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魔力詰まりは万病の元 〜回復魔法で治らない「身体の重だるさ」を、不遇の鍼灸師が針一本で調律する。魔力のコリを解したら、最強の戦乙女や聖女に懐かれました〜  作者: 夜凪レン
第3章 東方刺客・霊脈編

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第28話 国立調律院の改革。――今日から全国民、ラジオ体操の時間だ

「……はぁ、はぁ……。あ、足が、足が勝手に……ッ!」

「背筋を伸ばせ! 呼吸を止めるな! これは王国の存亡を懸けた『魔力循環演武』だぞ!」


 王宮前広場。そこには、王国が誇る近衛騎士団、そして魔導師たちの精鋭数百名が、一糸乱れぬ動き(?)で奇妙な運動を繰り広げていた。

 先頭で竹刀を片手に檄を飛ばしているのは、運動指導官に就任したエルフリーデだ。


「……レン。これ、本当に効果があるのか? 傍から見ると、ただ腕を振り回して跳ねているだけにしか見えないが……」


 ガウェインが隣で眉をひそめながら尋ねる。

 レンは縁側でリセッテが淹れたお茶を啜りながら、満足げに頷いた。


「ガウェインさん。これを侮っちゃいけない。……リセッテ、同期率の計算結果は?」


「はい! 出ました。……数百人が同じリズムで、同じ関節を動かすことで、空間全体の魔力振動が一定の周波数に固定されています。……これです!」


$$ S = \sum_{i=1}^{n} (M_i \cdot \omega_i) \cdot \cos(\theta_i - \phi) $$


($S$:空間同期強度、$M$:個人の魔力量、$\omega$:運動の周波数、$\theta - \phi$:位相のズレ)


「位相のズレがゼロに近づくほど、周囲の魔力は『整流』される。……名付けて、『王立ラジオ体操第一』だ」


「ラ、ラジオタイソウ……? 恐ろしい魔導術の名だ……」

 ガウェインが戦慄する。


 かつて、魔法医たちは「魔力は注ぎ込むもの」だと教えていた。

 だが、レンは教えた。

 「魔力は、自分の体を動かして循環させるものだ」と。


「腕を前から上にあげて、大きく背を反らす運動! はい、吸ってー、吐いてー!」


 セラフィナの澄んだ声が広場に響く。

 彼女の誘導に従い、騎士たちが大きく胸を開く。

 その瞬間、彼らが長年の重装備でガチガチに固めていた『大椎だいつい』や『雲門うんもん』のツボが強制的に開放され、滞っていた魔力が爆発的に全身を駆け巡った。


「な……なんだ、この爽快感は!? 身体が勝手に軽くなっていく……!」

「魔法を使わずに、これほどまでに魔力が滾るなんて……。これこそが失われた古代の強化儀式か!」


 騎士たちの間で、感動の嵐が巻き起こる。

 昨日まで「針治療なんて野蛮だ」と鼻で笑っていた魔導師たちまでもが、今や「深呼吸」の多幸感に酔いしれ、一心不乱に腕を回している。


「……よし。これで王都全体の『魔力平均血圧』は下がるはずだ。……リセッテ、次は各家庭に『乾布摩擦』の普及用リーフレットを配るぞ」


「了解です、所長! 紙の魔導定着率も計算済みです!」


 国立調律院の改革は、留まることを知らない。

 ポーションへの依存を断ち切り、自らの肉体を自らで調律する。

 その「養生」の精神は、最強の騎士団から始まり、やがて王都の路地裏の子供たちにまで浸透していった。


 ――だが。

 王都全体が「トトノイ」の熱狂に包まれる中、レンはふと、北の空を見上げた。


「……空気が、薄くなってるな」


 土地が潤い、人々が健康になる一方で、世界のどこか一箇所に『歪み』が凝縮され始めている。

 それは、ヤクモが仕掛けた最終工程。

 

 世界そのものを巨大な『コリ』に変え、限界まで引き絞った後に「切除」しようとする、狂気の外科手術の予兆だった。


「……そろそろ、決着をつけに行かなきゃダメかな」


 レンは銀針を一本、太陽にかざした。

 

 国立調律院の平和な朝。

 それは、世界を救うための「最後の一刺し」に向けた、嵐の前の静けさだった。

第28話、お読みいただきありがとうございました!

「ラジオ体操」が伝説の強化儀式として扱われる、なろう的勘違いコメディ回。

身体を動かすことの重要性を、魔力循環のロジックで肯定するのがレン流です。


平和な内政描写の裏で、ついにヤクモの最終計画が動き出します。

ヤクモの狙いは、個人の殺害でも国家の転覆でもなく、世界の「外科的選別」。

次話、その全貌が明かされ、レンたちは最後の旅路へと立ち上がります。


「ラジオ体操の数式化、笑った!」

「エルフリーデのスパルタ指導が似合いすぎる」

「ヤクモの言っていた『切除』が不穏……」


と思ってくださった皆様。

ぜひ【ブックマーク】と、最高評価の【ポイント(★★★★★)】をお願いします!

皆様の応援が、レンの針に「世界のコリ」を穿つ力を与えます。


次回、第29話「世界の『急所』。――極北の聖樹に眠る、巨大な黒針」。

物語は最終決戦の地へ。お楽しみに!

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