69 おっさんが大陸名称の由来を説明
(『アンデル文明発祥地について、俺はもう一つ逸話を知ってる。神話に纏わるものだ』)
太古のむかし。父なる創造主が母なる大地にひとつの島を造るように命じた。
その結果スオラビア半島が生まれ、ここに妖精種の始祖となる最初のエルフが創造された。
原初の夫婦から増え始めた貴種族は繁栄し、後のアンデル文明にも繋がる諸王国を建てた。
これら王家の中の一つ、ソゥト王国の姫として〔 ナウローペ 〕という娘が誕生する。
男女とも整った容姿で知られるエルフ族だが、ナウローペの美しさは創造主自身がその出来栄えに大きな満足感を得る程だったらしい。
《 最高傑作!》というワケだ。
だがオークの族長が姫の美しさに目を留め、ある日、郎党を引き連れ王城を襲撃した。
国王夫妻は殺され、姫は側近の機転で砦の外へ逃げ出す事ができたが、このままではいずれ見つけ出されてしまう。
美しい姫が汚されるのを嫌った神は、翼ある強者を急遽創造する。そして地上に一旦置かず、手ずからこれを放ち、ナウローペの元へ直行させた。
彼女を背に乗せて翼ある強者は飛び立ち、おかげで姫は事無きを得る。
ところで〝翼ある強者〟だが、天界から直接放たれたがゆえに汚れなき神聖な存在とされ、後発ながら同種の生き物たちの中では最高と位置づけられる様になった。
これが後に〔神精龍〕と呼ばれる事になるドラゴン。――
そう。俺がコンプリートすべき、狩猟対象に含まれる一種だ。
こいつを少なくとも1頭仕留めなければ、俺は故郷へ帰る事ができない。
一方でナウローペは海を渡った東方の対岸、ルプリィに降り立ち、セロの大森林へと移り住み、そこで種族の新たな祖先となった。
この地域全体(中央大陸)が、彼女の名に因み〔ナウロパ〕と称されるようになったとか。
おしまい。
(「ああ、そこにつながるんだね。師匠は物知りだなぁ、と一瞬思ったけど……ドラゴンのからんだ話だから憶えてたんでしょ~~~♪」)
(『わ、悪いかな?! ソレが!』)
「どうしましたウル。黙り込んでしまいましたね。……もう眠たいですか?」
(おおヤバイ。
ウルとの会話に夢中になって、バークの存在を忘れてしまっていたゾ)
「 えっ! ううん。ヘーキ。眠たくなんかないよ 」
深夜を過ぎた時刻。周りの様子を見渡しながら、吟遊詩人の若者はつぶやいた。
「……いつの間にか、すっかり遅くなってしまいました」
(『確かに。キミの年齢を考えれば、夜更かしさせたのはまずかったな。良い子はとっくに寝てる時間だ』)
(「ボクはまだ全然大丈夫だよ。ずっと知りたかったことばかり聞けて、楽しかった」)
(『でもシェスが心配して起きてるんじゃないかね』)
(「あ、そうか。でも、ボクらは上級冒険者だし。安心して寝てるとは思うけど……」)
そのとき俺の年齢を心配してか、バークも尋ねてきた。
「勇者セシルと追従者が出発した後のエピソードなども、このまま続けられますが。如何なさいます? 徹夜してまで一遍に聴くのは、あまり推奨できませんし……良ろしければ今夜を〔前半〕という事で。後半は日を改め、時間と場所を決めて披露しても結構ですよ」
『じゃあ日を改めてお願いしようかな。明後日の昼ごろとか。このコロンポルにはもう少し滞在する予定だし』
「わかりました。今夜は本当にありがとうございました」
『なんの。そちらこそお疲れさま』
ハープを布袋に収め終えてから、バシュックはふと思い出した様子でこちらに訊く。
「そういえばウル。あなたは先ほど私の質問に答えて、自分の生まれた集落は赤ん坊のころ、皇帝龍の襲撃を受けて焼き払われたと言ってましたよね?」
『ああ、そうだったな。……それがどうかしたかね?』
「それはもしかしてスコウネ地方で起こった、ドラゴン三頭がハーフリングの村を襲った件の事ではありませんか?」
(「 えっ!? 」)
聞き捨てならない話題が、目前の吟遊詩人の口から飛び出した。
『あんた、ウル、……俺の出身地で起こった事件について、何か知ってるのか?!』
「現場で直接聞き取りしたわけではありません。でも私たち語り部界隈では、けっこう有名な事件ですから。
もともと、皇帝龍が複数でもって亜人やヒト種の集落を襲う、というのはかなり珍しいです。
人間は捕食対象としては小さい過ぎるので、よほど大勢食べなければ物足りないでしょうし、ばらばらに散って隠れられたらにっちもさっちもいかない。
ましてや小人族の集落でしょう。
ドラゴンに詳しいという人物にも話を聞いたことがありますが、あれは巣立ちたての若い新生龍同士が兄弟で行動していたんじゃないか、と言うのです」
『それであんた。ウ、……俺の滅ぼされた故郷の名を、知っていたりするか?』
「確かフラ・ナガン(ナガン渓谷)にあった集落だったと記憶していますよ」
…………ウルは内心で
(「 そうだったんだ…………! 」)のつぶやきをリピートする。
実に感慨深げだ。
『そうだったのか。……………………………………』
俺の方なんて、思わず声に出して呟いてしまった。




