第22話 巨石を穿つ針。――大地が放つ、黄金のトトノイ
「……リセッテ。位相の同期は?」
「完了しています! 魔力波長、八三二ヘルツで固定! 今なら、この巨岩の『分子の隙間』を突けます!」
アムス村の守護神、高さ五メートルを超える巨石の前に、レンは立っていた。
彼が構えるのは、リセッテの魔導技術とレンの気が融合した特製の『巨石針』。長さ一メートル、腕ほども太い銀の杭だ。
「エルフリーデ、衝撃に備えて。……セラフィナ、噴き出す魔力が村に被害を出さないよう、障壁の角度を四十五度に調整してくれ」
「任せておけ! ……レン、無茶だけはするなよ」
「はい、レン様! ……大地の『悲鳴』を、私たちが受け止めます!」
レンは深く、深く息を吐いた。
視神経を研ぎ澄ませば、岩の下に埋まったヤクモの『黒い楔』が、毒々しい拍動を繰り返しているのが見える。
「――お待たせ。……一気に行くぞ」
レンの右腕が黄金の光を帯びる。
彼は巨石のわずかな「亀裂」――大地の経絡が収束する『龍穴』の入り口を見定め、渾身の力で巨石針を叩き込んだ。
――ドォォォォォォォォォォンッ!!
大地を揺るがす地鳴り。
針が岩に触れた瞬間、火花ではなく、澄み渡った「青白い振動波」が同心円状に広がった。
レンは針の頭に片手を置き、高周波の魔力振動を地中深くへと送り込む。
「……解けろ。……詰まったゴミを、全部吐き出せッ!!」
パキィィィィィィィンッ!
巨石の中央に、一筋の光の筋が走った。
次の瞬間、針の穴から凄まじい勢いで『虹色の蒸気』が噴き出した。
それは、十数年にわたって地中に閉じ込められ、腐りかけていた膨大な魔力の奔流。
レンの針という「出口」を得た魔力は、空高く舞い上がり、村全体を包む巨大な光の雨となって降り注いだ。
「な……なんだ、これは……っ。暖かい、光の雨……?」
「村長! 見てくれ、枯れていた川が……水が、戻ってきたぞ!」
驚愕する村人たちの目の前で、奇跡が起きた。
どす黒く濁っていた川が瞬時に透明度を取り戻し、砂漠のようだった田畑から、瑞々しい緑の芽が一斉に吹き出したのだ。
――ゴォォォォォン……。
大地の底から、深く、重厚な響きが伝わってくる。
それは苦痛の絶叫ではない。
数十年ぶりに深いコリを解された、大地そのものの『ため息』。
世界が、トトノっていく。
「……ふぅ。……大地のデトックス、完了だ」
レンは汗を拭い、ひび割れた巨石から針を抜いた。
そこにはヤクモの呪いである『黒い楔』の破片が、浄化の炎に焼かれて消えていく様があった。
「……信じられん。……魔法で無理やり豊作にするのではなく、土地そのものの『治癒力』を呼び覚ますとは……」
ガウェインが震える手で、蘇った土を掬い上げた。
「これが、養生だよ。……僕らはただ、邪魔な石をどけただけさ」
レンが微笑んだその時、緑に覆われた大地の中から、小さな『光の玉』がふわりと現れた。
それは土地の精霊。……レンの「治療」に感謝するように、彼の周りを数回まわると、そっと彼の肩に止まった。
「……あら? レン様、新しい『患者』……ではなく、お友達のようですね?」
セラフィナが嬉しそうに微笑む。
だが、安らぎも束の間。
蘇った村の空の向こう、隣国との国境付近から、どす黒い魔力の煙が立ち昇った。
「……ヤクモの奴、本気らしいな。……一箇所を直せば、次の『詰まり』を仕掛けてくるか」
レンの瞳に、再び鋭い光が宿る。
個人の調律から、世界の外科手術へ。
鍼灸師レンの針は、今や運命の糸をも引き寄せ始めていた。
第22話、ご覧いただきありがとうございました!
「大地への鍼治療」――これぞ本作の真骨頂です。
黄金の魔力が噴き出し、村が瞬時に再生するカタルシス、トトノっていただけたでしょうか。
精霊に好かれ、大地に感謝されるレン。
しかし、ヤクモの攻撃はさらに激化し、次なる舞台は「国境の戦場」へ。
傷ついた兵士たちではなく、戦場そのものを「治療」するというレンの奇策とは?
「大地のトトノイ、描写が美しすぎる!」
「精霊さんに懐かれるレンが羨ましい!」
「ヤクモ、次はどんな嫌がらせを……?」
と思ってくださった皆様。
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次回、第23話「戦場をマッサージしろ。――剣を置いた兵士たちの休息」。
争いそのものを「無力化」する、レン流の平和主義が炸裂します。お楽しみに!




