71 決定的瞬間 ! ―― そしてコロンポル脱出へ
「ひょっとしてこれっ…………神威魔法。……………………じゃ、ないのか?!」
応じて、もう一人がうめくみたいな声を絞り出した。
「あ、ああ。すべての方角の空が…………。黄金色は、創造主の栄光だろう?」
「だがどれほどの距離があると思う! もしそうならどれだけ大きいんだよ?! 北部大陸全体を覆ってなきゃ、ありえんだろう!!」
――そうだ。たとえ連中の言う通りだとしても、現場の大陸は地平線の彼方。惑星の裏で起こったはず。それが見えるということは…………あれだよな、諸君。
「勇者が魔王と直接対決した、とか……」
「やっぱり。しかも全方位の暁は、神威の全開放時だけ起こるって」
「魔王軍が敗れた。………………本当に、魔王ベルクサタナが滅んだのかっ………………」
しばらく続いた低いざわめきの後、一斉に大歓声が上がりはじめた。
「 神は偉大なりっ!! 神は偉大なりっ!! 神は偉大なりっ!! 」
どこからか、狂ったように絶叫する男の声がする。「勇者万歳!!」そう叫ぶ声も聞こえる。
熱狂と興奮の輪が広がり、騒然とした空気が周囲を包みこむ。一瞬にして巷は狂喜乱舞、混乱の渦中へ巻き込まれた。
中には天へ向けて、持ち出した弓矢だの石弓を乱射する一団も出てきた。
――――オイオイ。救い主である神さまに向かって弓を引くなよ、バチあたりめ。
ここでは創造主が人類(亜人・獣人含む)の危機に際して直接的な介入を行い、勇者を出現させたりする。これ見よがしに奇蹟を誇示するのだ。まるで旧約聖書の世界のように。
〈カララ――――――――ン、カラ――――――――ン、カララ
――――――――ン!!〉
目前の教会が打ち鳴らす、けたたましい鐘の音が街中へ響き渡り、騒然とした空気をさらに煽り立てる。
(「…………なんだか怖いよ、師匠」)
(『うむ。宗教的熱狂ってやつだ。俺も苦手だな。注意しようか…………それにしても、本当にロッシイナで炸裂した光であれば、相当な光量と眩しさだろうな』)
勇者自身は別として、付き添っているパーティーの連中はあれで目は何ともないのか? むしろそっちの方が心配になってくる。
(『こりゃあ、もう先代勇者の顕彰祭りどころの騒ぎじゃすまなそうだな。
普段よりも物騒になるだろうからさ、ウル。もう祭りの外出見物はあきらめよう。夜が明けて騒ぎが本格化する昼前までに、次の目的地へ出発しないか?』)
(「だよね。ボクもその方が良いと思う」)
何事か言いたげな視線をこちらへ向けて立つ若者に、俺(たち)の決定を告げた。
『悪いがバーク。これが神威魔法の行使だとすれば、以後のコロンポルは祭りどころの騒ぎでは収まらないだろう。
何せ此処は先代勇者ラルフの〝聖地〟だからな。……
夜が明けたら、俺は静かなうちに街を出て先を急ぐ事にする。明後日の予定は、キャンセルさせてもらうぞ』
「そうですね…………
わかりました。私も事実の確認と勇者パーティーの安否も含めた情報収集のために、さっそく動きたいと思います。詩吟の続きは、完結編までを仕上げたらまたいずれ、という事にしましょう」
『そう願う』(――どうやらバークもいち早く、別の行動を起したくなっていたみたいだな。やはりこの若者、吟遊詩人と言うよりルポライターっぽい)
まばらではあるが、この時刻にしては多くなった人々を縫うように避けつつ、俺たちは宿へと急行した。
すでに外は神威の光が収まり、元の暗い星空へと戻っている。やっとたどり着いて扉を開くと、中では部屋から出たシェスが待っていた。
『シェス。見たろ』
「はいウルさん。……ついに決着したんですね。勇者様と、その追従者の方々の戦いが」
彼女は少々緊張気味だ。外に姿を見せなかったのは、神官である自分が衆目を集める事で起こりうる騒動を憂慮しての事らしい。
教会関係者を地上における〝創造主の代理人〟のごとく見立てる者も少なくない。感謝や祝福を捧げに殺到されては、宿にも迷惑をかける。
(「バシュックさんに全方位の暁の話を聞いた直後、それを見るなんて思わなかった」)
(『確かに驚きのタイミングだったな。おかげで予定が変わっちまったが』)
(「…………勇者は無事なのかなぁ。パーティーのヒト達も」)
(もしあれが神威の全開放であったとして、勇者セシル本人と追従者の半数でも生き残っていれば、それは《先代の仇討ちが成就した》ということにされるんだろう)
早いうちに宿を出発したい旨をシェスに伝えた後、俺は少しの仮眠を取ったが結局、目を瞑ってじっとしていただけに終わった。
外では相変わらず遠くで口笛を鳴らす音や人ビトの歌声が聞こえている。
夜が明けて本物の太陽が昇った早朝でも、街全体が慌ただしい雰囲気に包まれていた。夜通し狂喜乱舞を続けながらよくやるものだな。…………だがしかし。
徹夜明けでも、人間は朝日を浴びると気持ちがしゃんとして元気がでる。
加えて魔王討滅の噂が夜から駆け巡り、多くの者が高揚感に浸ってるので、しばらくは沈静化は望めそうもない。
「お客さん、やっぱりもう出立なさるんで?」
『ああ。世話になったな、主人』
「勇者さまの戦勝祝いも加わって、今回の祭りはさぞ盛り上がると思うんですがねぇ……」
――それが恐ろしいから先を急ぐんだよ!
「……お世話になりました……」
シェスが挨拶すると、宿の主人は「へへ~~~~ッ」とかしこまって祈りを捧げた。最初にチェックインした時は、特に遜った様子は見せなかったのに。
やはり彼女を神官と分る姿でドードーの背に乗せるのは危険だ。行く手を阻まれたくない。
したがってシェスには街を出るまでローブを纏い、杖も布で覆ってもらう事にしたのだが、そのせいもあってか誰一人寄ってこず、こちらっへ目を向ける者も無かった。
『悪かったねシェス。神官であるのを隠すなんて、不本意だったかも知れないが』
「そんなことはありませんよ、ウルさん。周りの方々の安全も考えての変装でしょう?」
『そう言ってもらえて、救われるよ』
(「やさしいなぁシェスは。師匠、ぐっと来たりした?!」)
(『 別に 』)
(「あれ? ずいぶんとそっけない」)
(『フフン。迂闊に肯定したら、後々までキミに何を言われるか分らないからね』)
(「ちえーーー」)
こうして俺たちはコロンポルの城門をくぐった。
これ以後は、ビクセン郡まで一直線だ。




