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68 少女勇者は先代の借りを返せるか?

 美しいハイ・エルフのイメージダウンを修復・フォローしつつ、吟遊詩人バシュックは次の段階へと進む。


「クレアソートの深い愛情と説得を受けて、自覚を促された幼い勇者は本心から魔王を討伐しようと決心した。ひと通りの修練にも堪え抜いて、出征までこぎ付けたんだ」



 ――〝 ついに聖女は立ち上がった。


 愛し慈しんでくれた両親、兄さまたち


 すべてを育くむ美しきこの世界を


 人の生きられぬ魔物の世界にはさせじと心得


 いま勇断し決戦の地へ赴く


 魔王ベルク・サタナの待ち受けるロッシィナの地へ



 セ シ ル が や ら ね ば 、 誰 が や る ! 〟――



「ちなみに、今回の討伐隊はこれまでとは成り立ちそのものからして違うんだ。遠征の過程で追従者が加わるのでは無く、最初からメンバー達16名がそろって出発した。魔王出現までに4年間の猶予があることも分かっていたから、事前に全員を厳選できたからね。この点でも異例と言える」


「ひょっとして……このパーティーメンバー数って、偶然じゃないの!?」


「ああ。今回の魔王討伐は、世論の強い期待を反映しているから。先代勇者ラルフと、その追従者達の復讐戦《リベンジマッチ》という意味合いも多分に含んでいるからね。全員が無事に帰らなければ勝利とは言えない雰囲気なんだ」


「創造主教会って、それほどみんなの言葉に流されるものなの?!」


「俗世の意見とはいえ、教会だって別世界に存在してる訳じゃないからね。勇者が危なげだから、数年かけて万全を期し《最強のサポート・メンバーを揃えてみました》ってトコかな」


 (世論ってのは無視できない影響を持つ。

 気分の問題だが、教会までも動かしたんだろう)


「かくしてセシルと一行は旅立った。生けとし生けるもの、全種族の期待を背に受けて」



 ――〝 おおお、なんと凛々しき姿か!


 いま雲間を切り裂き明星輝けり! 天馬翔け、縦目を滅ぼす!


 少女セシルよ、パーティー壱六名。誰一人損なう事無く、必ず生還してくれ!


 只快勝あるのみ!


 かの預言者が言葉の儘、先代の仇を報じ、世界の救済者となってくれ! 〟――


 

 (『なあウル。〝縦目〟って何の事だ?』)


 (「ベルクサタナ。魔王のことでしょ」)


 (『どうして? ベルクって、もしかして山の別名だったりしないよね?』)


 (「当たり前じゃない。昔から、山はただの〝ヤマ〟でしょ」)


 ――だよな。俺の居た地球《エルデラン》では〝ベルク〟とはドイツ語で〔山〕を意味する単語だったが(ニュールンベルクとか)…………。


 転じて俺は、若者に訊いてみた。


 『ねえ、バーク。ベルクって、どういう意味かね?』


「ベルクの意味? 古代アンデル文明時代から伝わる古い単語で[ベル・ク]……つまりは縦目《ベル・ク》の事だね」


 (……〝縦目の悪魔〟だ? …………どういうコトよ。

 魔王ってのは、例えばゴブリンや爬虫類とか昼間の猫みたいな、縦に細長い瞳をしているのか?)


 若い吟遊詩人はさらに続けた。


「ちなみに古代アンデル文明は、世界樹があったとされる西部スオラビア半島全域に広がる密林地帯。其処にあった神殿を中心に栄えたとされる伝説の国。――……〝ユグドラシル〟って言えば分るかな?」


 『おお、其処へ繋がるのか!』


 (「師匠! ユグドラシルって何のこと? ボクにも教えてよ」)


 (『そうだったな。……俺たち冒険者とも、多少関のわりがある話だから』)


 全世界的な冒険者組織〔トラスト〕を統括する人物。――主幹

 (たぶん最高評議会議長くらいに相当)はファルシィ・アストレアという名で、組織内では《大樹公》と称されている。


 種族は妖精種の上位《ハイ》エルフだ。

 全エルフ種族中の最長老であり、現在の年齢は800歳以上に達するとか。


 大樹公の称号は、西部大陸南東部から海に突き出て陸地に沿い、対岸の中央大陸との中間に位置する半島。その大森林にかつて存在し、天空を支えたとされる世界樹《ユグドラシル》。

 この超大木の麓が、アストレアの出身地だったことに由来するらしい。

 現在、世界樹は失われているが根幹部分だけは残されていて、遠目には原生林の海原にぽっかり浮かんだ山としか思えないほど巨大なものだ。


 (「想像もつかないけど。実際に生えていたのかな?」)


 (『以前、俺も遠方から眺めたことがあるんだけど、本当にあれが木の幹なのか? と驚いたけどね。だが登頂に成功し調査した冒険者が複数人いて、石化しているが間違いなく木の幹だったと証言しているそうだ』)


 (「すごい! じゃあ間違いなく本当のことなんだね」)




















挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)

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