第23話 戦場をマッサージしろ。――剣を置いた兵士たちの休息
国境、グレイス平原。
そこには、王国軍と帝国軍、合わせて数万の兵が対峙していた。
鉄の匂いと、焦り、そして何よりヤクモが仕掛けた「霊脈の歪み」による、どす黒い殺気が平原を支配している。兵士たちの瞳は血走り、呼吸は浅く、今にも誰かが叫び声を上げれば、地獄のような殺し合いが始まる寸前だった。
「レン、これはまずいぞ。……兵士たちの気が狂っている。普通の戦いじゃない」
ガウェインが愛剣の柄を握り、低く唸る。
エルフリーデもまた、飛んでくる矢を叩き落とす準備をしていた。だが、レンは馬車の上で、のんびりと大きな「お灸」に火をつけていた。
「……みんな、頭に血が上りすぎてるんだよ。……リセッテ、さっきの『巨石針』の準備は?」
「バッチリです! アムス村から引き込んだ霊脈のライン、この平原の真下に直結しました! いつでも『出力全開』でいけます!」
レンは頷くと、平原の中央、両軍のちょうど中間に向かって歩き出した。
「止まれ! 何奴だ!」
「死にたいのか、子供が!」
両軍の先遣隊が剣を向ける。だが、レンはその殺気を柳のように受け流し、手にした銀の長針を、地面の『一点』に突き立てた。
「――悪いけど、今は戦争どころじゃないんだ。……君たち、肩がバキバキだろう? 腰も限界のはずだ。……一回、全部『抜いて』やるよ」
「……何だと?」
レンが針の頭を、指先で弾いた。
アムス村で浄化した「清浄な霊脈の奔流」が、レンの針を媒介にして、平原全体の地表へと一気に噴き出した。
――ズ、ズ、ズ、ズ、ゥゥゥゥン……!!
大地が、心地よいリズムで震え始めた。
それは破壊の震動ではない。
まるで巨大なマッサージ器が、地中から全身を優しく叩いてくれるような、究極の「振動治療」だ。
「……っ、ぁ……!? な、なんだ、この……っ、感覚は……!?」
最前列にいた百戦錬磨の将軍が、思わず剣を取り落とした。
足の裏から伝わってくる、温かく、力強い魔力の波動。それがふくらはぎ、太もも、そして腰の重みを一瞬で消し去り、脊髄を駆け上がって脳を「トトノイ」の境地へと誘う。
「……あぁ、……俺、何をあんなに怒っていたんだ……? ……肩が……軽い。羽根が生えたみたいだ……」
「……帝国との因縁なんて、どうでもよくなってきた。……それより、今すぐ横になりたい……」
数万の兵士たちが、まるで魔法にかかったように、次々とその場に座り込み、あるいは大の字に寝転がった。
アドレナリンで無理やり動かしていた筋肉が強制的に弛緩し、脳内には大量の多幸感物質が分泌されている。
そう。戦場全体が、巨大な『屋外サウナの休憩スペース』と化したのだ。
「……っ、貴様ぁぁ! 何をしたッ!!」
後方から、ヤクモの黒針に操られた狂戦士たちが突っ込んでくる。だが、彼らもレンが作った「トトノイ・エリア」に足を踏み入れた瞬間――。
「……ふにゃぁぁ……っ」
武器を放り出し、とろけた顔で地面に沈んだ。
殺意という名の「コリ」が、レンの針によって物理的に粉砕された結果だ。
「……よし。これでしばらくは、誰も剣なんて握れないよ」
レンは汗を拭い、ぽかんとしているエルフリーデたちを振り返った。
「エルフリーデ、セラフィナ。……今のうちに、両軍の調理兵を呼んできて。……これだけトトノった後は、最高の『薬膳粥』を振る舞わなきゃいけないからね」
戦う気力を失い、ただただ「健康」になってしまった数万の兵士たち。
史上最悪の激戦地になるはずだった平原は、今や世界最大の「集団養生キャンプ」へと変貌していた。
第23話、お読みいただきありがとうございました!
「戦場をマッサージする」という、レンにしかできない平和的解決法。
数万の男たちが地面で「ふにゃふにゃ」になる光景、まさに圧巻のカタルシスです。
敵味方関係なく健康にしてしまうレンの「善意の暴力」。
これには、裏で糸を引いていたヤクモも、さすがに言葉を失うはずです。
「戦場がサウナの休憩室に……笑った!」
「レンのトトノイ、規模が大きくなりすぎてて最高!」
「次は美味しいご飯回かな?」
と思ってくださった皆様。
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皆様の応援が、レンの次なる「国家規模のトトノイ」のエネルギーになります。
次回、第24話「和解の薬膳粥。――胃袋から始める世界平和」。
心も体もトトノった兵士たちに、レンが贈る究極の一杯とは。お楽しみに!




