72 ある吟遊詩人の独り言 ― 会った、見た、聴いた!
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緊急事態の直後、安宿の一室にて記す。
昨晩から開始のミスリル級冒険者・魔導師ウォルフェ氏との会談を終えた、私こと吟遊詩人のバシュック・キュールが、翌朝の今日昼過ぎからメモに書き留めておいたすべての内容を、清書の上まとめておく事とする。
この街の酒場で聴いてウルの存在を知り、しかも幸運なことに当の本人がコロンポルを訪れたのを幸い、冒険者ギルドに張り付いた。見張っていた甲斐もあり三日間ほどで本人を特定。接触を図る。
目的地へ着くまでの間、いい歳をして危険な移動手段を使ったため、相手から窘められるという恥ずかしい〔注・対象者が9歳の少女であるから〕場面もあったが。何とか承諾をもらい、話を聴く事ができた。
他に質問に答える時の相手の反応や様子も、記憶が鮮明なうちに付記しておきたい。
特徴 背丈4コム(120㎝)弱で色白・痩せ型。年齢:9歳 性別:女性
技能:魔導師
指南者:ノル・ホタカミ。
(現在は某所にて静養中とのこと。引退の意思は無し)
二つ名は〝ドラゴンスレイヤー〟である。
印象 可愛らしく清げ・明朗快活である。情緒率直で表情は豊か
(但し、時おり陰が差す)
取材後「名前を略称で呼び捨ててかまわない」と言われた。
とてもフレンドリーな性質であり、これらは小人族の特徴として、一般的に広く指摘される性向と符合する。
*魔導具について
魔導師であるというウルが使用する杖は〝火花杖〟と称される。
金属製と見られる黒く丸い棒を乗せた木製の床で、この木の部分は石弓とよく似ている。
下部に指をかける小さなコックがあり、それを環が取り巻いている。
黒光りしており、この部分も鉄と思われる。
全長は目測で3コムと少々ほどで、これは保有者のウルよりも頭一つ分短い程度である。
非常に重みがあるらしく、取り回しはゆっくりとしたものだ。金属棒の上には短い筒が取り付けられ、ここを覗きながら片膝で石弓同様に構えていた。
術の発動時は無詠唱で、小声で何かつぶやいていたのかも知れないが、私の耳にはまったく聞こえなかった。
発動直後は非常に大きな破裂音がした。棒の先端には大きな火花が咲いたように見えたが、一瞬の間であった。その効果については後に詳述する。
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*特筆すべき点
かなり気になったのは、会話の途中で一人称がしばしば変化することで、俺と言ったり僕といったりしていた。
〔僕〕のときは明るく元気があり笑顔を見せ表情も豊かで、あどけない言葉使いも年齢相応だったのに、〔俺〕と称している時は心なしか妙に男性的な口調や態度になって、表情も固く大人びた雰囲気になったと感じる。
二面性があり、ひょっとして心の病なのか? その点がどうも…………
まあ、冒険者、特に上級の者は風変わりな個性の持ち主が多いと言うし。
日常生活に支障をきたさなければ、それほど気にする必要もないのだろう。
*追記
ところで現在の勇者・セシルにまつわる話では、あえてウルに伝えていなかった事がある。それは彼女が慕うという兄上様たちについて、伝聞に齟齬があるという点だ。
公爵家には4人の男子がいるのだが、セシル自身の発言で「ふたりの兄」という言葉が複数回出た、との風聞を耳にしている。
これはまったく根も葉もない噂か、4人のうち彼女が特に想い入れの深い2名の兄上様について言及したに過ぎないのかも知れないが、気になる食い違いではある。
いずれにせよ、曖昧な情報を取材対象に伝えるのは混乱を招くだけと躊躇われたので、今回は言及せずにおく。
冒頭の緊急事態発生により、直前に取り交わした約束は双方同意のもと、すべてキャンセルとなった。
現勇者についての説明中盤という、信じられないタイミングで〝全方位の暁〟と思われる現象と遭遇。私は情報収集・ウルは混乱回避のため、急ぎコロンポルを離れるという。
*総評
個人的には好感を抱かせ、相当に強い印象を残す人物だった。
それにしてもミスリル・ランクの実力と言い、あの子の見識や分析能力はとても九つの女の子とは思えない。
しかもそれが冒険者には向かない、との評価がもっぱらのハーフリングときている。
実力を示す直近の出来事として、ニコラシカ村で他者の支援なく巨大なトロルを一撃で討伐してのけた。
そして何よりつい先ほど私の目の前で、2ローク以上は離れた場所から走り去るオーガを、これも一撃で倒してのけた。
そのさい雷が身近に落ちた様な大音響が炸裂、しばらく耳が遠くなってしまって焦る。
「耳を塞いだ方がいい」
そう事前に忠告を受けていたのを、聞き流したのは不味かった。
ノル・ホタカミという人物……冒険者・ドラゴンスレイヤーとして辣腕を振るうかたわら、あんな恐ろしい後継者を育て上げていたとは。
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