第26話 聖なる泉の解体。――針一本で『王の不老不死』を打ち砕く
「無駄だ、小僧! この『聖なる泉』はヤクモ殿の術式によって、王宮全体の霊脈と接続されている。貴様が何をしようと、この『不老不死の循環』を止めることはできん!」
医師団の残党、筆頭幹部のバドスが狂ったように笑う。
彼の背後では、エメラルドグリーンに輝く泉が、不自然なほどの魔力を放っていた。その輝きは、壁の向こうで繋がれた数十名の聖女たちの「命の灯火」を削り取って作られた、偽りの光だ。
「……不老不死、ね。あんたたちの言うそれは、ただの『他人の命の継ぎ接ぎ』だよ」
レンは泉の縁に立ち、水面に右手をかざした。
視界に映るのは、泉を中心に蜘蛛の巣のように張り巡らされた、黒い魔力の吸引線。
「リセッテ、このシステムの『逆流耐性』は?」
「……計算しました! この術式は『吸い上げる』ことだけに特化していて、内部からの圧力……つまり『戻る力』には極めて脆いです! 一点を突けば、ドミノ倒しのように崩壊します!」
「よし。……エルフリーデ、三十秒だけこのバカ共を黙らせておいてくれ」
「了解。……十秒で済ませる」
エルフリーデの剣が閃き、魔法を唱えようとした医師たちが次々と「峰打ち」で地面に沈む。その隙に、レンはポーチから、これまでで最も長く、しなやかな『導魔極長針』を抜き放った。
「――『還流調律』。……借りたものは、利子を付けて返してやれ」
レンの指先が、泉の底に沈む『魔力集積核』の、わずか数ミリの隙間を射抜いた。
キィィィィィィィンッ……!!
耳を突き刺すような高周波が、地下室全体に響き渡る。
レンは針を通じて、自らの黄金の気を「逆方向」に叩き込んだ。
$$ \Psi_{reverse} = \oint \frac{P_{in} \cdot \sigma}{\delta t} + \alpha \cdot \Delta G $$
($\Psi_{reverse}$:逆流魔力圧、$P_{in}$:吸引圧、$\sigma$:共鳴定数、$\Delta G$:強欲による歪み係数)
「な……な、何をした!? 泉の色が……黒く……ッ!?」
バドスが絶叫する。
瑞々しいエメラルドグリーンだった泉が、ドロドロとした黒色に変色し、激しく泡立ち始めた。
レンが仕掛けたのは、魔力の「全自動返却」。
吸い上げられていた聖女たちの気が、レンの針を導火線にして、本来の持ち主へと猛スピードで逆流を開始したのだ。
「――っ、ぁ……! 身体が、熱い……!」
壁の向こうから、聖女たちの驚きの声が聞こえてくる。
枯れ果てていた彼女たちの経絡に、純粋な気が勢いよく戻っていく。一方で、その「吸い上げ装置」の中枢を担っていた泉は、過負荷に耐えきれず、激しく振動を始めた。
「バカなッ! 国王陛下に捧げる不老不死の魔力がッ!!」
「陛下には、ポーションの飲み過ぎで溜まった『宿便』でもプレゼントしてやれよ。……さあ、弾けるぞ!」
ドォォォォォォォォォォンッ!!!
爆発音と共に、聖なる泉が粉々に砕け散った。
噴き出したのは、ヤクモが仕込んだ黒い術式の残滓。それが医師団の残党たちに降り注ぎ、彼らの魔力回路を強制的に「トトノわせて(初期化して)」いく。
「ぎ、ぎゃあああああああああッ!! 魔力が、私の魔力が消えるぅぅッ!!」
長年、他人から奪った魔力で寿命を延ばしてきたバドスたちが、一瞬にして本来の「年相応の老人」へと萎んでいく。自業自得の、医学的ざまぁ。
「……ふぅ。……これでお掃除完了だ」
レンが針を抜くと、部屋を覆っていた重苦しい「淀み」が消え、清々しい朝のような気が流れ込んだ。
倒れていた聖女たちが、次々と自力で立ち上がり、地下室へと入ってくる。
その先頭に立つのは、セラフィナ。彼女は涙を流しながら、救い出された仲間たちを抱きしめた。
「レン様……。ありがとうございます……。本当に……」
「礼なら、彼女たちの『養生』を手伝ってやってくれ。急に気が戻ったんだ、三日はおかゆ生活だぞ」
王宮の闇を打ち砕いた一刺し。
だが、その崩壊の余波は、王宮の最上階……偽りの健康を享受していた国王の元へと、確実に届こうとしていた。
第26話、お読みいただきありがとうございました!
「不老不死」という甘い言葉に隠された医学的暴挙を、レンが物理的に粉砕しました。
医師団の幹部たちが、本来の「おじいちゃん」に戻ってしまうシーン、カタルシスを感じていただけたでしょうか。
聖女たちを救い出したレン。
しかし、泉が壊れたことで「不老不死」の夢を絶たれた国王が、黙っているはずもありません。
次話、激怒する国王と、レンの正々堂々たる「直接診断」が始まります。
「医師団の自業自得っぷりが最高!」
「聖女さんたちが助かって本当によかった……」
「レン先生、王様にもお灸据えちゃうの?」
と思ってくださった皆様。
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皆様のポイントが、レンが王様に突きつける「厳しい診断結果」の説得力になります。
次回、第27話「激怒の国王と、黄金の問診。――陛下、その健康は『偽物』です」。
王宮の最高権力者相手に、レンの針がどう立ち向かうのか。お楽しみに!




