
『キュイ!?』
「私がいるから外も怖くないわ。安心してちょうだい」
『また適当に名付けおって……。まあ良い。理不尽とは何かを教える良い機会かもしれんな。キュイよ、しっかり学んで来るのだぞ』
『キュイイイイイイイ!!!』
私はキュイちゃんの首根っこを掴んで持ち上げる。
やっぱり女の子だから大人しいみたい。
女の子よね?
「完全に拉致だね……」
「抵抗する気も失っておりますわ」
「恐らく、キュウから話を聞いたのでしょう」
まだ、キュイちゃんは頭に乗ってくる気配がなかったので脇に抱えて運ぶ。
キュウと違って、キュイちゃんにとっては私は二度顔を見ただけのただの人間だ。
これから徐々に親しくなれたら嬉しいわね。
帰りは前回同様にバルに送ってもらった。
『では、キュイのことよろしく頼むぞ』
「任せて!最強のドラゴンに育てあげるから!」
『……期待せずに待っておくとしよう』
そのまま洞窟を出て、転移陣で王都に戻った。
「無事で良かったわ〜。あら、行く時と違うドラゴンじゃない?」
「キュイ、人族には挨拶と言うものがあるの。あのお姉さんに初めましてって言ってみて」
『キュイ……』
キュイは顔を下げたまま弱々しい声で鳴いた。
「まだ緊張しているのかしら?慣れていくしかないわね」
「これから先何が起こるのか、不安で押し潰されそうになっているのかと」
「そうなの?キュイ、何も心配せずに好きなようにやると良いわ。私が責任を取るわ」
『キュ、キュイ!』
「ほ、本当!って、私は嘘は付かないから信じて良いわよ」
「か、帰りたい!だと思うけど……」
「流れるように嘘が出て来ましたわ」
ニアさんがキュイを抱きたいとお願いしてきたので、思う存分堪能してもらった。
転移を牛耳っているニアさんとの関係は良好にしておくべきだろう。
キュイを脇に抱えて、冒険者ギルドに向かう。
リノアくんには両手に花の刑を執行中だ。
「リノア、背筋を伸ばしなさい。顎を引いてしっかりと前を向くのです」
「殿方と腕を組んで歩くのは夢でしたの。嬉しいですわ」
「リノアくんの照れ顔マジで凶器だわ……」
「ぼ、僕、何かやったっけ!?」
「リノアくん、無自覚は大罪よ。己の行動を鑑みて反省なさい」
「「「……………」」」
何故か皆が無言になる。
恐らく、私の言葉が胸に響いたに違いない。
冒険者ギルドに着いたので、早速受付に帰還の報告を行う。
「おかえりなさい。皆さん無事で良かったです」
受付嬢のターニャさん。
冒険者ギルドにおいて、常に優しい笑顔を振り撒く荒くれ者達のオアシスのような存在だ。
冒険者間の人気投票でも不動の一位らしく、求婚やデートのお誘いが後を断たないらしい。
……羨ましいわね。
そして、言い寄る相手をバッサリと切り捨てても、微笑んだまま微動だにしない姿から付いた二つ名が『不動のターニャ』。
最早、カッコいいまである。
「ターニャさんは結婚しないんですか?」
「きゅ、急に何を言い出すんですか!?」
「いえ、同性から見ても魅力的だし、男性からの人気もあるのに何でかなと……」
ふと、ギルド内が静まり返っていることに気付いた。
流石は不動のターニャ。
皆が気になっていることのようだ。
「私は、冒険者の方々を笑顔でお見送りとお出迎えするこの受付嬢という職業を天職だと思っています。特定の相手とお付き合いすることで、皆様の期待に応えられなくなるのならば、生涯独身でも構いません!」
ぷ、プロだわ!
私の浅はかな質問が何て俗物的だったかを思い知らされた。
「……負けました。お詫びにこれを受け取って下さい」
私はセレスから本を受け取って、ターニャさんに渡した。
すると、間髪入れずにレイアが横から本を引ったくった。
「あなた、お馬鹿ですの!?」
「だって、売れないって言うから……」
「譲渡も禁止です!」
じゃあ、どうすればいいの?
最初にセレスから受け取った時にチラッと捲ったけど、文字がいっぱいで無理だったのよ!
「この本は生理的に受け付けないの!きっと、呪われてるわ!」
「アテナ様は解呪が得意なのでは?」
「……解呪?」
ターニャさんが食い付いて来た。
論点ずらしのチャンスよ!
「はい。私の治癒術は蘇生と解呪も含まれています」
「ほ、本当ですか!?」
何やら訳ありっぽい?
「何かお困りなら、詳しく話を聞きますけど?」
「ぜ、是非!……あっ。明日がお休みなので、放課後にでも」
ターニャさんが身を乗り出してきた。
近付いたその愛嬌がある可愛い顔を見ていると、僅かに化粧で隠しきれていない目のクマを発見した。
「分かりました。それと、今気付いたのですが、もしかして余り眠れていないのでは?自動結界と治癒術を使ったので、今日はぐっすり眠って下さい」
「あっ……。ありがとうございます!あと、私に敬語は不要なので、いつも通りに話されて結構ですよ」
……ちょっと待って。
言葉を選んでいるようだが、今態々そんな事言う必要ある?
もしかして、本当に私の敬語には人を不快にさせる何かがあると言うの?
「分かったわ。これで良い?」
「ありがとうございます。では、帰還報告を受理致しました。……明日はよろしくお願いします」
冒険者ギルドを後にした。
「私の敬語って呪われてるのかな?」
「……斬新な呪いですわね」
「アテナ様に敬語を使わせまいとする神の粋な計らいかと」
「どんな神様よ……」
『キュイ!』
キュイが一鳴きして私の頭に移動した。
「あら?心を開いてくれたのかしら?」
「きっと、今までのやり取りを見て警戒心を解いてくれたんだよ!」
今までの何処に警戒心を解くような要素があったのだろうか……
「きっと、すぐに絶望に変わりますわ」
「レイア、それはマジ酷くね?」
レイナの言う通り、言って良い事と悪い事があるわよ!
「キュイ、そこの金髪のお姉ちゃんは危険だから近付いたらダメよ」
『キュイ?』
「最初から気付いてる?流石はキュイね。危険察知能力が優れてるわ!」
「何で?とかだと思うけど……ひぃ!?」
「……………」
レイアに物凄い形相で睨まれていたのだが、普段から人に睨まれ慣れている私は、その視線に気付かなかった。
そして、レイアは家出した……




