第28話 国立調律院の改革。――今日から全国民、ラジオ体操の時間だ
「……はぁ、はぁ……。あ、足が、足が勝手に……ッ!」
「背筋を伸ばせ! 呼吸を止めるな! これは王国の存亡を懸けた『魔力循環演武』だぞ!」
王宮前広場。そこには、王国が誇る近衛騎士団、そして魔導師たちの精鋭数百名が、一糸乱れぬ動き(?)で奇妙な運動を繰り広げていた。
先頭で竹刀を片手に檄を飛ばしているのは、運動指導官に就任したエルフリーデだ。
「……レン。これ、本当に効果があるのか? 傍から見ると、ただ腕を振り回して跳ねているだけにしか見えないが……」
ガウェインが隣で眉をひそめながら尋ねる。
レンは縁側でリセッテが淹れたお茶を啜りながら、満足げに頷いた。
「ガウェインさん。これを侮っちゃいけない。……リセッテ、同期率の計算結果は?」
「はい! 出ました。……数百人が同じリズムで、同じ関節を動かすことで、空間全体の魔力振動が一定の周波数に固定されています。……これです!」
$$ S = \sum_{i=1}^{n} (M_i \cdot \omega_i) \cdot \cos(\theta_i - \phi) $$
($S$:空間同期強度、$M$:個人の魔力量、$\omega$:運動の周波数、$\theta - \phi$:位相のズレ)
「位相のズレがゼロに近づくほど、周囲の魔力は『整流』される。……名付けて、『王立ラジオ体操第一』だ」
「ラ、ラジオタイソウ……? 恐ろしい魔導術の名だ……」
ガウェインが戦慄する。
かつて、魔法医たちは「魔力は注ぎ込むもの」だと教えていた。
だが、レンは教えた。
「魔力は、自分の体を動かして循環させるものだ」と。
「腕を前から上にあげて、大きく背を反らす運動! はい、吸ってー、吐いてー!」
セラフィナの澄んだ声が広場に響く。
彼女の誘導に従い、騎士たちが大きく胸を開く。
その瞬間、彼らが長年の重装備でガチガチに固めていた『大椎』や『雲門』のツボが強制的に開放され、滞っていた魔力が爆発的に全身を駆け巡った。
「な……なんだ、この爽快感は!? 身体が勝手に軽くなっていく……!」
「魔法を使わずに、これほどまでに魔力が滾るなんて……。これこそが失われた古代の強化儀式か!」
騎士たちの間で、感動の嵐が巻き起こる。
昨日まで「針治療なんて野蛮だ」と鼻で笑っていた魔導師たちまでもが、今や「深呼吸」の多幸感に酔いしれ、一心不乱に腕を回している。
「……よし。これで王都全体の『魔力平均血圧』は下がるはずだ。……リセッテ、次は各家庭に『乾布摩擦』の普及用リーフレットを配るぞ」
「了解です、所長! 紙の魔導定着率も計算済みです!」
国立調律院の改革は、留まることを知らない。
ポーションへの依存を断ち切り、自らの肉体を自らで調律する。
その「養生」の精神は、最強の騎士団から始まり、やがて王都の路地裏の子供たちにまで浸透していった。
――だが。
王都全体が「トトノイ」の熱狂に包まれる中、レンはふと、北の空を見上げた。
「……空気が、薄くなってるな」
土地が潤い、人々が健康になる一方で、世界のどこか一箇所に『歪み』が凝縮され始めている。
それは、ヤクモが仕掛けた最終工程。
世界そのものを巨大な『コリ』に変え、限界まで引き絞った後に「切除」しようとする、狂気の外科手術の予兆だった。
「……そろそろ、決着をつけに行かなきゃダメかな」
レンは銀針を一本、太陽にかざした。
国立調律院の平和な朝。
それは、世界を救うための「最後の一刺し」に向けた、嵐の前の静けさだった。
第28話、お読みいただきありがとうございました!
「ラジオ体操」が伝説の強化儀式として扱われる、なろう的勘違いコメディ回。
身体を動かすことの重要性を、魔力循環のロジックで肯定するのがレン流です。
平和な内政描写の裏で、ついにヤクモの最終計画が動き出します。
ヤクモの狙いは、個人の殺害でも国家の転覆でもなく、世界の「外科的選別」。
次話、その全貌が明かされ、レンたちは最後の旅路へと立ち上がります。
「ラジオ体操の数式化、笑った!」
「エルフリーデのスパルタ指導が似合いすぎる」
「ヤクモの言っていた『切除』が不穏……」
と思ってくださった皆様。
ぜひ【ブックマーク】と、最高評価の【ポイント(★★★★★)】をお願いします!
皆様の応援が、レンの針に「世界のコリ」を穿つ力を与えます。
次回、第29話「世界の『急所』。――極北の聖樹に眠る、巨大な黒針」。
物語は最終決戦の地へ。お楽しみに!




