第25話 王宮の裏の『毒』。――消えた聖女たちの行方
国境の和解から一週間。王都グランゼールは、かつてない祝祭ムードに包まれていた。
戦を止めた「神の手を持つ治療師」の噂は、吟遊詩人によって脚色され、レンの国立調律院には連日、感謝の品々が山のように届けられている。
だが、その当の本人は、診療所の奥で難しい顔をして一本の「折れた針」を見つめていた。
「……セラフィナ。これ、どこで見つけたんだ?」
「……王宮の『祈りの塔』の裏です。……私の仲間だった聖女たちが、次々と倒れていると聞いて、様子を見に行ったのですが……」
セラフィナの手は、微かに震えていた。
彼女が差し出したのは、かつてレンが司祭に打ち込んだものとよく似た――しかし、禍々しい『黒い魔力』を帯びた、ヤクモの黒針の残骸だった。
「倒れた聖女たちの症状は?」
「皆、意識はあるのに、指先一つ動かせないそうです。魔法医たちは『神への祈りが足りないゆえの衰弱』だと断じ、さらに過酷な祈祷を強いています。……でも、私には分かります。彼女たちの『魂の気』が、根こそぎ奪われているんです!」
「……なるほど。土地の次は、人間を『電池』にし始めたか」
レンは立ち上がり、壁に掛けた白衣を羽織った。
「リセッテ、王宮内の『魔力流動密度』の過去データを洗ってくれ。……エルフリーデ、悪いけど『非公式』なルートで王宮の地下通路を案内してもらうよ」
「……わかった。あそこの騎士団には、君に恩義を感じている者が多い。……強行突破も可能だが、今回は『隠密診察』だな」
***
深夜、王宮の最深部――『聖なる泉』のほとり。
そこは、王族の病を癒やすとされる清らかな魔力に満ちた場所……のはずだった。
だが、レンの視界に映るその場所は、死の匂いが漂う『ドブ川』に等しかった。
「……ひどいな。……リセッテ、ここだ。数値を測ってくれ」
「はい。……これは……っ、信じられません! 魔力抽出率が $98\%$ を超えています! 周りの聖女たちの部屋から、強制的に『気』を吸い上げ、この泉に集めている……!」
レンは計算尺を手に、その異常な吸い上げのロジックを解読した。
$$ Q_{out} = \oint_{S} (\mathbf{J}_{qi} \cdot d\mathbf{A}) - \eta \cdot \Delta \Psi $$
($Q_{out}$:流出する気、$\mathbf{J}_{qi}$:気の流束密度、$\eta$:ヤクモの黒針によるバイパス係数、$\Delta \Psi$:精神的重圧)
「……ヤクモの野郎。聖女たちの『三陰交』に黒針の術式を埋め込み、彼女たちが祈れば祈るほど、その生命力を魔力として抽出する回路を作っていやがる」
その時、暗闇の中から、カチリ……と硬質な音が響いた。
「……気づくのが遅かったな、レン。……おかげで、この『王の泉』は、かつてないほどの輝きを取り戻した」
現れたのは、解体されたはずの王立医師団の制服を着た、生き残りの幹部たち。
彼らの背後には、意識を失い、全身を黒い糸で縛られた数名の聖女たちが、まるで植物のように並べられていた。
「彼女たちは名誉ある『国柱』となるのだ。……それを邪魔する貴様こそが、この国の安寧を乱す毒よ!」
「……安寧、ね。……他人の犠牲の上に成り立つ健康なんて、ただの『偽薬』だ」
レンの指先には、すでに銀の針が握られていた。
「……セラフィナ。君の仲間は、僕が全員『トトノわせ』て連れ戻す。……エルフリーデ、三〇秒だけ道を空けてくれ。……この泉の『栓』を、今すぐ抜いてやる」
王宮の裏側に隠された、最悪の『医療虐待』。
レンの針が、権力の腐敗を根こそぎ抉り取る戦いが始まった。
第25話、お読みいただきありがとうございました!
戦場の「トトノイ」で大団円……と思いきや、王宮の奥底にはさらにドロドロとした「利権のコリ」が隠されていました。
聖女たちを魔力の電池として使い潰す。
現代医学(鍼灸)の視点から見れば、これは「循環」を否定する最も許しがたい暴挙です。
セラフィナの悲しみと、静かに怒るレン。
次話、この腐った「吸い上げシステム」を、レンが物理的に、そして医学的に粉砕します。
「王宮の闇、えげつない……!」
「レン先生、早く彼女たちを救ってあげて!」
「エルフリーデの隠密モード、かっこいい!」
と思ってくださった皆様。
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皆様の「気」が、レンが放つ「逆転の一刺し」のエネルギーになります。
次回、第26話「聖なる泉の解体。――針一本で『王の不老不死』を打ち砕く」。
溜まりに溜まった「王宮の膿」を一気に絞り出します。お楽しみに!




