第29話 世界の『急所』。――極北の聖樹に眠る、巨大な黒針
王都から飛空艇で北へ。
辿り着いたのは、地図にも記されていない永久凍土の果て――『霊峰アイギス』。
そこには、世界の魔力循環を司る根源、巨木『ユグドラ・マナ』が鎮座していた。
「……ひどいな。これは『壊疽』の一歩手前だ」
飛空艇の甲板から眼下を見つめるレンの顔は、かつてないほど険しい。
本来、白銀の光を放つはずの聖樹は、今やどす黒い脈動を繰り返し、周囲の空間には『死の魔力』が霧となって立ち込めている。
そして、その樹木の頂点――天を突くほどの高さに、一本の禍々しい『黒いモノリス』が突き刺さっていた。
「……ヤクモの黒針。あれが、この星の『百会』を完全に塞いでいるのか」
「レン様、観測データが振り切れています! 霊脈のインピーダンス(抵抗)が無限大に向かっています! このままでは、世界中の魔力がここ一点に凝縮され……」
リセッテが震える手で計算機を叩く。
$$ Z_{world} = \oint_{tree} \frac{\rho_{mana}}{\nabla \cdot \vec{J}_{spirit}} dL $$
($Z_{world}$:世界の霊脈抵抗、$\rho_{mana}$:魔力密度、$\vec{J}_{spirit}$:気の流束密度、$dL$:経絡の微小長)
「……爆発するんですか?」
エルフリーデが剣を握りしめ、尋ねる。
「いや。……ヤクモの狙いは爆発じゃない。……『切除』だ」
レンが言葉を終えると同時に、黒い霧の中から、一人の男が静かに浮遊しながら現れた。
東方の装束をなびかせ、手には無数の黒針を弄ぶ男――ヤクモ。
「正解だ、レン。……この星の霊脈は、もはや老い、淀んでいる。ならば、腐った部位……つまり、魔力の薄い『凡夫の住む土地』をすべて切り離し、純粋な魔力だけをこの聖樹に集約させる」
「……それが、あんたの言う『世界の外科手術』か。……残りの九割を見捨てるなんて、それは医術じゃない。ただの虐殺だ」
「救えぬものを切り捨てるのも、医者の慈悲。……さあ、レン。貴殿の『養生』とやらで、この星の末期症状をトトノわせてみせろ。……もしできぬなら、この黒針が世界を二分する刃となる」
ヤクモが指を鳴らすと、聖樹から伸びる黒い根が、巨大な獣の顎のようにレンたちに襲いかかった。
「……みんな、下がっててくれ。……こいつは、僕にしか打てない『一刺し』だ」
レンはポーチから、黄金の輝きを放つ、しかし極めて細い一筋の針を取り出した。
星の急所を穿つ、絶望の黒針。
それに対し、レンが用意したのは、現代の叡智と「救いたい」という意思を込めた、最小にして最強の銀針。
極北の地で、世界を治療するための『最終手術』の幕が上がった。
第25話、お読みいただきありがとうございました!
ついに姿を現した世界の急所「ユグドラ・マナ」。
ヤクモの目的は、弱者を切り捨てる「世界の選別手術」でした。
魔法の力を全否定し、自らの技術のみを信じるヤクモ。
対して、不器用ながらも必死に生きる人々の「養生」を信じるレン。
二人の医術の答えが、今、激突します。
「星のツボを突く展開、ワクワクする!」
「リセッテの数式がどんどん複雑になっていく……!」
「レン先生、世界をトトノわせちゃって!」
と思ってくださった皆様。
ぜひ【ブックマーク】と、最高評価の【ポイント(★★★★★)】をお願いします!
皆様の応援が、レンの針に「世界のコリ」を溶かす熱を与えます。
次回、最終話「トトノエ、世界。――一刺しの後に訪れる、黄金の夜明け」。
物語は、感動のフィナーレへ。お楽しみに!




