12話 転移屋
今日は学園が休みなので、予定通りバルに会いに行くことにした。
『キュウ♪キュウ♪』
「キュウも凄く嬉しそうだね」
「ドラゴンとはいえまだ幼竜。本来は巣の中で育つ時期なのではないかと」
そう言えば、巣には他にも二匹の子供がいた。
元気にしてると良いけど。
「キュウ。私が完璧な親代わりだったことをバルにアピールするのよ。竜人族を紹介してもらうんだから」
『……キュウ』
「私利私欲に塗れておりますわね」
「アテナっち、マジ毒親じゃん」
所詮は仮親なので、毒親と言われても仕方ない。
キュウに狩りのやり方や飛び方を教えることは出来ないのだから……
「無力なダメ親だと思ってくれていいわ。でも、キュウは私の子供よ」
『キュウ!』
「ダメじゃない!って言ってくれるのね。ありがとう……」
感極まってキュウを抱きしめる。
何で嫌がってるのよ!大人しくしなさい!
「……本当に都合が良すぎる耳ですわね」
「それで、今は何処に向かってるの?」
「転移屋よ。ダンジョンの場所を知らないから、転移じゃないと辿り着けないわ」
「……ラクスさん達いないけど大丈夫?」
「そう言えば、値段見てなかったわね……」
一抹どころではない不安を抱えながら転移屋に着いた。
「ごめんくださーい!」
「あら?あなた達はこの前の……」
出迎えてくれたのは、露出狂の……じゃなくて、店主のニアさん。
この前は露出具合にしか目が行かなかったが、身に付けている装飾品も高そうな物ばかりだ。
「今日はどうしたの〜?ラクス達も居ないみたいだけど?」
間延びした独特の声と不敵な笑み。
この仕草で数々の男を虜にしてきたに違いない。
その一挙手一投足をじっと観察していると、目が合ってしまった。
「お嬢ちゃん?」
「あ、あの!転移を使いたくて来ました」
「お嬢ちゃん達が?う〜ん。お金足りるかな〜」
「因みに、お幾らですか?」
ニアさんから提示された金額は、入学費用の約五倍。
私が実家でやっていた小遣い稼ぎの数年分だった……
「キュウ、ごめんね。ダンジョンに辿り着くことさえ出来ない私を許して………チラッ」
『キュウ……』
「同情を買おうとしてもダメよ〜。こっちも商売だから、前例を作る訳にはいかないの」
「こうなったら、最後の手段よ!リノアくんを担保にするわ!」
「ごめんね〜。私、年上派なの♪」
「そ、そんな!!」
「それは僕の台詞だよ……」
私は膝から崩れ落ちた。
まさか、年上派だったなんて!
もう、学園長を担保にするしか……
「……その転移は王族なら使えるのでしょうか?」
「ええ。そもそも、代金を後から請求してるだけ〜……って、第三王女!?」
妖艶なニアさんの貴重な驚く顔が見れた。
じゃなくて!!
「やっぱり、持つべきものは王族の友達ね!」
「一気に低俗な言葉になりましたわ」
「……お嬢ちゃん何者なの?」
転移問題も解決して無事にダンジョンに辿り着いた。
「レイアのおかげよ。明日の昼御飯のおかずを一品あげるわ」
「いえ。アテナ様はまだ成長途中なので、私の分で良いでしょうか?」
「……ええ。どっちでも良いですわ」
「アテナさん、等価交換って知ってる?」
ダンジョンの入口に立った。
「このダンジョンの先駆者として、私が今日の作戦を伝えるわ」
「マジで本格的じゃん!」
「キュウしか道が分からないから、キュウが先頭ね。魔物は私が全部結界に閉じ込めるから心配いらないわ」
「作戦と呼ぶのもおこがましいですわね……」
勝手に意気消沈しているレイア達を余所に、キュウが待ち切れずに中に飛んで行ってしまった。
「先頭って言ったのに!言葉が通じてないのかしら?」
「アテナさんにだけは言われたくないと思うよ……」
「私が追従致します!」
セレスがキュウを追って駆ける。
あっという間に見えなくなった……
「……先程は、おこがましいなどと言ってしまい申し訳ありません。堅実な作戦でしたわ」
「まあ、何とかなるでしょ。私達も行くわよ!」
こうして、二度目のダンジョン探索が始まった。
『グオオオオオオオ!!!』
『ギャア!ギャア!!』
前回と同様に、道中で出会った魔物を結界に閉じ込めて進んで行く。
「マジ魔物じゃん!怖え〜♪」
「アテナ様は本当にデタラメですわね」
「アテナさんが居なかったらすぐに食べられてるよ……」
リノアくんが私の腕にくっついている。
……逆なのでは?
「あっ!見つけたわ!」
前方で、セレスと角が生えた大男が戦っていた。
地面を抉る程の剛腕から繰り出される攻撃をセレスが華麗に躱していく。
「セレス、大丈夫!?」
「申し訳ありません。すぐに終わらせますので」
振り抜かれた腕と体を入れ替えて一瞬で接近し、胸部に強烈な一撃を叩き込むと、大男は仰向けに倒れて絶命した。
「セレス姐さん、マジカッコいい!」
「華麗な剣技ですわね。技量も最高峰に近い」
「憧れるなぁ」
「……………」
このリアクションの違いは何なの?
私、めちゃくちゃ活躍してると思いますけど!?
……まあ、良いわ。
そんなことより、キュウは何処に……
『キューーーーウ!!!』
キュウの叫び声!?
急いで声がした方に向かうと、キュウは洞窟の溝に挟まってじたばたと藻掻いていた。
「……キュウ、幾ら嬉しいからって、こんな所で遊んだらダメよ」
『キュウ!』
「もう、強がっちゃって♪魔物にお尻齧られたらどうする、の!」
『キュ!!?………』
軽いイタズラのつもりでキュウのお尻を鷲掴みにすると、齧られたと勘違いしたのか、驚いてそのまま気絶してしまった。
「……弱すぎるわね。育て方を間違ったかしら」
だが、気絶した事で体の力が抜けたのか、キュウを溝から難なく取り出す事が出来た。
「あら?何か光ってるわね」
その時、視界の隅で何かが煌めいた。溝に入り込んでいたので、手を伸ばして取ってみる。
「指輪?キュウはこれを取ろうとしてたのかな?」
「ドラゴンは光り物を集める習性があるので、間違いないかと」
小さな宝石が付いた指輪だ。
シンプルなデザインで普段使いしても良さそう。
「キュウったら、私に対する日頃の感謝を形にしたかったのね」
「……そうですね。有り難く受け取るべきでしょう」
ピコーン!!!
物凄い事を閃いてしまった!
「じゃあ、私からセレスに日頃感謝を込めてこれを贈るわ」
「あ、アテナ様!?」
「私とあなたの親密さを周りに知らしめるために、左手の薬指にしておくわね」
「アテナ様……」
セレスは気付いていないようね。
これで、セレスには『既婚女性』のテハブがかかる筈よ!
セレスの指輪を見てアプローチを諦めた殿方が、私でも良いかってなる筈だわ!
……それはそれで何か嫌ね。
あげてしまった手前、何も言い出せなくなっていると、セレスは私の前に跪いた。
「改めて、私はアテナ様に一生の忠誠を誓います!」
「絶対にやめてちょうだい!」
キュウも起きて全員揃ったので、探索を再開する。
お尻を鷲掴みにされたのが相当ショックだったのか、キュウはリノアくんに抱かれてキュウキュウと泣いていた。
このままでは、最弱のドラゴンに育ってしまうかもしれない。
「帰ったら指輪を調べた方が良いかもしれませんわ」
「宝石も小さいしそんなに高価じゃないと思うけど?」
「ダンジョン産の物品には特別な効果が備わっている場合があるのです。それらは国に献上されたり、法外な値段でやり取りされる事もあります。高ランク冒険者の優遇措置も献上品目当てで始まったのだとか」
「ふ〜ん」
その時、頭の中にいつもの声が……
来たわね!
『その指輪はヤバイよ』
『名もなき声様!来てくれると信じておりましたわ!』
『名もなき声って……まあ良いや。それより、あれは『魔女の指輪』なんだ』
『……セレスが美魔女になるってこと?』
『ならないよ!?』
『今でも危ういのに、大人の色気まで手にしたらもう手がつけられなくなるわ!』
『だから違うって!』
既婚女性+美魔女=美人妻バイアスが掛かってしまう!
幅広い年齢層を虜にする傾国の美女が誕生よ!
『聖女の奇蹟に匹敵する『魔法』が使えるようになるし、使い魔を使役出来るんだ。老いも緩やかになって寿命が延びるから、本人には伝えておいた方が良いよ』
『名声様!そんな事より、私の願いを聞いて下さいませんか?』
『……僕の話は聞かないのに、聞くわけないだろ』
不味い……
この前と同じように拗ねちゃってるわ。
でも、正直セレスが魔女になろうが何も変わらない気がするので、此方の方を優先してもらうわよ!
『ふ〜ん。そんな態度取っても良いのかしら?』
『な、何だよ』
『私、以前のあなたの発言で気付いたことがあるの』
『気付いたこと?』
『私とあなたって視界が繫がってるわよね?』
『そうだね。筆記試験の話もしたしね』
語るに落ちたわね、自ら退路を絶つとは……
『あなた………セレスの裸見たでしょ?』
『……見てないよ』
『即答出来なかった時点で黒よ!白状なさい!』
『不可抗力だったんだ!それに、余りにも美しくて……』
『私の頭の中に覗き魔が居るって、セレスに言い付けるわよ!』
『やめてくれ!わ、分かった。協力するよ』
『言質は取ったわ。反故にすれば……分かるわよね?』
『う、うう……出来心だったんだ……』
『罪人は皆そう言うのよ。諦めなさい!オーッホッホッホ!!』
『ぐぬぬ……』
ふう。これで定期試験は何とかなるわね。
後顧の憂いも断ったし、後は竜人族の紹介を……
『キュウ!キュウ!』
「アテナさん、キュウがこの場所をくるくる飛び回ってるんだけど」
え〜っと、あの時は確か罠を踏んで転移したのよね。
「じゃあ、皆で一緒に罠を踏みしょうか!」
転移すると、洞窟の中でもかなり開けた場所に立っていた。
奥に行くとバル達の住処がある。
目の前には見上げる程の巨躯。
漆黒の竜の深紅の瞳が此方を睨んでいた。
『矮小な人間が……何だ、アテナか。警戒して威圧してしまったぞ』
「バルなら威圧しなくても大丈夫じゃない?」
『子の前では威厳を見せたいものなのだ』
『キューーーウ!!!』
『おお、キュウか。まだ数日だが、見違え……てはおらぬな。逆に体が弛んでいるように見えるぞ』
『キュ!?』
そりゃあ、運動もせずに食っちゃ寝してたからね。
学園長からは『キュウに関することは全て些事』との許可をもらっているので、大食堂の料理を大量に与えていたのだ。
餌代が無いのだから仕方ない。
「そうそう。バルに紹介するわ。セレスとレイアとリノアくんよ」
皆の名前を呼んだが反応がない。
振り返ると、レイアとリノアくんは気絶しており、セレスも膝を地面に付けて苦しそうにしていた。
『まさか、我が『竜圧』に耐える人間がいようとはな。アテナは例外だが、勇者以来かもしれん』
「……アテナ様、申し訳ありません」
「何に謝ってるのよ。バルが強いだけだから気にしなくて良いわ」
「……ありがとうございます」
『このような強き者と会うのは久方ぶりだ。詫びとして我が宝を一つ持って行け』
「……私は!?」
「アテナは例外だ」
解せぬ!
私、最初食べられそうになってたよね!?
先ずは、それを詫びなさいよ!
そのことを問い正したのだが、『例外』の一言で片付けられてしまった。
『それで、今日は何用で来たのだ?』
明確に話を逸らしてきたが、本来の目的を達成するまでは揉める訳にはいかない。
「キュウの成長を見せに来たのよ。さあ、人間をイチコロにするあなたの特技を見せてあげなさい!」
『おお!』
『キュウ!キュ〜ウ♪キュ〜ウ♪』
私の頭から飛び降りたキュウは軽快に踊り始めた。
良い仕上がりね。
キュウのダンスが世界を制する日も近いわ。
キュウは最後に決めポーズをしてダンスを終わらせた。
「どうかしら?まだ荒削りな所はあるけど、将来は大物になるわよ」
『…………我は幻を見ているのか?』
「親の目から見てもそう見えるのね。実際に冒険者達には好評だったわ」
大口を開けて驚くバル。
それにしても凄い数の歯だわ。
『……いや、アテナに預けたのは我の判断。責任は我にあるだろう』
「キュウを強くしようと思ってたんだけど、いつの間にか路線変更してたの。人々から愛されるアイドルドラゴンを目指すつもりよ」
『これも運命か……』
何故か諦めた表情のバルを見ていると、奥から二匹の幼竜が現れた。
「あっ!良かった。二匹とも元気みたいね」
『キューーーウ!』
二匹に飛びつくキュウ。
再会の嬉しさからキュウは涙を流していた。
「そうだわ!三匹でユニットを結成よ!」
『絶対にやめてくれ……』
バルにセレスを紹介していると、レイアとリノアくんも目を覚ました。
「は、初めまして!リノアと言います。」
「レイアと申しますわ。アテナ様のお知り合いと聞いていたので、完全に油断しておりました」
「マジでラスボスじゃん……」
『うむ。我の名はバルガンディス。アテナに敗れ己の未熟さに気付いた愚かな堕竜だ』
「バルの悪い癖ね。『自虐竜』って二つ名を付けるわよ」
「ほう。それは良い戒めになリそうだな♪」
「「「…………」」」
バルの笑い声は豪快過ぎて大気が揺れた。
良し!
雰囲気が和らいだ所で本題に行くわよ!




