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4話 石鹸作りと制服交渉

 派遣奴隷商を立ち上げる下準備として向陽は子供達に掃除、洗濯、料理を教えようとしていた。しかしここは地球じゃない。異世界だ。当然掃除機は無い。洗濯機も無い。コンロも水道も無い。だが様々なボランティア活動をしてきた向陽は柔軟に対応した。災害によって電気、水道、ガスが止まっている地域に行ったりして活動したりとその経験を活かしつつ指導していった。その際向陽は子供達にこう教えていた。


「掃除、洗濯、料理。実はこの3つは共通点があります。さて何でしょう?」


 子供達に質問をした。しかし誰も分らない様子だ。だが少ししてイリスが答える。


「綺麗に……すること?」


 向陽は正解と言った。そして続けて言う。


「掃除は勿論、洗濯は服を、料理は食べる場所や食器を、そしてここに付け加えるなら君たち自身も綺麗にしなければならない。つまりどうするか?それは……石鹸を手に入れる」


 そう言うと向陽は子供達に指示を出し、料理で使った木炭と油を持ってこさせた。桶に水を汲み、木炭を入れる。ある程度時間が経つと分離を始めるので、上澄みを掬い熱する。そこに油を入れ混ぜると石鹸のような物が出来上がるので、煮沸を行い冷やす。すると石鹸もどきが完成したのである。


「……ふう、こんなもんかな?」


 実は向陽自身作るのは初めてだった。しかし知識としては持っており(とある漫画の影響で)何とか作ってみせたのだった。子供達はその石鹸もどきに興味津々だった。ドウカクに聞くところ、この世界にも石鹸は有るらしいが、基本平民にとっては複数家で使い回しをするほどには値段が高いらしい。もどきとは言え石鹸を作ったのは後々問題が起こりそうな予感もあったが、向陽はそうなった時に考えようと思った。


「じゃあこの石鹸を使って色々していくぞ」


 それから1週間、向陽は自分の今までの経験を活かして子供達に教えていった。最年長のイリスは家事に関してはほぼ何も言う事は無かった。何なら向陽より料理が上手い可能性もあった。まぁこれは異世界だからという理由もあるのだろう。因みに女の子はイリス含め3人、男の子は5人だ。

 

 女の子で10歳のレイラ、7歳のサヤはまだ刃物を扱うのは危険という事で主に掃除、洗濯を実践させた。サヤは水魔法が使えるらしく、川に水を汲みに行かなくても済むのはかなりお得だった。だが向陽もドウカクも魔法には疎い為、子供達の中で最年少のサヤにはあまり無茶はさせない方が良いと判断し魔法を使う際は必ず誰かに言う事を約束させた。

 

 男の子の最年長クラム(13歳)とライ(12歳)はイリスから料理も教わっていた。1週間料理の練習をして分かった事はクラムは大雑把、ライは几帳面という事だった。まぁどちらも食べれる物を出せたのでとりあえずは安心した。双子のリョウ(9歳)とトウ(9歳)、ヒカル(8歳)も刃物を扱わせるのは危ないと判断して掃除と洗濯をさせた。リョウとトウは流石双子とあって特に掃除は息があったやり方で素早く出来ていた。……が遊び盛りの男の子。ちょっと目を離すとすぐふざけあってサボり癖が見受けられた。大人しい性格のヒカルも巻き添えになり、その度にレイラに怒られる場面を見ると向陽は小学校の先生になった気分だった。


 そんなある日、向陽は子供達を連れて町の服屋に連れていった。奴隷商には当然と言うしかないが奴隷服しか無かった。流石にその服では派遣業は出来ないので制服を作りに行ったのだ。


「すいませーん。子供達の服について伺ったんですけどもー」


 向陽は店長と思われる女性と話をした。


「この子達は俺の奴隷なんですけども、服がコレしか無いんで作って欲しいんですよ。制服を」


 奴隷と言う言葉に服屋の女性は少し怪訝な顔をした。まぁ予想通りの反応だったので向陽は気にせず話した。


「とりあえず男の子の方は緑、女の子の方は赤色でやれませんかね?無かったら別の色で相談したいのですが」


 向陽自身交渉事はほとんど未経験だったが、ボランティアで色んな職の人と話した経験を活かして円滑に交渉した。服の値段に関しては相場をドウカクに聞いていたお陰で予算内に収める事が出来た。


 服に関して全て終わったとこで向陽は来る前に考えていた事を実行する為、服屋の店長に更なる交渉をし始めた。先ず向陽達が行う派遣奴隷の事。今回はその制服を作りに来た事。それを踏まえて言う。


「という訳でお試しやってみませんか?今なら無料でお試し出来ますよ?」


 若干怪しい訪問販売員みたいな言い方したなと向陽は思ったが続けて交渉する。


「お薦めはこの子なんですけどね?イリスって言うんですよ。彼女は気配り上手で家事もそつなくこなせる子なんですよ。どうですか?」


 店長は若干困ったような顔をしながら答えた。


「でも……奴隷なんですよね?そのあまり言いたくは無いのですが、その子はどのような奴隷なのでしょうか?」


 一瞬言っている意味が分からなかったが、ドウカクに聞いた話を思い出した。大きく分ければ奴隷は「借金奴隷」か「犯罪奴隷」に分けられる。恐らくは犯罪奴隷なのかを確認したかったのだろう。


「この子は犯罪奴隷ではありません。……借金奴隷でも無いんですけどね。ちょっと特殊な条件で奴隷になったんですよ」


 向陽は笑顔で言った。こういう時は笑顔でごり押しすれば相手は大抵聞き返さない。


「それに……約束します。この子は貴方が心配するような行動はしませんし、仮にした場合は私が全責任を取ります」


 向陽のその言葉を聞いたイリスは向陽の方を見た。イリスが奴隷になった経緯には少なからず大人達の裏切りがあった。一応向陽が今まで出会ってきた大人達の中では良い人だと感じていた。しかしそう簡単に割り切れる過去では無い。つまりイリスが事件を起こした際、口では責任を取ると言っているがいざとなれば見捨てられるだろうという疑念の目で見たのだった。


「まぁこの世には契約魔法ってのがあるらしいですし、それ使いましょ」

 

 向陽は店長に言った。しかし店長は不安そうな顔で言う。


「しかし……私は字が読めません。私に不利な事が書いてあるかもしれない契約魔法は少し不安です」


 向陽は成程と頷いた。さてどうするか?と向陽は考えたが正直考えてもしょうがないと判断したのでゴリ押す事にした。


「じゃあそこは俺を信じてもらうしか無いですね。不安なのは俺も逆の立場なら分かりますし、仕方が無い事です。でもこの場だけで考えれば、私が貴方を騙したとしてもメリットが無いんですよ」


 この交渉が上手くいけばこの先必ずこの経験が活かせる。向陽はそう信じながら説得を続けた。


「いいですか?我々は貴族とか上流階級の者では無いし、繋がりもない。そもそも今からやる事業に対して実績すら皆無の状態。その状態で相手を陥れる行為は経営者としては愚策。それどころか逆に我々は交渉相手に対して益を多少なりとも出さなければならない立場なのです。だからこその今回の無料お試しなのです。……ご理解いただけたでしょうか?」


 多分頭のキレる人ならば反論もあるかもしれない。だが今交渉しているのはただの町の服屋の店長。イケるはずだと、向陽は内心不安になりながらも表面は気丈に振舞っている。そしてダメ押しをした。


「しかしやはりタダってのが不安要素としてあるのはご理解存じ上げます。なので今回のお試しが上手くいった暁には他の店、知り合い、近所の人に宣伝をして欲しいのです。我々の要求はそれだけですね」


 店長は少し考え、そして承諾した。向陽は胸を撫でおろした。そしてイリスの方を見て言う。


「じゃあイリス、明日からお願いするな。これが上手くいけば今後の営業に大きく影響するだろうけど、まぁ気にせずやってくれ。頼んだよ」


 この瞬間イリスの中で何かが変わった。自分は奴隷。なのに主であるはずのこの人は私に言った。『お願い、頼んだよ』と……。期待に応えたい。この人の為に頑張りたい。イリスは手を握り絞め、向陽に返事をした。


「分かりました!頑張ります!」


 そこには向陽が出会った頃の不安、絶望を漂わせていた目をしていた少女は居なかった。居るのは生きる為闘志を帯びた目をする少女だった。


 




 

奴隷商メンバー(年齢順)

イリス(15歳・女)

クラム(13歳・男)

ライ(12歳・男)

レイラ(10歳・女)

リョウ(9歳・男・兄)

トウ(9歳・男・弟)

ヒカル(8歳・男)

サヤ(7歳・女)

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