第27話 激怒の国王と、黄金の問診。――陛下、その健康は『偽物』です
「……貴様か。我が『永遠の命』を打ち砕いた、不届きなガキというのは」
黄金の玉座に鎮座するのは、この国の頂点、国王エドワード。
若々しい肌艶、力強い眼光……一見すれば、五十代という実年齢よりも遥かに若く見える。
だが、その周囲には抜刀した近衛騎士たちが林立し、空気は今にも火花を散らしそうなほど張り詰めていた。
「レン、無茶だ……! 今からでも謝罪を……」
後ろでボリス隊長が震えている。だが、レンはあくびを噛み殺しながら、国王の顔をじっと見つめた。
「謝罪? 何に対してだい? 陛下を『爆発』から守ってあげたことに対してかな」
「……何だと?」
国王の眉がピクリと動く。
「陛下。……最近、ひどい頭痛と、夜中に足先だけが氷のように冷える感覚に悩まされていませんか? あと、鏡を見るたびに、白目の部分が少しだけ黄色くなっているはずだ」
玉座の間が静まり返った。
それは、国王が誰にも――専属の魔法医にさえ隠していた秘事だったからだ。
「……リセッテ。陛下の『外部魔力依存率』の計算式を出してくれ」
「はい! 算出しました。……陛下が泉から得ていた魔力は、ご自身の経絡には全く適合していません。……これです!」
$$ \text{V}_{real} = \text{V}_{total} - \sum (\text{M}_{stolen} \times \text{R}_{rejection}) $$
($\text{V}_{real}$:実効生命力、$\text{M}_{stolen}$:奪った魔力量、$\text{R}_{rejection}$:拒絶係数)
「陛下。あんたが『不老不死』だと思っていたその力は、ただの『浮腫』だよ。……聖女たちの気を無理やり詰め込んだせいで、あんたの本当の経絡は圧迫され、壊死しかけている。……表面がピカピカなのは、中身が腐ってガスが溜まっているからだ」
「貴様ぁぁッ! 陛下を侮辱するかッ!!」
近衛騎士がレンの首筋に剣を突きつける。だが、レンは動じない。
「侮辱じゃない、診断だ。……陛下、そのまま放置すれば、あと三日でその自慢の肌は内側から弾け飛びますよ。……ヤクモの黒針は、あんたを治すためじゃなく、あんたを『巨大な魔力爆弾』に変えるために打たれたんだから」
「……何だと……ヤクモが、余を……?」
国王の顔から、急速に血の気が引いていく。
レンはゆっくりと歩み寄り、騎士の剣を指先で退けた。
「確かめてみるかい? ……失礼、陛下。その首筋の『完骨』を少し刺激させてもらう」
レンが電光石火の速さで、国王の耳の後ろに銀針を一点、刺し入れた。
「――っ、ぐ、あああああああああッ!!?」
国王が玉座から転げ落ちる。
同時に、彼の毛穴という毛穴から、どす黒い、ヘドロのような魔力の残渣が噴き出した。
「……見ての通りだ。これが、あんたが『若さ』だと思っていたものの正体だよ」
噴き出した黒い霧が消えた後、国王の姿は、年齢相応の――しかし、淀みのない、スッキリとした「老人の顔」へと変わっていた。
静寂が戻った玉座の間。
国王エドワードは、自分の震える手を見つめ、そして、深く、深く息を吐いた。
「……身体が……軽い。……今まで、どれほど重い鎧を着ていたのか……今、ようやくわかった」
国王はゆっくりと顔を上げ、レンを見据えた。
「……レン。余は……余を殺そうとしたヤクモに踊らされ、この国を滅ぼしかけたということか」
「……あんたが悪いんじゃない。……あんたの『不老への恐怖』というコリを、あいつが利用しただけだ」
レンは針を仕舞い、背を向けた。
「陛下。あんたに必要なのは、奪った魔力じゃない。……温かい粥と、一晩の深い眠りだ。……それが、本当の『不老不死』への第一歩ですよ」
権力の頂点に君臨する男が、一人の少年の背中に向かって、無言で深く頭を下げる。
それは、この国の歴史が「魔法」から「医学」へと、正式にシフトした瞬間だった。
第27話、お読みいただきありがとうございました!
「王様の不老不死は、ただのむくみ」。
この痛快な医学的論理こそが、本作の真骨頂です。
国王さえも「トトノわせて」しまったレン。
ヤクモの真の狙いが「国王の爆弾化」であったことが判明し、物語はいよいよ最終決戦へのカウントダウンを始めます。
国家を救ったレンに、もはや敵はいません。……そう、表の世界には。
「王様を論破するレン、かっこいい!」
「むくみ、という表現がなろうっぽくて好き!」
「ヤクモ、やり方がえげつなさすぎる……」
と思ってくださった皆様。
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皆様の応援が、レンの針をさらに研ぎ澄ませます。
次回、第28話「国立調律院の改革。――今日から全国民、ラジオ体操の時間だ」。
医学の常識が変わる、内政・コメディ回の始まりです。お楽しみに!




