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66 勇者セシル・メサイア

 若き吟遊詩人バシュックは、英雄譚の余韻を漂わせる優しい音色を奏でつつ、先代勇者から今世勇者の物語りへと話を移行する。解説の本題だ。


「それじゃあウル。ここからはセシル・メサイアに関するお話に移りましょうか」


「 やった、やった、やった! 」


 (『お待ちかね。いよいよだな、ウル』)



 ――〝 荒野で叫ぶ声がする。誰かの叫ぶ声がする。


「道を整えよ! 少女がやって来る。金光を注がれし者、復仇の救済者である」


 あの僧侶《モンク》は何者ぞ、とヒトは問う。


 彼は預言者。造物主寺院のドワーフ、ダレクなり。新たなる大過の到来、更に、其を滅殺せし救済者降臨を告げし者。


 だがヒトは訝しみて嗤う


「小娘の救済者とは片腹痛し。虚言なり」と


 しかしてダレク返して


「魔王現出せるは少女召喚の4カ年の後」と述べ給う 〟――――



「……現在の勇者、セシル・メサイアは、あらゆる面で異例尽くめの存在とされているんだ。

 例えば教会から召喚された時の年齢や性別のほか、魔王の出現する時期がかなり以前から予告されていたりとか。

 僅か十歳で指名され、それから4年間もの準備期間が置かれている。

 過去の救済者は大人の男性ばかりだったし、召喚時点で既にある程度の武闘術を修めている者が殆んどだったから」


「確かに、ラルフもそうだったよね」


「うん。それで少女のセシルには、時間を設けて基礎体力を養い剣の修練とかを施す必要があったのかも知れない。更に新勇者を取り巻く者達へのある神託が別に示されていて、世界を驚かせたんだ」


「それってどんな神託だったの?」


「勇者を扱う上での《ハウツー》だったんだ」


「はうつー?! ……」


 (『ウル。勇者の〝取り扱い説明書〟注意書きの事だよ』)


 (「ええ!? そんな。道具や薬じゃあるまいし!」)


 俺がウルに補足し終えた直後、若者は詳しい説明を始めた。


 「具体的には、彼女の性質を〝使命感が強く誠実〟である。と前置きしつつも一方で『論理が感情へと転化しやすく、不安定で危険な側面も併せ持つ』と警告するものだったんだよ!」


 (なんだってぇ――――――っ!! キバヤ……バーク、それは本当のことなのか!?)


「……そんなアブナイ人を、神さまは選んじゃったの?」


 「そうなんだよねえ。…………それだけに世間の人々は大きな不安を抱いた。

 あの歴代最強と目された勇者ラルフ・ファンスロットでさえ、パーティーが全滅し自身は廃人と化したのに。

 今世の勇者は年端も行かない貴族のお嬢ちゃんで、本当に大丈夫なのか? ってね」


「ああ~~、そういうコトかぁ……」


「ただこの部分は年頃の女性と接する上でのごく一般的な助言と言うか、添え書き程度のものだから、特筆して語るべきじゃない。って意見もあるんだ」


 (まあそうだろうな。思春期真っ盛りの時期って、男女共に大抵は不安定なもんだ。問題は飽くまで一個人に、最終兵器並みの力が搭載されてる点なんだから)


「前置きはこのくらいにして、セシルの生い立ちがどういうものか説明しよう」


 バークは曲の演奏を止め、一層ひそやかで単調な音をくゆらせる。背景みたいな感じだ。


「これが最も異例な点なんだけど、彼女はグリム・ローディアス帝国の大貴族。代々宰相を務める家柄、フォン・リーベトゥルム公爵家の長女として生まれた。

 上に兄が4人居て、ただ一人の女の子だった」


「もっとも異例って、どこが?」


「貴族、それも五爵位で頂点の公爵家出身だった点。

 歴代の勇者はいずれも《地湧の者》とされていて、第三身分かそれ以下の低い身分の者ばかりだったから。これほど高い身分の人間《ヒューマン》で、しかも女の子が選ばれるのは前例の無い事だったんだ」


「身分が低くなくちゃ、だめなの?」


「う~~ん……そんな事も、無いとは・・・思うんだけどねぇ…………」


 (『いやいや、実はあるんだよウル。世の中には低い身分のヒト種が圧倒的に多いからね。それらの者達からすると、勇者が〝お貴族さま〟じゃ感情移入しづらいって側面が大きい』)


 (「そんなものかなぁ」)


 (『まあキミにはひがみや偏見・差別意識も無いってコトだな。誇って良いよ』)


 口を濁した吟遊詩人は、音の流れに沿って解説を続ける。


「ともかくセシルは公爵家で唯一人誕生した女の子だったから、末っ子だったことも相まって、両親や兄上たち家族全員から、目の中に入れても痛くないほどの可愛がられようだったらしい。正に、蝶よ花よと育てられる感じだったんだろうね。…………ところが少女が10歳になった時、運命が急転する」


「例のやつだよね!」


「ああ。神託を受けた教会から、まさかの召喚さ」


「呼び出しがあって、まわりの様子どうだったの?」


「リーベトゥルム公爵家はもちろん、皇帝から庶民までもが、ひっくり返って驚いたんだ」


 (いわゆる〝 ズコーーーッ 〟ってやつだ。

 まだ10歳の女児で、しかも魔王すら出現していない段階なのに。

 世間はさぞ混乱したろう。俺も、何でだ!? て思う)

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