表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔力詰まりは万病の元 〜回復魔法で治らない「身体の重だるさ」を、不遇の鍼灸師が針一本で調律する。魔力のコリを解したら、最強の戦乙女や聖女に懐かれました〜  作者: 蒼野湊
第3章 東方刺客・霊脈編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/31

第21話 不作の村と、泣いている大地

王都から馬車で三日。

 かつて「王国の穀倉地帯」と呼ばれたアムス村に足を踏み入れた瞬間、レンは不快感に眉をひそめた。


「……ひどいな。空気が淀んで、地面が『息』をしていない」


 視界に広がるのは、黄金色であるはずの稲穂がどす黒く変色し、力なく頭を垂れる光景。

 村人たちの顔も土色に汚れ、活気は微塵もない。彼らは、国立調律院の紋章を掲げたレンたちの馬車を、希望というよりは「諦め」の混じった虚無的な瞳で見つめていた。


「院長、見てください。この川の水……魔力の粒子が腐敗して、真っ黒です」


 リセッテが観測器を水面に浸すと、警告音が鳴り響く。

 本来、清らかな魔力を運ぶはずの伏流水が、この村に到達した途端に毒素を孕んでいるのだ。


「王立医師団の残党が、ポーションの廃棄物を流したわけでもなさそうです。……これは、もっと『根の深い』病ですね」

 セラフィナが膝をつき、枯れた大地にそっと手を触れる。


 そこに、村長と思われる老人が、杖を突きながら力なく歩み寄ってきた。護衛役を買って出たガウェインが、馬車を降りてその老体をそっと支える。


「……調律院の先生方、わざわざ遠路を……。ですが、無駄ですじゃ。魔法学院の偉い先生方も、高名な治癒術師様も、皆『土地が呪われている』と逃げ帰りましたわい」


「呪い、ね。……村長さん、ちょっと失礼」


 レンは馬車を降りると、地面に直接、片手を置いた。

 そして、前世から受け継いだ『脈診みゃくしん』の意識を、地中深くへと沈めていく。


「……ッ、これは……」


 レンの脳裏に、凄まじい絶叫が響いた。

 それは人間の声ではない。

 大地の底を流れる魔力の奔流――『霊脈レイライン』が、何者かによって無理やり捻じ曲げられ、悲鳴を上げている音だ。


「……リセッテ。この村の地下、三五〇メートル地点の魔力圧を測ってくれ」


「えっ、三五〇!? ……あ、はい! ええと……、異常です! 計算上の許容値を三〇〇%オーバーしています! 魔力が流れるどころか、一箇所に溜まって『膿』になっています!」


「やっぱりか。……ヤクモの奴、ここに『黒いくさび』を打ち込みやがったな」


 レンが立ち上がり、視線の先にある村の守り神とされる巨岩を指差した。


「あの岩の下に、霊脈のツボ……いわゆる『龍穴りゅうけつ』がある。そこがヤクモの術で塞がれているんだ。……例えるなら、大地そのものの『ひどい便秘』だよ」


「べ、便秘……?」

 エルフリーデが少し呆れたように尋ねる。


「ああ。魔力が外へ排出されず、体内に溜まり続けて腐っている。……この村の不作も、水質の悪化も、全部その『詰まり』が原因だ。……なら、やることは一つしかない」


 レンは道具箱の奥から、これまでの銀針よりも遥かに長く、重厚な「特注の太針」を一本、取り出した。


「村長。……今からこの大地の『コリ』を解す。……少し、地面が揺れるけど、驚かないでくれよ」


 レンは巨岩の前に立ち、大地の脈を捉えた。

 個人の治療とは次元が違う。失敗すれば、霊脈が暴走し、村ごと消し飛びかねない。

 だが、レンの瞳に迷いはなかった。


「……お待たせ、大地。……今、楽にしてやるからな」


 レンの黄金の魔力が、銀の太針へと集束していく。

 それは、一人の治療師が「世界そのもの」を診察し、調律し始めた、歴史的瞬間だった。

第21話、いかがでしたか?

「大地=一つの身体」という東洋医学的なアプローチを、ファンタジーのスケールで描き出しました。

次話、いよいよ「大地への一刺し」による、圧倒的な浄化とカタルシスが始まります。

お楽しみに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ