73 ハーフリング少女と世界開始の物語り
神は光。それは黄金の輝き。
遙か昔、意志ある光がこの世界総てを創造しました。
最初に造物主が入ると、闇が広がり光り輝くのは自身だけ。
そこで「光り在れ」と言われた。
星々の渦が須臾と現れ、無限に拡がる暗黒の隅々までを照らします。
一日目のでした。
「ねえシェス。星ぼしって、あの空のお星さまのこと?」
「ええ、そうです。
神様はまず、天空にあるお星様たちの世界を創造なさったのですね」
向かいあって寝そべったシェスとボク。
シェスは小声でセブンデイズ・マイセルフを語りながら、髪を撫でてくれた。
やさしく微笑み目を細めボクを見つめている。
今はビクセン郡入りを目前にしての、最初の夜。
――ああ……ボクたちはあのころ、ただこんな風に甘えさせてくれる女のヒトを求めていたんだ。…………たった二週間くらいで追い出されてしまった、気の毒な若い修道女さん。
ボクらがかまって欲しくてまとわり着いたせいで、苛められていたのかな。
だとしたら本当に悪いことをしちゃった。
今はどこで、どうしているんだろ。…………元気でいるといいな………………。
ビクセンに向かう道筋で、夜を迎えた俺たちは食事を済ませ野営に入った。その時シェスと寄り添って寝たウルの胸中で、俺も彼女が語る〔天地開始のお伝え〕に耳を傾けていた。
(〝星々の渦〟って、これ明らかに星雲のこと言ってるよな?!
創世記や古事記の神代篇は天地開闢から始まっているのに、アストランの聖典では宇宙の創造から解説されてたのか。信じられん)
俺は以前、この世界の天文学者に該当する人物に訊いてみたが、彼はアストランが球体惑星である事実を知っていたが、星の動きに対しては天動説の立場を採っていた。
やはり地球に於ける中世の頃で進歩が止まっているらしい。
望遠鏡は存在せず、あっても倍率が低すぎて見えないから、この異世界・アストランの者達が記述の正確さを知るのは、もっと『遠い将来』ってことになりそうだ。
神は自らの聖体から星々の渦と同数、最小単位の光子核を取り出された。そして各々に自由な思考と性質を与えて解き放ったのです。
誕生した子らは、いっせいに歌い出します。
「いと尊き創造主。聖なる至高の存在よ ―――― 凡てを超越する完全体にして、我等が父。あなたの栄光を永久に賛美いたします」
周囲はとても賑やかになりました。
二日目です。
神はまたこう言われた。
「子らが只、私のそばにいるだけでは変化も成長も無い。あらゆる感覚と感情を知り、己を磨くための場を創ろう。その大地すべてが私の神殿となるように」
子供らは歌う
「いと尊き創造主。あなたの目的通りの物が出来あがることに、疑いの余地はありません」
神は塵を集め《 アストラン 》を、
それから対をなす異世界《 エルデラン 》を創造しました。
三日目です。
――そしてこの異世界が、地球と同じ位置に存在していると俺が確信できた理由がある。
星座の位置だ。
詳しい訳ではない俺でも、オリオン座や北斗七星くらいは知っている。
無論、北極星もで、それが同じ場所にある。
つまりエルデラン(地球)とアストランは、別次元に重なって存在していることを示していた。
神は子らの生活に必要な環境を大地に設えた後、こう言われた。
「すべての物は塵を壱単位として、子らの魂の乗り物も造るとする。子らはその場に臨んでこれまでの憶えを失い、初子のままに喜び、時に苦痛に耐えて己を見つけ出さねばならない」
子供らは歌う
「いと尊き創造主。自身を高める場を賜り感謝いたします。あなたの期待に応えられますよう、心して臨みます」
四日目のことです。
(この辺は仏教的要素を感じさせる場面だが……)
現実世界は修行の場なんで、神の存在や天界に関する記憶もすべて失い、一から始めなきゃならん。
死と虚無への恐怖は人間の精神を酸みたいに浸蝕するし、肉体の苦しみや誘惑も多いから、道を踏み外す者が続出するのも道理ってものだ。
大地に最初の子らを送りだす前、神はこう言われました。
「行き来できぬ二つの大地に、それぞれ異なる趣きを与えよう。乗り物は、在るが侭の形の他、アストランに異なる形状を多数置く。
エルデランには在るが侭の形の乗り物だけを置く事とした。
何れも脆く壊れやすい作りで、三つの欲求を組み込んでいる。子らの魂を大いに翻弄するであろうから、心配である」
子供らは歌う
「アストランは神の遊び場、エルデランは実験處。いと尊き創造主。ご心配には及びません。必ず耐え抜いてご覧にいれますから」
五日目でした。
(今シェスの詠んだ詞。子らの言葉通りなら、いったいどんな実験をしていると言うんだ? 創造主は。…………)
この異世界と違い、俺の故郷・地球には人間以外存在しない事と、なにか意味や関連があるのか? 随分と気になる部分だが。
それにやはり〔在るが侭の形〕とは、人間型がベーシックと言うか、スタンダードとされている様だ。
其処が一部の国で人間至上主義が提唱される遠因にもなっている。
神はアストランとエルデランに、それぞれの種族体形につき、異なる二対の乗り物を用意しました。それは子らが入る乗り物を、地上に増やすための仕組みを考えてのことでした。
「男と女を造り、それぞれ役割を設けた。補い合うことで肉の子孫を増やして繁栄するのだ。地上に降りる前、各々婚姻と親子の約束を交わし、その契約は必ず履行されるものとする」
(ほう。コッチはまんま、赤い糸の伝説だな)
――――実は結婚に至る相手が、生まれる前から自身で決めたものとする場面だ。加えて親子の縁までも、偶然では無いと示唆している。
神はさらに続けます。
「先日に述べた三つのうち、肉の子を成さんとする欲求は強めなので、それ自体が目的にすり変わらぬよう、充分に注意するのだ」
子らは応えて歌います。
「いと尊き創造主。如何ほどのもので、どのように強いのかが楽しみです。きっと適切に扱えると確信しています」
六日目でした。
(甘い! まるで十万石饅頭のように甘いぞ!)
……この時の僕らは、麻薬みたいに甘美なその欲求に抗えると、信じて疑わなかったのである。
なんちゃって………………。
すると、ふいにウルが内心で語りかけてきた。
(「ねえねえ師匠。子を成さんとする欲求って、そんなに強いの?」)
(『う~~ん。まあ具体的には、子を成さんとする行為に伴なう〝快楽〟かな。これにハマり過ぎると時に性癖が歪んで、えらい状態に陥るヤツも出てくるからね』)
(「経験者は語るってやつだね!」)
(『まぁたキミはそういうコトを。…………ともかく俺の世界では過去にコミュニティ全体がこれにハマったことで神の怒りに触れて、二つの大都市と三つの小都市が一度に硫黄の火で焼き滅ぼされたこともあるようだ』)
(「なんだってぇーーーって、スゴイねソレ! 本当のこと?!」)
(『実際遺跡が存在してるから。……全能の父は、エルデランの子らに容赦が無いんだ』)
(「やっぱり神様の慈悲が、エルデランには届かないのかなぁ」)
(『まあね。だからキミだって注意が必要だよ。年頃になれば誰にでも訪れる事だから』)
神は子らの最初のつがいをそれぞれの場所へ置いた後、七日目は休息としました。
肉の子らが体を休めるため、これに倣うよう祈りをこめて………………




