5話 畑作業開始
「それじゃあ行ってきます」
イリスは元気良く今日も服屋に向かった。イリスが服屋に派遣仕事をしてから10日が経過。一応お試し期間は2週間の14日としていた。
「イリス明るくなったなぁ。出会った頃とは大違いだ」
向陽は父親みたいな感傷に浸っていた。
「さてと、今日も畑を見てくるか」
向陽は敷地内の広場に向かった。無駄に広い広場。感覚的には小学校時代のグラウンドの半分はあるかと思われる広場が建物横に広がっていた。この広場を有効活用しようと考えた向陽は、一角を耕し畑を作る事にしたのだった。
「そろそろ芽が出るころかな?上手く育てば自給自足が出来て経費が浮くからなぁ。楽しみだ」
この奴隷商は正直金欠状態だ。だからこその自給自足。農作のアレコレは実家の手伝いと、ボランティアでの意見交流である程度はやれる自信があった。しかしここは異世界。地球の常識が通じない可能性も十分にある。そこで向陽が実行した策は……「農家への派遣」だった。
服屋に行った翌日、向陽は町の農家に出掛けていた。目的は2つ。異世界の農耕事情、そして種貰いだ。町の外れにある畑で作業していた農家に向陽は話かけた。
「こんにちはー。ちょっと話いいですか?」
最初農家の人(名前はゴンゾ)はこの辺では見ない顔の向陽に対して多少警戒感を出したが、向陽は想定済みだった。
「最近この辺に越して来た者なんですよ。んで農業やりたいんですけど分らない事だらけなので色々聞きたいんです」
そう言って多少強引に話をし始めた。そして向陽は畑仕事を手伝いながらこの世界の農業事情を聞きだした。
この世界の主食は芋、粟、米、パンで、この辺りでは芋と粟だそうだ。そして芋はジャガイモ(名前はイモジャガらしい)とよく似た物のようで、手伝ったお礼として種芋を貰った。その他にもジンニン(ニンジンのような野菜)やウリキュウ(キュウリのような野菜)の種も貰った。
ここが交渉チャンスだと感じた向陽は、ゴンゾに自分が奴隷を貸す派遣奴隷商の人間であることを明かし営業内容を詳しく説明した。
「見た所ゴンゾさん1人で畑作業をしている様子。この機会にお手伝いとしてウチの奴隷を使ってみませんか?勿論お試しなので料金は取りません」
向陽は交渉する。するとゴンゾは快く快諾してくれた。曰く「畑作業を手伝ってくれたから」だそうだ。手伝いに打算な考えは無かったが結果オーライ。向陽は握手を交わしその日は帰ったのだった。
そして次の日、早速向陽はライとサヤを連れてゴンゾの下を訪れた。この2人を選んだ理由としてライは体が大きいからだ。体格的には1歳年上のクラムより大きい。それに忍耐力もあるので農作業にはピッタリだと思ったからだ。
7歳のサヤは単純に水魔法が使えるからだ。昨日農作業を手伝って分かったのだが、水は近くの川から汲んで来なければならない。これはかなりの労力を使った。なので水魔法でそれを補えばその分農作業が捗るのではないかと考えたのだ。
「お嬢ちゃん水魔法が使えるのかい?凄いな」
ゴンゾは驚きを隠せなかった。何でも魔法は基本師が教え練習し、数年かけて繰り出せるものなんだそうだ。つまり7歳という年齢で魔法を使えるサヤは、世間一般で見ればかなり珍しい部類なのだ。因みに魔法が扱える人物は大体貴族・王侯に仕えたり国の役職に仕官したりするらしい。
「そんな珍しいのか……」
向陽は首を捻った。ドウカクは性格上子供達を売る事が出来なかった。じゃあドウカクの父親は?唯の奴隷商なら女の子で魔法も使えるサヤは高値で売れただろう。だがそうしなかった。何故だ?
「……帰ったら皆の記録しっかり見るかぁ」
面倒臭くて記録資料をまともに見ていなかったが、流石に自分の子達の事は出来るだけ知っとこうと反省した。
そんなこんなでライとサヤはこの日からゴンゾの畑仕事を手伝う事になった。その際几帳面なライはゴンゾから教わった事を全て記録した。
因みに字に関してはライは向陽に会った時点で読み書きはある程度出来ていた。実はこれも珍しいらしい。所謂学校に行かなければ出来なく学費が高額な為、平民はほとんど出来ないそうだ。なので読み書きは出来る人にお願いしたり、そこから独学で覚えるのが一般的らしい。
そのライが記録した物を向陽は読み(向陽は何故か最初から読めた)、それを元に広場の一部を耕し芋を植え育てていたのだ。
「このイモジャガっての、完全にジャガイモだな。まぁ分かりやすくて助かるけど」
畑の様子を確認した向陽は呟いた。他の野菜のジンニンやウリキュウも確認したが、見る限りでは全て順調に育っている感じだ。
「しかし……土にあまり栄養が無い気がするな。一応来たその日から肉体強化のチート能力を使って土を耕していたけど……」
人・牛糞堆肥、所謂肥溜めだがアレは時間が掛かる。なので食事の食べカスを細かく砕いて土に撒いたり、林に行き腐葉土っぽい土を持ってきて撒いたりと、それらを混ぜながら耕すを繰り返していた畑だ。多少は土に栄養はあるはず。
「堆肥、肥料作りなんか基本しないもんなぁ。買ってくるだけだもんなぁ。多分これで良いだろって事しか分らん」
向陽は腕組みしながら言う。実家の農家を手伝っていたと言っても所詮は手伝いだ。つまり大体は祖父の指示でやっている事が多く、自分主体ではした事が無かった。
「……まぁしゃーないか。何とかなるだろ。トライアンドエラーが基本だ」
失敗したらしたでその時考えれば良いと向陽は頭を切り替えた。
畑作業に事務作業、施設に残っている子供達の教育指導、そんな事に追われていたらいつの間にか日も沈みかけていた。この世界は時計が無い。その代わり朝、昼、夜を計5回鳴らす鐘が鳴らされる。4回目の鐘で仕事や遊び時間が終わり帰る鐘だ。
「さっき4回目の鐘が鳴ったからもうすぐ3人帰ってくるな」
その数十分後ライとサヤが帰って来た。
「お帰り。イリスは一緒じゃないんだな」
向陽は2人に言った。するとライが不思議そうに言う。
「え?イリス姉帰って無いの?」
一瞬の間、そして向陽は我に返った。聞くと2人は終わった後服屋に寄ったが、イリスは既に帰宅したのだと聞かされていたそうだ。
イリスは真面目な子だ。多少寄り道したとしてもこんな遅くまで帰って来ないなんて事は無いはず。向陽は直ぐに奴隷紋の機能の1つである「健康管理の把握」を確認した。……が反応が無い。
「この機能は心身に負荷が掛かった時に自動的に知らせる機能だ。と言う事は今イリスは……気を失っているか寝てるか。最悪……」
死んでいるかもしれない。そんな事は考えたく無かった。
「とりあえず場所把握機能を使って今現在の位置を確認だ」
そう言うと向陽はイリスの場所を探った。すると今居る場所から数キロ離れた林道を移動している事が分かった。移動スピードを考えるとどうやら馬か何かで移動しているようだった。つまりこれは……
「誘拐されてんな。……俺の大切な奴隷に手を出すなんて許せんなぁ。ライ!ドウカクを読んでこい!」
ライは向陽の大声に驚いた。向陽との生活はまだ1か月も経っていないが、それでもここまで向陽の怒りを感じたのは初めてだった。サヤを連れてライはドウカクを呼びに走った。
「待ってろよ、イリス。必ず助けてやるからな」
向陽は指ポキしながらイリスが居る方向に向かって言った。




