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6話 イリスの過去

「お疲れさまでした。明日もよろしくお願いします」


 イリスは服屋の店長に挨拶をし、店を出た。待っていればライとサヤが来るので一緒に帰る為に待つ必要がある。


「今日の食事当番クラムなんだよねぇ。クラムは大雑把だから具が大きかったり、塩の入れ過ぎでしょっぱかったりと大変なんだよね」


 と、帰った後の事を考えてた時、道端に綺麗な花が咲いているのを発見した。


「あれ……サヤに渡したら喜んでくれるかな?レイラの分も取ってあげないとね」


イリスは近づき花を取ろうとした瞬間、口を布で抑えられた。布には眠り薬に使われる薬草の成分が沁み込まされており、イリスは驚いた反応で深く息を吸ったせいでその成分を大量に吸い込んでしまった。そして瞬く間に気を失ったのである。


 


 その事件が起きた1~2時間後にイリスに非常事態が起きた事を知った向陽はドウカクを呼び、今からイリスを助けに行くと伝えていた。


「し、しかし、行くと言ってももう門は閉まっています。どうやって行くんですか?」


 ドウカクは言う。確かに門は4つ目の鐘が鳴ると閉まる仕組みだった。


「それは大丈夫。それよりも人一人拉致して門を通れるって、どういう管理してるんだよ」


 イリスは完全に町の外に居る。つまりは鐘が鳴り門が閉まる直前に門外に連れ出されたのだ。


「入る時は厳しいんですが……、出る時は簡単なんですよ……」


 つまり町に入る時は犯罪者を入れない為審査が厳しいが、出る時は外で何が起きようと関係無いので軽く審査をするだけで出て行けるらしい。大学かよと向陽は思った。


「兎に角、俺はイリスを助けに行ってきます。ドウカクさんは他の子供達をお願いします。……必ず助けてくるから飯でも用意して待っとけって言っておいて下さい」


 そう言うと向陽は6つ目のチート能力を使った。その名も「飛行能力」だ。出そうと思えば時速1000キロは出せる。……が周りに被害を及ぼすので速度には注意。高度にも限界は無いが、場合によっては普通に死ぬのでこれも注意。(寒さと酸素)


「まさかこれは飛行魔法ですか?確かこれは相当な技術が必要な魔法だった気がするのですが……。向陽さん、あなたは一体何者なのですか?」


 ドウカクは驚きと、そして畏怖を感じているような表情をした。恐らく向陽が使う能力の数々は、この世界の住人からしたら最早化け物に見える感じなのかもしれない。


「その内教えます」


 そんな事を感じながらも向陽は飛んだ。イリスを助けに行くために。



 イリスは夢を見ていた。奴隷商に来る前に起きた出来事の夢だった。イリスはとある村の普通の農民の家に生まれた。しかしイリスの髪は銀色だった。この世界で銀色の髪の持ち主は聖女候補として崇められる対象になっており、話を聞きつけた協会関係者がイリスの下に訪れた。両親は泣いてイリスを見送った。だがイリスは知らなかった。両親が大金を貰っていた事を。


 そしてイリスは教会本部に連れられ、他の聖女候補と聖女に成る為の修行を行った。しかし裏では教会内での派閥争いがあった事をイリスや他の聖女候補は知らなかった。教職者は自分が連れて来た候補が聖女に成れば高い地位を築ける。つまり他の候補が邪魔になる。するとどうなるか?


 他の聖女候補の暗殺だ。


 イリスも当然殺されかけた。ある時は食べ物に毒が。ある時は罠が。騙し、騙されが横行し、イリスは命からがら逃げた。だが家の方向は分らない。兎に角走った。その内お腹も減り、傷も増えてきて上手く走れない。……そして力尽き倒れた。


 ……気が付くとイリスは馬車に乗せられていた。傷の手当てもされている。


「ここは……?」


 イリスはゆっくり起き上がり周りを見渡す。馬車には他にも荷物が置いてあった。すると馬車を操っていた人物がイリスに気が付き声をかけた。


「おっ、起きたか。お前、銀の髪って事は聖女候補だろ?聞いた話では今大変な事なってるらしいな。大方逃げて来たんだろ?」


 その人物はニヤケながら言う。この人物こそドウカクの父親だった。


「俺はギンカク・アスコラルってんだ。奴隷商をしてる。俺に拾われるなんて運が無いな。……いや、逆に運が良いのか?まぁとりあえずお前はもう俺の奴隷、商品だ」


 ギンカクは凄味ながら言う。歳は60歳を超えているが、年齢を感じさせない威圧感でイリスを脅した。しかし今のイリスには効かなかった。騙され、殺されかけて逃げて来たイリスは今や心が死んでいる状態だったからだ。それを察したギンカクは言う。


「そんな状態じゃあ高く売れんなぁ。とりあえずこのフード被っとけ。そして帰ったら俺の世話をしろ。最近体にガタがきて色々大変なんだよ」


 奴隷商に帰った後、イリスはギンカクの身の回りの世話をした。厳しくも何処か優しく接するギンカクにイリスの心は徐々に回復していった。ギンカクがどういう思いでイリスに自分の世話をさせたのか、それはイリスには分らない。けれどもギンカクとの生活は奴隷と主という関係ながら、どことなく祖父と孫娘といった生活でイリスには心地よい環境だった……。


 そこでイリスは目を覚ました。暗闇?でもちょっと明るい?ずっと目を閉じていたイリスは、直ぐに暗闇に目が慣れた。そして辺りを見渡す。


「ここは……牢屋?」


 恐らく洞窟の中の牢屋に居るようだった。すると後ろに人の気配がした。振り返ると大人の女性が数人居るのが分かった。


「ここは何処ですか?」


 そう尋ねると座り込んでいる女性の一人が答える。


「ここは人攫いの拠点みたいな場所だよ。あいつら、髪色が珍しい女性だけを狙ってるらしいのさ」


 そう言う女性の髪の色は青色だった。他の女性も緑色やピンク色の髪をしていた。


 この世界の髪色は基本「黒・茶・赤・金」の4色だ。それ以外の髪色は珍しく、何かしら能力が高かったりする。また髪自体も高値で売れる為、それで生計を立てる人も居るくらいだ。しかしそのせいで今回のような人攫いに攫われる危険もあるメリット、デメリットが大きい特徴だ。


「私はメリッサ・フェロール。私も昨日連れて来られたのさ。そこの二人も同じ。そろそろ何処かの奴隷商に高値で売られるかもね。まぁもう諦めてるけど」


 イリスのメリッサに対する第一印象は、青髪ロングヘアーの美人だった。多分スタイルも良い。胸は大き過ぎず小さ過ぎず、体は引き締まっていて足も長い。女性なら憧れる人は多いだろうと予想されるプロポーションだった。


 その時、イリスの奴隷紋から声がした。声の主は勿論、向陽だった。


「イリス!大丈夫か?健康把握の機能で通常状態なのを確認したから通信したぞ。今どんな状況だ?」


 向陽の声を聴いて、イリスは自分でも気づかない程度には安心していた。そして無事な事、洞窟内の牢屋に居る事、他にも捕まってる人が居る事を伝えた。


「成程、分かった。あともうちょっとしたら助けに到着するから。んで通信はこのまま繋いでおくからな。安心して待ってろ」


「はい、分かりました」


 二人は会話を終える。それを見ていたメリッサは驚いていた。


「あんた……もしや誰かの、いや、今の声の主の奴隷かい?主が奴隷を自ら助けに来るなんて聞いた事ないね。大丈夫なの?」


 当然の疑問だろう。奴隷商の人間が奴隷を助けるなんて話は無いに等しい。ましてや自らなんて。しかし目の前の少女は明らかに声を聴いて安心している雰囲気だった。


「大丈夫です。私の主様はちょっと変わってる人かもしれませんが、信用は出来ます」


 奴隷紋から小さい声で「おいっ」という声が聞こえてきた瞬間、牢屋に居た全員が少し笑ったのだった。

 

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