第24話 和解の薬膳粥。――胃袋から始める世界平和
グレイス平野は、もはや戦場ではなかった。
数万の男たちが、鎧を脱ぎ捨て、草の上に寝転び、ぼうっと空を眺めている。
レンが仕掛けた「大地のバイブレーション」によって、彼らの交感神経は完全に沈黙し、代わりに強烈な空腹感が押し寄せていた。
「……腹が、減ったな」
「ああ。……あんなに殺気立っていたのが嘘みたいだ。……おい、帝国兵。お前の国のおすすめのメシは何だ?」
「……今は、何でもいい。温かくて、腹にたまるものなら……」
昨日まで殺し合おうとしていた兵士たちが、力なく、しかし穏やかに言葉を交わす。
そこへ、レンの指示を受けた調理班が、巨大な大釜を数十個並べて焚き火を始めた。
「――お待たせ。トトノった後の身体は、吸収率が三倍だ。変なものを食べると『食あたり』を起こすから、僕が調合した特製粥を食べてくれ」
レンが用意したのは、アムス村で収穫されたばかりの瑞々しい米と、リセッテが分析した「魔力回復成分」を最適化した薬膳の具材だ。
「リセッテ、成分比率は?」
「はい! クコの実とナツメ、それに滋養強壮に効く『竜の髭草』を配合しました。……計算上の回復効率はこれです!」
$$E = \sum_{i=1}^{n} (W_i \cdot Q_i) \times \log(T)$$
($E$:回復エネルギー、$W$:具材の重み、$Q$:気の質、$T$:加熱時間)
「……よし。セラフィナ、聖水でアク抜きを頼む。エルフリーデは、両軍の指揮官を呼んできてくれ。……同じ釜の飯を食わないと、話が始まらないからね」
やがて、平原にえも言われぬ香ばしい香りが立ち込めた。
真っ白な粥の中に、赤いクコの実が宝石のように散らされ、隠し味の生姜が鼻腔を心地よく刺激する。
「……う、美味い……ッ!!」
一口食べた帝国軍の千人隊長が、ボロボロと涙をこぼした。
熱い粥が喉を通り、胃に落ちた瞬間、身体の芯からじわりと熱が広がっていく。
それは、ポーションの無理やりな「熱」ではない。
冷え切った内臓を優しく包み込み、ボロボロになった経絡を修復していく、慈愛に満ちた熱だ。
「……故郷の母親の味を思い出した。……俺は、こんな美味いものを食わせてくれる国を、滅ぼそうとしていたのか……?」
「……俺もだ。……なあ、帝国。……この戦争、もうやめないか? ……こんなにトトノって、腹もいっぱいなのに、誰かを殺すなんて無理だ」
一人、また一人と、兵士たちがレンの元に集まり、地面に膝をついて礼を言う。
それは王国の勝利でも、帝国の敗北でもない。
一人の鍼灸師がもたらした、『健康』による完全なる和解だった。
だが、その光景を遠くの丘から見つめる、一筋の影があった。
「……フン。胃袋までトトノわせるとはな。……だが、レン。次は『心』だ。……お前が救おうとしているこの世界そのものが、どれほど醜いコリを隠しているか、その目で拝ませてやる」
ヤクモの声が風に乗り、レンの耳に届いた。
和解の宴の裏で、世界の『深部』にある最大のコリが、音を立てて動き出そうとしていた。
第24話、お読みいただきありがとうございました!
「食欲」という本能をトトノわせることで、戦争を物理的に不可能にする。
レンの「養生」が、ついに外交問題まで解決してしまいました。
しかし、ヤクモの矛先は次なる段階へ。
「世界の醜いコリ」とは一体何なのか?
物語は、王国の闇、そして隣国とのさらなる深い因縁へと突き進みます。
「薬膳粥、私も食べたい!」
「戦場が巨大な炊き出し会場になる展開、平和で大好き!」
「ヤクモの次の策が気になる……!」
と思ってくださった皆様。
ぜひ【ブックマーク】と、最高評価の【ポイント(★★★★★)】をお願いします!
皆様の評価が、レンの次なる「究極のレシピ」を完成させる鍵となります。
次回、第25話「王宮の裏の『毒』。――消えた聖女たちの行方」。
トトノイの光が届かない場所へ、レンが潜入します。お楽しみに!




