3話 奴隷紋と最初にやる事
奴隷紋。それは奴隷が主に対し抵抗出来ないようにする紋様だ。これがあるからこそ奴隷商が成り立つと言っても過言では無い。そしてその奴隷紋には様々機能が備わっている。向陽はそれをドウカクに聞いており、自分の描いた図通りにイケると確信していた。
「奴隷紋って言うのは主に逆らえない様な構造をしている。聞いた限りでは主の力量で奴隷に対する機能が増えるんですよね?本来なら奴隷を苦しめる機能かもしれませんが、俺の考えはそれを逆手に取って奴隷の子供達を安全に働かせる様に出来るかもって事なんですよ。」
そう。奴隷紋は掛けた人物の力量によっては複数の制限を付ける事が出来るのだ。そしてその制限は本来奴隷が逆らえず、逃げ出さず、逃げて無駄、といった絶望を与える為に使うのだ。しかし向陽はその機能を敢えて奴隷を安全に管理できるシステムにしようと考えたのだ。
「んで多分なんですが、ドウカクさんより俺の方が力量……魔力って言うんですかね?が強いと思うんです。なのでこの奴隷商のオーナーを俺にして欲しいんですよ。」
正確には分らないが向陽の身体は神に用意してもらった物だ。つまりこの身体も考えようによってはチートなのでは?と向陽は考えたのだった。つまりドウカクよりは魔力は高いだろうと踏んでいた。ドウカクは助けて貰った恩、戦闘能力、運営案を出す企画力、それらを踏まえて考え、そして向陽の案に賛同した。ここにより暫定的に奴隷商は向陽の店になったのである。
「論より証拠。という訳で早速奴隷紋を試してみたいんですが……やはりやるとしたら1番利口の子でやるのが良いと思うんですけど。」
するとここでお茶を持ってきたイリスが部屋に入ってきた。ドウカクはイリスに話し合いの経緯を話し、そして提案した。
「イリスよ、今お前には私の奴隷紋が施されている。それを今から向陽殿に上書きしたいのだが……やっていいか?」
疑問形だがイリスに拒否権は無い。イリスは向陽の方を見る。目線が合い、向陽は笑った。するとイリスはソファーの後ろに隠れてしまった。その動きに向陽は少しショックを受けた。
「怖くないよー?ただちょっと触るだけだよ?」
向陽は言った後「これじゃあ変態みたいじゃねーか」と思ってしまった。自分の頬を2回ほど叩き、深呼吸してイリスに近づく。咳ばらいをしイリスに話かけた。
「改めましてこんにちは。俺の名前は向陽って言うんだ。今ドウカクさんに説明されたから分かると思うけど、今日からこの奴隷商の主になったんだ。それでな?今からドウカクさん印の奴隷紋を俺の紋に変えたいんだよ。不安かもしれないが……まぁ君に拒否権無いしやるけどね?」
最後は良い笑顔で言う。和ませる為言ったつもりだったが、イリスは明らかに引いていた。それを見なかった事にして向陽はイリスの手首にある奴隷紋に触れた。そして魔力を流してみる。初めてで上手く出来るか心配だったが上手くやれたようだ。すると目の前に画面のような物が表示された。今の奴隷紋の状態を表しているようだった。因みに今はドウカクの名で「絶対服従」の1つだけが施されているようだ。向陽は名前の部分を自分の名前に変える。するとドウカクの名では1つだけだった欄が5つに増えたのだった。
「どういう事だ?もしかして奴隷に5つの制限を掛けられるって事か?」
向陽はドウカクに聞く。ドウカクは内容に驚き、そしてその通りだと言った。やはり神様に貰ったこの身体は普通とは違うようだった。向陽は悩み、とりあえず絶対服従は消すことにした。これはドウカクのような弱い主には必要だろうが、チート能力を持つ向陽には必要無かった為である。
「後々の事もあるからな……、ってなると基本は俺が奴隷の事を分かる様にするのがベストか」
そう言うと向陽は5つの欄を埋めていった。
1つ目:『健康管理の把握』。奴隷の健康状態が常に分かる様になる。心身に何かしらの負荷がかかった場合はアラートが鳴り主側に知らせる(脳内に)。
2つ目:『場所把握』。奴隷が何処に居るか分かる様になる(脳内で)。有効範囲は大陸全土まで可能。
3つ目:『虚偽不可』。主の質問に嘘が付けなくなる。無理に嘘を付こうとすると頭が痛くなる。(カキ氷食べた時のような頭痛)
4つ目:『通信会話』。離れていても主と会話可能。ただし基本は主側からしか通信出来ない。とある方法で奴隷側からも通信可能。
5つ目:『絶対防御』。主側限定能力。奴隷の身に危険が迫っていると判断した場合に、奴隷の身を守る魔法。しかし簡易的である為、有効時間は5分ほど。
「こんなところか」
設定を終えた向陽は満足そうに言った。5つの制約についてイリスに説明を施した。
「じゃあ他の子にも刻印しますか。とりあえず問題無さそうだし」
向陽とドウカクは奴隷の子らが居る部屋に移動した。部屋には7人の男女、子供達が居た。どうやらこの奴隷商にはイリスも含め8人居るようだ。向陽は子供達に自己紹介をし、そして順に奴隷紋を書き換えていった。全員にし終わった後、向陽は子供達に言う。
「じゃあ皆今日からよろしくな。んで今後の奴隷商の活動なんだけど、正直経営状況はかなりキツイ状態です。このままだとこの奴隷商は潰れて皆バラバラに分かれる事になってしまいます」
ドウカクに子供達の話は聞いていた。皆仲が良いそうで本当の兄弟以上の太い関係との事だったので、ちょっとズルいと思いつつ軽く脅しを入れながら説明を続けた。
「だから今から皆にやってもらうのは……掃除です」
向陽は笑顔で言った。子供達はあっけに取られた顔をした。少なからず子供達は内心怖がっていたのだ。どんな要求をされるのかと。しかし新しい主になった人からは掃除と言われ戸惑った。
「難しい事は後々話していくから。とりあえず掃除。まずはこの建物を綺麗にしないとな。客が来たとして不快な気分になっちゃう」
向陽は製造業に就いており、その際は色々な企業も視察に来る事が多々あった。それに伴い現場では必ず「整理、整頓、清掃、清潔、しつけ」の所謂5Sを徹底されていた。ボランティア活動をしていた際も5Sは行っており、また他の参加者にもやはり仕事場では5Sを取り組んでいる企業も少なくなかった。つまり社会人として5Sは基本だと向陽は思っていた。
「この建物入った時軽く周りを見渡したけど、所々蜘蛛の巣やゴミが落ちてたしね。とりあえず綺麗になったら少しは気分が違うくなるかも」
「しかし向陽さん、そんな事してる暇あるんですか?金も、何なら食料でさえ厳しい状況なのですよ?」
ドウカクは向陽に今の奴隷商の状況を説明する。が、それに対して向陽は反論する。
「慌ててもしょうがない。先ずは金も使わず出来る事をするのが先決だ。……金に関しては正直どうとでもなると思っていますし」
そう言って向陽はドウカクを無理やり納得させた。その後、子供達に掃除用具を持ってこさせ指示を出す。
「掃除の基本は上から下、つまり天井から始めて床を最後にやるって事だ。聞いた話だと家事全般はほぼイリスがやっていたそうだが、今度からは分担して家事を行うからな」
向陽は掃除のやり方を教え実践させた。子供達も最初は戸惑いがあったが、素直に向陽の教えを忠実に守り掃除をしていった。
「この分なら建物内は今日中に最低限終わりそうだな」
向陽は子供達の掃除の様子を見て呟いた。その時横に居たドウカクが言う。
「向陽さん、何故子供達全員に家事をやらせようとしているのですか?奴隷を貸す商法をすると仰いましたが、最終的にはどのようにお考えなのですか?」
ドウカクは説明を求めてきた。向陽はニカッっと笑いドウカクに説明した。
「家事は言わば生活の一部です。やらなければ生きてはいけない。しかし世の中には自分でしない者、人の手を借りたい者、様々な人達が居ると思います。そういう人にこの子らを派遣するのです。最初は精々庶民の家庭へのお手伝い程度で貰える金額も少しでしょう。だが感謝はされる。確実に。そしてそこからしっかり実績を積み、信頼を積み、力を積み上げれば貴族、王族、そして他国への進出。そんな未来を俺は見据えているんですよ」
「貴族?王族?他国……?規模が大きすぎて私ではちょっと想像が出来ません……」
ドウカクは絵空事だと思った。こんな潰れる寸前の奴隷商……そう奴隷商だ。綺麗な商売じゃない。そんな店にそんな未来はくるはずない。だが目の前の青年はそんな未来が見えているのかのような雰囲気だ。
「世の中潰れかけた企業が一発逆転をかけた商法で大企業に上り詰めたなんて話はザラにある。だがその為には先ず下地、基礎が必要だ。その第一歩が家事だ。家事が出来て困る事は絶対無いし、絶対必要だ。俺でもある程度なら教えられるしね。とりあえず1週間は徹底的に教えますか」
向陽はそう言うと子供達に掃除のやり方を教えに行った。その自信溢れる姿にドウカクは向陽に最後まで付いて行くことを決めた。例え奴隷商が潰れたとしても……。
しかしこの説明をしている向陽自身は自信には溢れていなかった。いや正確に言えば「何とかなるだろ」精神でいたのだ。失敗したらしたでその時考える。一応対応策も考えるが結局は物事が起きた時に考えるのが1番、だと向陽は自分なりの持論を持っている。その考えがある為先ずは行動をする。その姿がドウカクからすれば自信満々の行動に見えたのだろう。
「奴隷紋」の説明
この世界では魔法が有り、誰でも魔力を持っています。練習すれば向陽も魔法が撃てるかもしれません。奴隷紋を付ける際、奴隷は主人に対して様々な制限を掛けられます。その制限は主側の魔力に左右され、制限数は平均は2~3個となっています。つまり向陽の5つはかなり規格外の魔力を持っている事になるのです。




