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67 帝国内部はわりとグダグダしていた

「ボクも大人たちが騒いでたのは知ってるよ」


「うん。だからローディアス皇帝から事実を確認する正式な書簡が創造主教会へ送られたし、公爵家からも『なぜ貴族階級から勇者を出さねばならんのだ!』って不平不満が噴出したと言われてる。

 この点についてだけ、庶民と貴族の意見が一致するという奇妙な現象が見られたりもしたんだ」


(そうさな。

 階層を問わず『この神託、ホントウ?! 何かの手違いじゃないの?』

 ってところだったんだろう)


「よくセシルを一人で差し出したね。帝国は」


「創造主の神託だからね。全世界ヒト種の運命を掛けた聖戦なのに、地位を理由に日和見を決め込むのはさすがに躊躇われたんだろう。魔王軍の勢いによっては、いずれ自分達の命にも関わる話だから。……

 ウルはグリム・ローディアス帝国と教会、トラスト間に過去わだかまりがあるのをご存知ですか?」


「ううん。知らない」


「昔、ローディアス皇帝が全領域の教会と冒険者組合を国営化しようとした事があってね。両勢力の強い反撥を招いた。帝国内の聖職者や冒険者組合員達は誰一人として従わず、やがてサボタージュが大規模なゼネストにまで発展したんだ」


 (『おおウル、これは俺も聞いたことがあるよ』)


 「で、バシュックさん。その結果どうなったの?」


「国内のあらゆる機能がマヒしてしまってね。ドブ掃除からゴミ収集まで…………汚れ仕事は何でも冒険者達に丸投げしていたにも関わらず、事前の根回しは全然していなかったんだろうね、帝国は」


 (『そりゃヒドイ。これほど大きな案件で事前の根回し全くナシとは。

 当時のローディアス皇帝は、冗談か軽い思いつきでやっちゃったのかね?』)


「仕方なく一月後、皇帝自らが礼拝を理由に領内カノウサの大神殿を訪れ、司教から祝福を受けるという形で面会し、国営化を撤回したんだ」



 『 ……………………カノッサの屈辱?! ……………………………… 』



 ――そのとき俺は、思わず声に出してしまった。


「いやいや〝カノウサ〟だから。……あっでもいいね、そのキャッチフレーズ。

 よぉ~し私は今後、この話を吟じる時は《カノウサの屈辱》と名題する事にしよう」


「と ところでさ。トラストのヒトたちは呼ばれなかったの?」


「その場に呼ばれてはいなかったけど、勿論トラスト国営化の話もご破算とした。さすがに冒険者組合の代表に頭を下げるのは、皇帝の威厳に関わるから出来なかったようだね」


「国内で仕事を止めたら、住民の不満は冒険者の方へも向きそうな気がするけど」


「ああ、その辺は抜け目がない。モンスターや魔物退治といった、人命に関わる仕事はすべて無料で請け負ったらしい。それで住民達の理解を得て、味方につける事に成功したようだ」


「わあナルホド。頭が良いなぁ」


「それでは話しを戻すとしよう」


 バシュックは背景音から変化をとげ、音のトーンを細波みたいな曲調へ戻す。


「神威の力を授かったとは言え、ウルより1歳年上に過ぎない少女が〝蝶よ花よ〟の親元から引き離され、救済者としての自覚を迫られたんだ。だから最初の頃は家族を恋しがってひたすら泣きじゃくっていたそうだよ」


「そーか。ボクより一つ年上だって、貴族のお姫さまにしたらやっぱりつらいよ」


「甘やかされて育った十歳の少女に、魔神討伐の天命はあまりに荷が重すぎたんだろうね。剣の修行は厳しい上、来るべき魔族やモンスター軍団との戦いに脅え、いつも及び腰だった。

 やがて重度のホームシックに罹ったあげく、精神が不安定になる幼い勇者だったけど……その姉代わりとしてハイ・エルフの美しき弓の使い手・クレアソートが現れたんだ」


「その名前、聞いたことがある!」


「有名なエピソードだからね。クレアは常にセシルと寄り添い、少女の在るがまますべてを受容し、慈しみ、時に励まし続けた。

 そして家族、特に兄上様たちへの愛着がひとしお強い事を察して、折に触れ諭したんだ」



 ――〝 もしもあなたが挫ければ、魔軍はたちまち攻めて来る。


 都は陥落し、領地は焼け野原。皆はヴァルハラ送りでしょう。


 そう、それは貴女の故郷。欠けがえ無き貴女の国ぞ。


 禍の者は、ヒト全種族に呵責無し。


 此の侭では、此の侭では、此の侭ではっ


 全同胞は、家族は、兄君様方の立つ瀬は、何処に在りや! 〟


――――――――――



「ずいぶんストレートな物言いをするヒトだったんだね?! クレアさん」


 (これって、諭すと言うより一種の脅迫みたいに取れるんじゃ? …………まあ厳しい現実でもあるからな。幼い少女を奮起させるには、一番身近な家族のためと自覚させるのが、最も手っ取り早いのか)


 俺もウルと同様に『ずいぶんと容赦の無い上位《ハイ》エルフだな』という感想を抱いたけど、まあ理解はできる。


「あっははは……これも言い難《にく》いんだけど。この説得場面も、私達の仲間がラップハープやシタールとかの楽器演奏に乗せて勝手に創作した可能性が高いんだよね。実際は心底穏やかで、優しいエルフ女性なんだと思うよ」

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