人類終末機関 其の捌
「まぁ触手が何かは深く気にする必要はないだろ、どうしても気になるならそれなりの役職に就け」
「就いたら教えてもらえるんですか!?」
「確かそんなこと言ってたぞ、面倒だったから断った気がするけど」
「あ、先輩その候補に挙がるぐらい優秀だったんですね...なんかごめんなさい」
何故謝る?っていうか別に優秀じゃないぞ、自分の価値観とか給料の使い道とか話してたら「それなら君は今の地位に居た方が都合が良さそうだねぇ」って言われたからな。
「それ、余計なしがらみなく働けるようにって斡旋だったのでは?」
「知らん、あと触手の勉強はもういいのか?」
「ぶっちゃけ帝先輩の事の方が今は気になりますけど...これで自分も左遷とかになったら嫌なんで、続きお願いします」
続きって言ってもなぁ...歴史的な話でいうとそこから先はほぼ今と変わらないからなぁ。
「んー、ひとまず触手が"何か"は置いておいて、この企業が研究を開始するにあたって明確な問題に直面した」
「あ、そこはなんとなく分かります」
「想像通りだ、小型生物では触手を繁殖させたところでサイズが食糧鵜に不向きだった。では大型生物で試そう!と思ったときには地上からの回収手段がなくほぼ絶滅状態だ」
これで下手に触手の繁殖に利用して完全に絶滅しました!なんて事態になってみろ、企業諸共潰される可能性すらあるわ。
「んで、結局一番簡単かつ有用なモルm...被験体兼実験体として人間が使われることになった」
「当時の苦情、想像もできませんね...」
「まぁ記録にも残ってるし後で見てみるといいぞ、中々凄まじい文章量だった」
「読んだんすね...」
大雑把に資料室で物理媒体の本でない量を理解した状態でAIに圧縮授業してもらえば、脳への負荷を最低限に必要な知識だけ収納できて便利だぞ。
どうでもいい豆知識とかそれで結構詰め込んでみたりしたし、意外と便利なやり方だと自負している。
「ざっくり言えば"倫理観"と"生存"のぶつかり合いって感じ」
「いやな相撲ですねぇ...押し出しで企業側の"生存"が勝ったってことですか?」
うーんどうだろう、今尚続いている問題らしいから多分勝敗は決まってないんじゃないかな、仕方なく天秤が傾いているだけで。
「そして人、しかも繁殖目的の寄生だから苗床として女性でなければいけないわけで」
「大量の苦情が...」
「いや、実はそうでもなかったらしいぞ」
「あれ、でもさっきは...」
実際声を上げたのは所謂外野の人間だ.
自分たちが立候補するわけでも選ばれたわけでもないのに、やれ「人道に反する」だの「被害者の気持ちを考えろ」だのわけのわからん主張を続けていた奴ら。
企業側は最初の時点で「苗床ちゃん」の形を説明していたから、野次の内容がお門違いもいいとこだったんだよなあれ。
前提として、「自主的な参加」「一年後の経済的援助」「他国民の食糧問題解決への協力」が条件に組み込まれていた。
なので無作為に選ぶのはよほど切羽詰まったときの最終手段だったし、実際それは起こらなかったわけで。
「まぁ今でこそ毎年募集して参加してくれる人を呼んでるけど、そもそも昔は溢れかえってたらしいしな」
「え、そんなに参加希望多かったんですか?」
「実際かなりいたらしい。そもそも人類存続の危機みたいな状況だし明日喰う飯の心配が付きまとう状況だしで、参加すれば最低限の食と住が保障されてたからな」
そう、自身は触手を生まなければならないがそのための栄養補給として食事はちゃんと出されるし、企業内ではあるが住む場所が提供されるってことが当時の地下暮らしの中ではかなり革新的だったんだ。
「そんで初っ端から思いのほか多い人数が苗床になってくれたおかげで翌年以降の食糧が安定化、結果募集人数を絞れるぐらいに今は増えてるってわけだ」
「苗床ちゃん達だけで国民全員賄えるってことですもんね」
「そういうこと、あと苗床ちゃんを一年やってそこまで不満が生れなかったってのも理由の一つだな」
「え、猶更この間の自分の行動駄目じゃないっすか」
そうだよ、「苗床中に怖い思いをした!」なんて言われた時点で募集率がガクっと下がるかもしれない。
そうなったら職員一人じゃ何も取り返せないからな...いやまぁ苗床になるって償い方はあるけど...。
「よかったな、処分場で働くことになってたかもしれないって自覚できて」
「マジで気を付けますしちゃんと勉強しておきます...!」
そうだなーもし同じミスしたら本当に処分場で一生触手生産工場扱いされかねないからな。
その担当職員に俺がなるかもしれないけど...まぁ笑ってやるから安心しろ。
「本当にそうならないよう頑張るんで、マジで勘弁してください…」
「別に推薦したりしないから安心しろ」
さてそろそろいい時間かな、苗床ちゃん達の一年の業務に終了を告げに行くか…。
苗床ちゃん達のお仕事紹介!
始まり:触手を養殖してる頭のおかしい企業の「苗床ちゃん募集」に応募する。
理由は金銭的な余裕のなさが多いが、普通にお試し感覚の人も一定数いる。人は今のご時世産んで増やしても食糧が...でも触手なら産んでみたいかも?みたいなノリ。
企業到着後:ある程度年齢や体格でグループとして割り振られる。集団生活だがぶっちゃけいじめだの人間関係の悪化だの起こす余裕はない。
だってこの時点で健康診断的なのを済ませ終えたら即日苗床業務が始まるから。
苗床業務:お腹に触手をIN!人間と違ってひと月もせずに産まれるし、最初に入れた触手が出てくるわけじゃない。尚サイズが初戦触手なので人を産むよりよっぽど体への負担が少ない。これが理由で再度応募する者もいたりする。国としても助かるので別に拒んだりはしない。
あとは適度に運動して、ご飯食べて寝て起きて産んでを繰り返す一年。
ストレスを感じないように基本的に自由に過ごせるよう処置がとられている。




