65 彼は名誉と栄光を取り戻す
中心部にある噴水縁に座った俺と若者は、光の精霊たちの燈す外灯に照らされつつ会話を再開した。
「勇者への批判…………それはやはり、結果のまずさから来るバッシングだった。ラルフの死後に囁かれ始めて、実しやかに広まっていった風説でね。……
もとからが、歴代パーティーの中で最強の勇者と、粒ぞろいのメンバーが揃ったって。鳴り物入りで期待されていたから……少なからぬ人々が、悲惨な結果をそのまま受け入れられなかったんだと思う」
(もう本人も、だれも反論できないのにな)
――こういった世間の無責任な風評・噂話も何処でも一緒なんだなと、俺はまたしても妙に納得する。まあ廃人になったラルフには、生きていても反論は不可能だったろうがね。
「たとえば、どんな悪口がいわれたの?」
「勇者ラルフの指揮能力の低さからパーティーメンバー全員が命を落とす破目になった。や、実は勇者とメンバー達の間には不和が生じていて、信頼関係はとうに壊れていたんだ、とか。そこからさらに進んで、ラルフは自らの保身のため最初からメンバー全員を捨て駒にする作戦を考えて、それを実行したんだとか」
「でもさ! 戦い方は限られてるんでしょ、ひどいよっ」
「うん。私も酷いと思う。全然確証もないし、結果だけを見ての憶測ばかりだから。でも、それらの事が真実だったから、勇者ラルフには神罰が降って呆けになった。とまで言われた」
「そんなぁ…………」
(ああ。またしてもウルが、悲しみの余り言葉を失うほどの衝撃を受けているぞ。
バーク、お前なんてことしてくれるんだ!? しっかりケアできるんだろうな、オイ!)
「でもね。ここからが勇者のターンで、真実の光がすべてを照らし出すんだ。
さっき話した通りこのコロンポルの教会文書館から、本来なら存在しないはずの重大な文書が発見された。その内容が、これまで散々言われていた勇者ラルフへの不名誉な噂を、すべて吹き飛ばすものだったんだ」
「えっ、えっ、えっ! ナニそれ!? バシュックさん、早く教えて!」
「それは《願文》といってね。
遠征の途中町に滞在し、教会へ立ち寄った勇者とパーティーメンバー達が、各々の心境や願いを書いて納めた物だった。これを神様に宛てて送るんだ」
「がんもん……?」
「本来これらの願文は、創造主へ届けるものだからさ。本人以外の目に触れぬよう厳重に封印して、祭壇で焼べ天に奏上するんだけど、今回に限り何らかの手違いがあったらしい。パーティーメンバー全員分も含めて、丸ごと文書庫に保管され埋もれていたんだ」
「わあっ! やっぱりそれって、神さまの思し召しじゃないの?」
「そうかもしれないね。発見されたタイミングといい、当時からウルと同じ事を言う者たちが多くいたみたいだよ」
「それで、どんなことが書いてあったの?」
「パーティーメンバー達のものは、日頃の互いに対する感謝を述べた部分を始めとし笑ってしまった出来事や楽しいジョークなど、旅の和気藹々とした様子を窺わせるもだった。
そして各員いずれもラルフの性格に触れててね。気さくでおどけ好きな超楽観主義者。冗談を連発して周囲を笑わせ、パーティー全体のムード・メイカーであると指摘していた。つまりメンバー間の葛藤や仲の悪さといった噂話を、すべて否定する内容だったんだ」
「やった! それで、勇者ラルフの分は?!」
「これがまた泣かせる内容でね……」
(遠征途中で勇者の残した手紙が、彼自身の名誉を救う事になるとは。
まさしく天の計らいだったのかも知れないな。俺でさえも、見えざる手の作為を感じてしまう)
「勇者の願文は特に念の入った長文でね。
メンバー達一人ひとりの名前を記して今日までの奮闘に対する謝意を述べて、これからの遠征でも皆が無事に戦闘を切り抜けていけるよう祈願していた。
特にお尋ね者だった盗賊のシュツカレプト、元博徒フィザンテスらの身の振り方については、遠征後に格別の配慮を賜りたい。と記してあってね。…………
それは勇者ラルフの、仲間たちに対する強い想いが溢れる内容だった」
「疑いは全部晴れたんだね……」
「ああ。しかもこの文書類にはメンバーそれぞれの裏書があって、証文手形まで押してあったんだ。
さっき余りにも出てきたタイミングが絶妙だったと言ったろ。それですぐこれは勇者の汚名返上を図って捏造されたニセ文書じゃないか? って見る向きが一部にあったんだが、それすらラルフの証文が出征時の〔出師表明〕に残した手形と完全に一致して、ついに陰謀論者たちはグウの音も出なくなった」
「………………………………」
もうウルは泣きじゃくりはせず、ただ涙を湛えながら微笑んでいる。
心が洗われたんだろう。今回は俺も聴けて良かったよ。
いい話だったじゃないか、うん。
「それじゃあ最後に。…………勇者ラルフが決戦前、友人へ宛てて送った手紙に記されていた戯れ書きを紹介して、一連の物語りの〆としようか」
――〝 あら楽し。あら面白や。日々に喜びを求め
身を厚く養い、世を深く想う。
造物主を尊び、教祖・教団を頼まず。
いずれの別れも名残を惜しみつつ、恋慕の道、忌避し厭う心も無し。
我、事において後悔せず。
野に臥して寝、起しては心行くまで歩む。
行きたき処へ行き、見たきを見たらば、何時果てるも本懐ぞと惟う。 〟
――……




