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我が身に宿るは高潔なる聖者の魂。だが、深層から陰の者がこちらを覗き見ている!  作者: キケス


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11話 聖女

「私は聖女マルーテ。神託により異端者を断罪に参りました」

「治癒術と結界術を使う者が居るとの報告を受けて参った次第だ!教会で保護させてもらう!」


何で真反対のことを騎士が言い直してるのかしら?

私に皆の視線が集中した。

まあ、特に隠してないから知れ渡っていてもおかしくはない。

それにしても、聖女は本当に綺麗だ。

容姿が整っているだけでなく、全身が真っ白で瞳だけが深紅色。

どこか病的で儚げさまで感じてしまう。


「私に何か用かしら?」

「我等が信仰する神アシュヌからのお告げがありました。『アミスの仇を取れ』と……」

「出来れば同行してもらえると助かる。先ずは話を聞かせて頂きたい」


好戦的な聖女と常識的な騎士。

バランスは取れてるっぽい?


「騎士の人はまともそうだから良いわよ。向かいのカフェにしましょうか?奢ってくれるならだけど」

「あなた達に拒否権はない。抵抗せずに捕縛されなさい」

「それは勿論構わない。怪しまれる事が殆どだから、物凄く助かる」


そんなこんなで、カフェに移動する。

聖女がリノアくんに抱かれたキュウをじっと見ている。


「抱いてみる?」

「私は聖女。この身は魔を祓う特別な存在よ。穢れを近付けないで」

「残念ね、キュウの抱き心地は最高なんだけど。じゃあ、リノアくんが代わりになるわ」

「ならないよ!?聖女様だって困るに決まってるよ」

「……分かった」

「ほら、分かったって……分かった!?」



と言う訳で、カフェの席に付いたのだが、聖女を椅子にして座るリノアくん。

恐らく、前代未聞である。


「どうかしら?悪くないと思うんだけど?」

「ええ。この子を私の抱き枕にするわ」

「うう……。セレスさん、助けて」

「リノア、あなたは今キュウの代わりなのです。その大役、見事果たしてみせなさい」

「そ、そんな……」


雰囲気が柔らかくなった所で互いに自己紹介を済ませる。

ふ〜ん。アレクって言う名前なんだ。

特に意味はないけど、騎士然としたキリッとした表情と笑う時の少年のようなあどけない表情のギャップが印象的な好青年だ。

こんな人に忠誠を誓われたら、誓いまくっちゃうかもしれない。

特に意味はないけどね。


「話は分かったわ。アレクが私に生涯の忠誠を誓ってくれるなら教会に入会しましょう」

「まだ何も話してないんだが……」

「アレク、聖王国の為です。さあ、生涯の契りを交わすのです」

「……すまない。誰か普通に話が出来る者は居ないか?」

「では、私が……」

「この国の第三王女が何故このような所に居るのかは存じ上げませんが、話が変わってくるので却下致します」


じゃあ、誰もいないじゃない。

いや、私は普通よ!


暫く流れた沈黙をアレクが破った。


「……誠に不本意だが、このまま話を進めさせてもらう。アテナ嬢、貴女が治癒術と結界術を使えるというのは事実か?」

「ええ。返事一つで貴方専属よ。蘇生も出来るから、私が死ぬまでずっと一緒ね」

「……蘇生は聖女様にのみ許された奇蹟の力。聖王国ではその言葉を発した時点で罪人です」

「知る由もない事に罪を着せれるなら、何人も後出しで罪人に出来ますわね」

「私は罪人でも構わないわよ。さあ、アレク様。私を牢獄から救い出して!」

「……この際、王女様で構いません。あちらで二人で話せませんか?」

「分かりましたわ」


ハブられてしまった……

ちょっと露骨にアピールし過ぎたかしら?


「重い女と思われたかしら」

「どちらかと言うと変な女かと」

「じゃあ、大丈夫ね」

「それで良いんだ……」

『キュウ……』


リノアくんとキュウから、また憐れみの目を向けられてしまった。


「リノアくん。『変な女』は言い換えれば『ちょっと変わったミステリアスな女』ってことよ」

「ポジティブ過ぎる!」

「リノア。アテナ様の頭の中はポジティブ思考以外を有しておりません。慣れるしかないのです」

「もう、そんなに褒めても何も出ないわよ?」

「分かった。慣れるよ……」


ふと気付くと、聖女が私を見ていた。


「マルちゃん、どうしたの?お腹空いた?」

「どうしてそんなに楽しそうなの?私は使いたくもない治癒術を強制されてるのに……」

「じゃあ、使わなければいいじゃない?」

「そんな事をしたら折檻を受けるわ。痛いからやるしかないの」


あらら。

結局、教会ってそういう感じなのね。


「分かった。今、マルちゃんに自動結界を張ったわ。害意から完全に守ってくれるから、もう少し自分に我儘になってみたら?」

「……気休めね。自動結界なんて一度発動すれば消えてしまうわ」

「私の結界は、私が死ぬか結界を解かない限り消えないわよ」

「嘘でしょう?そんなの私でも無理……」


中々信じてもらえないので、セレスに剣でマルちゃんを暫く突き続けてもらうが、結界が都度発動してその身に届くことはなかった。


「……あはっ♪あはははははは!!!これでやっとあのタヌキ爺達に怯えなくて済むのね!」


急に高笑いするのでびっくりした……

アレクも何事かと此方に戻って来る。


「聖女様、どうなさったのですか?」

「最高よ……最高の気分よ!爺共の世話なんてクソ喰らえだった!嬉しそうに鞭を振るう姿には怖気がしたわ!」

「聖女様……」

「そうだ!兵を募って教会を乗っ取るべきね!これこそが本当の神の思し召しよ!私怨に塗れた神託する奴なんて神でも何でもない!」


神の話が出てきたので、今日の昼に襲撃してきた邪霊の話をしてあげた。


「やっぱりそうだったのね!私はあんな神モドキにずっと騙されて……」

「聖女様に何をしたんですか!?」

「いや、自動結界を……」

「アレク、あなたを英雄にしてあげる!教会を奪取した後は筆頭聖騎士の地位も約束するわ!」

「……英雄……筆頭聖騎士……」

「アテナ、ありがとう!この恩は絶対に忘れないから!」


マルちゃんはアレクの手を引いて、転移屋がある建物の方に駆けて行った。


「……レイア達の話は終わってたの?」

「はい。たった今、全部無に帰しましたが」

「アテナっちって、マジで面白いわ♪」


その後、冒険者ギルドに入り直して、ダンジョン探索の予約を取った。

明らかに新人パーティーの筈なのだが、特に咎められる事もなかった。



「まだ門限まで時間あるから、リノアくんのお母さんに会って行きましょうか」

「本当!?母さんも喜ぶよ!」

「リノア、食材は足りていますか?」

「うん。まだ大丈夫だよ」



目の前に現れたのは、前に一度見た一軒家。

外観はボロボロのままだが、死臭は消え日の光が当たってとても良い感じだ。



「ふっ!ふっ!」


リノアくんの家に入ると、片手逆立ち腕立て伏せをするステラさんの姿が目に入った。

サプライズ訪問は間違っていたかもしれない。


私達と目が合ったステラさんは、無言で腕立てを止めて服装を整えて布団に入る。


「……あら?リノア、おかえりなさい。随分早かったのね」

「見ちゃったから無理だよ!?母さん、何してるんだよ!」

「何って鍛錬に決まってるでしょ。早く稼げるようにならないとね」


まあ、怪我も病も呪いも消えたので体力を戻せば完全に健康体ではあるが……


「ステラさん、元気してる?」

「母さん、アテナさんがお見舞いに来てくれたんだ」

「アテナ様、セレス様、態々ご足労頂きありがとうございます。おかげで大分動けるようになりました」


横になって病み上がりを装ってはいるが、片手逆立ち腕立て伏せは大分の域を超えている気がする。


「それで、そちらの方は……」

「お初にお目にかかります。リノア様に報酬として捧げられたレイアと申します。末永くよろしくお願い致しますわ」

「レイアって……確か第三王女の名前も……まさか!?ご、ご無礼をお許し下さい!」


ステラさんが膝を付き頭を下げる。


「別に畏まる必要はありませんわ。将来、義母になるお方ですから」

「それはどういう……」


ステラさんに一連の流れを説明した。


「……やっぱり、おかしいと思う!」

「何もおかしくはないわ。レイアは正当な報酬よ」

「息子が慕われるのに悪い気はしませんが、王城には余り良い印象がなく……」

「そう言えば、宮廷魔術師団の団長が不審死していましたわね。詳しい話をお聞きしても?」


ステラさんは言葉を詰まらせながら語った。

要約すると、ステラさんは学園の卒業生で、宮廷魔術師団の団長だったシルエとは同学年で良きライバルだったらしい。

だが、定期試験でずっと一位だったステラさんに対して、シルエはずっと二位にしかなれずやっかんでいただろうとのこと。

その後、学園を卒業し宮廷魔術師団の養成所に入った二人だったが、注目を浴びるのはステラさんだけで、シルエは全く日の目を浴びなかった。

恨みがましい目を向けられたのも一度ではなかったらしい。

だが、決定的だったのがシルエが好意を持っていた殿方がステラさんに惚れてしまったこと。

ステラさんはその事を知らなかったので、猛アタックを受けた末に無事落とされてしまい、リノアくんを授かった。

そこまでは幸せを謳歌していたのだが、夫が突然な不審死を遂げてしまい親一人子一人の状態になってしまう。

宮廷魔術師団を諦め、冒険者になって日銭を稼ぐ日々。

その頃から体調が悪くなり、依頼で大きな失敗をしてしまった。

命は助かったが、片目と片腕を無くしてしまい絶望する。

それでも、リノアくんのために気力で体を動かして細々と暮らして来たのだとか。



静かになった室内。

涙目のリノアくんが口を開いた。


「……母さん。僕を育ててくれて本当にありがとう」

「リノア……。あなたはあの人との大切な絆なの。例えこの体が朽ち果てようとも必ず育てあげると、あの人が死んだ時に誓ったのよ」

「母さん!!!」

「リノア!」


二人は涙を流しながら抱き合う。

感動の場面を脇で見ながら、私は戦々恐々としていた。


「リノア。アテナ様に出会えて本当に良かったですね」

「うん!アテナさんは僕の女神だよ!」

『キュウ〜♪』

「そうだね。キュウにも会えたしね」

「あらあら。これでは私が入る隙間がありませんね」

「まあ、アテナっちはマジで凄いからしょうがないでしょ」

「……アテナ様、震えておられますが、どうかなされましたか?」


セレスが私の変化に気付いて声をかけてきた。


「……定期試験があるなんて聞いてないわよ!」


不味い、不味いわ!

このままではどう考えても0点の再臨よ!

頭の中の声だけが頼りだが、前に呆れられてから全く音沙汰がない。

次は、お世辞で機嫌を良くして、ひたすら懇願するしかないわね。


「アテナ様なら大丈夫です!」

「その大丈夫の根拠は何!?口先だけの信頼なんて要らないわ!」

「アテナっちがマジで勉強すれば良いだけじゃん」

「正論はなしよ!」

「どうしようもありませんわ」

「諦めないで!?」


自業自得を棚に上げて責任転嫁を図っていると、キュウがふよふよと飛んで来て、私の肩にポンと前足を置いた。


『キュウ!』 

「死ね!って酷すぎない!?」

「絶対そんな事言ってないよ……」

「今日は一段と面倒くさ……情緒がおかしいですね」

「そこ、言い直せてないわよ!」


定期試験の対策を本気で考えないといけない。

皆の叡智を集結させれば何か思いつく筈よ!



「本当に凄い方ね……」

「うん。でも、そんなアテナさんの力になりたいんだ」

「頑張りなさい」

「うん」


勿論、リノアくんからの熱い視線には気付かなかった……







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