人類終末機関 其の漆
自室に向かう道中でやけにげっそりとした人を見かけ、視線を向ければそれはついさっきやらかした新入職員だった。
まぁ研修担当が指示出しミスってたことが判明して研修のやり直しで済んだ分まだマシだろうが。
「そんな絞られるような説教でもされたのか?」
「あっ...お疲れ様です帝先輩......」
うーむ後ろから見えた悲壮感漂う背中は未間違いじゃなかったか...思った以上に重傷だけど何があったんだ?
「実は研修のやり直しってことでさっきまで集中教育室に居まして...」
「あぁ...下手な罰よりよっぽど有意義だな」
集中教育室...名前は個室でがっつり業務内容を叩きこむ部屋っぽい響きだが、実際はAIがヘッドセット型の授業型教育注入システムで圧縮授業を脳に文字通り”叩き込まれる”のだ。
誰が呼んだか「集中教育室」だ…短期間で加速度的に知識を得られる代償に人間性を失うとかなんとか...過去の資料でいうところのオカルト的噂話があるぐらい恐ろしいものだ。
「んでその疲れようってことね、どういう内容だった?」
「自分の担当をしてくれていた方の説明してくれた内容と大分違ったせいで、一から覚えるより苦痛でした...」
「間違った知識を消すところから始まるからなその場合...うん外れを引いたと思って素直に割りきってしまえ」
「そんなもん...ですかね?」
実際割り切るのが一番手っ取り早いからな、外れの先輩は往々にしているものだ。
あとは自分が未来でそうならないように努力するしかない。俺は努力せずそこそこの人間へと成長する方向に路線を切り替え済みだがな。
「あ、そういえば先輩...AIの授業でも分からなかったところがあるんですが」
「え、あの圧縮授業で分からないこととか出てくるか?」
あれ要は教科書埋め込んで目的のページを脳内で開く方法を教えてるようなものだからな、嫌でも理解できるはずだが...範囲外の質問とかかな?
「その...触手って結局何?って話を振ったらスルーされまして」
「あぁ、その辺は確かにAIの範囲外だな」
AIの授業は手軽で分かりやすいが結局人間が打ち込んだ記録や歴史からしか出力できない欠点がある。
まぁどうも最近はその辺も克服して「自己学習」するAIとかの研究も進んでるらしいが...その辺は俺も範囲外だ、後で蓮辺りにでも聞いてみるといいぞ。はぐらかされるかもしれんが。
「そしたら触手の歴史の授業でもするか...部屋でやるより適当な会議室借りた方が説明しやすいな」
「ぜひお願いします...もう知らなかったであんな授業は味わいたくないので...」
うーんこの悲壮感。小動物的可愛さを抱きそうになるが生憎俺の守備範囲外だ。
...…
...…...…
...…...…...…...…...…
「さてまず何から話せばいい?」
「ひとまず触手の歴史について...」
その辺話始めるには国の歴史と並行しなきゃいけなさそうだが、そこら辺は教わってそうだな。
「まぁ知ってると思うので割愛しつつ話すぞ、まず地上で生きてた人間が地下で生きていくことになった。オゾン層が消し飛んだかららしいが原因とかは知らん、後で歴史書でも読み漁ってくれ」
「そこは教わりました、でもその後からが若干怪しくて…」
「えーっと地上で生きていけなくなって、世界各国みんながおてて繋いで地下に逃げて、他の惑星や衛星に逃げれるかなー無理そうだなーって結論が出た」
「成程…触手はまだですかね?」
「もうちょい待て。そんで各国が自給自足の話を出してこの国、日本もそれに賛同した。ただ今までが割と輸入に頼ってたからいきなりの自給自足はかなり苦労したらしい。そこで触手が出てくるわけだ」
おぉ待ってましたと言わんばかりの拍手。話す方の気分も上がるってもんだ…まぁこの歴史を気付いた本人ってわけでもないんだがな、普通に生まれる前の話だ。本で読んだ知識を出力してるだけだがいうのは野暮だな、続行!
「地下で生きることが確定する前なのか後なのかは分からない。この企業の事のくせにどこの資料にも記録として残ってはいなかったからな。ただ間違いなく見つけて研究することを選んだのは「国家培養触手機関」で合ってる」
「この企業が始まりだったんですね…てっきり他国からの技術提供かと」
「ゲテモノ食いの技術他国から入れるわけないだろ…寧ろ発信して引かれるタイプの国だろ?」
過去の記録を読んだから知ってる、この国の住人は皆等しくゲテモノ食いの血を引いているんだ。
そして他国に引かれてもいるんだ。
「まぁともかく発見されて研究を開始された「触手」はある特徴を持っていた、それこそ我々の業務でありお前がやらかした部分でもあるから覚えておくように!」
「その節はご迷惑をおかけしました…」
「会う機会がもうないかもしれないが、もし会えたらちゃんとお前がやらかした苗床ちゃんに頭下げとけよ?」
残念ながら謝罪の機会はこの企業内では与えられないから、明日帰っちゃうし。
「触手の特徴、それは他生物の雌個体に寄生し繁殖するということ。そしてその触手が食用に出来ることが見つかったのが始まりだ」
「喰えるって判断したのってやっぱ食糧難だったからですかね?」
「その辺は知らんが、地下に逃げるにもそこそこ猶予はあったらしいし…食べれそうって共通認識だったんじゃね?」
そんな馬鹿なって言葉を表情で表すならきっと今のこいつの表情を言うんだろうなぁ。
「そして食糧問題の解決に繋がると考えたこの企業が研究を改めて発表して、大々的に開始し始めましたというわけだ」
「成程…で、触手ってなんなんですか?」
「さぁ…?」
おぉ本日二度目の素敵な表情じゃないか、写真撮って後で蓮に送ってやろう。
それはそれとして「触手」の正体ね、それは俺も気になる所だが別にそれが分かったところでどうしようもないしな…変に原材料に詳しくなって喰い辛くなっても嫌だし俺は遠慮しておくかな。
「正体が気にならないんですか先輩は…?」
「ならないこともない…が、別に分からないなら一々気にしてもなってかんじかな」
丼にして喰ったりしてるし、犯罪者に実験的に植え付けたりしてるし…今更正体知る方が怖いわ。
でも俺の業務的にいつか知ることになりそうだなぁとは思ってる。言わないけど。
だってどう考えても苗床ちゃんのお世話も犯罪者達用の触手研究もしていい立場の人間って普通内情把握してるもんだろ。
俺ですか?何も知らない。日々楽しく仕事してだらだらと生きている!それが幸福なんだもの!
Q:触手って何なの?
A:さぁ?
この企業の根幹に関わる部分なので情報開示もごく一部の人間にしかされていない。
が、この主人公はぶっちゃけ見たいと言えば見せてもらえるぐらいの立場にはいる。
本人がこの性格で生きているから「まぁ見せなくてもいいんじゃね?」となっているだけ。
Q:触手ってなぁに?
A:今の日本人にとっての食糧であり、働き口であり、研究対象であり、■■■■■である。




