63 戦いの果て――悲劇の結末
(これは穿抜戦法だな。主将の馬を先頭に、敵陣中央を一直線に貫く。
関が原合戦時の終盤行われた薩摩の退き口が典型だが、意図せずして起こったのが、上杉謙信VS武田信玄による第四回戦目の川中島合戦。
あれは鶴翼陣形で越後勢を包囲した武田側に対し、上杉軍は車懸り戦法で応じて陣形の乱れを見出し、その一極に攻撃を集中した。
すると奇跡的に鉄壁の包囲が乱れ、本陣中央への道が開けたんだ)
――結果。
上杉謙信ただ一騎のみが本陣まで突撃し、信玄に斬りつけるという珍事が出来。
前代未聞、総大将同士の一騎打ちになったっていう。
これはまるで、勇者対魔王の一騎打ちそのものじゃないか。
――〝 勇のこと、忘れまいぞ! 勇のこと、忘れまいぞ! 勇のこと、忘れまいぞ!
……師匠マリー(マルローネ)の言葉が、脳裏の内で繰り返しその身を励ます。
突出して飛行せる帥将(勇者)の雄姿を目の当たり、追従者たちの士気此処に極まれり。
かくして 曳! 曳! 曳! 曳! 怯む事無く真一文字に吶喊せり 〟
――――
「でも今回は…………その過程で、仲間達は一人また一人と斃れていった」
「ただでさえ数が少ないのに。始めからそうなるのは分かっていたんじゃない? 何十万の大軍の中に飛び込むなんて、絶対無理だって感じるんだけど」
「そうだね。でもパーティメンバーに選ばれる者達は一騎当千の強者ぞろいだから。
それに勇者を魔王の前面に押し出すには陸を行くにしろ空からゆくにしろ、周囲の援護は欠かせない。
だから敢えて全員で突撃する。
現に敵勢は魔王に向かって行く勇者達を見ると、毎回のように大きく動揺し混乱をきたすみたいだよ」
(これは道理なんだよな。逆に大軍に背を向けて逃げようとすれば、追撃を受けて必ず捕捉され全滅しちまう。だから〝勇気を忘れるな〟って。……
そういう事なんだろうよ)
――〝敵はこのような者であったか! 敵は、この様な者であったのかっ!
なんとおぞましき、なんと醜い姿ぞ! 今こそくらえ、正義の光を受けてみよ!
造物主に代わり、すべての種族の名において、キサマを処刑する!! 〟
――――
「勇者の全身が黄金色に輝き、それは光の塊で覆われる。それが全方向へと膨張して拡がり、魔王を飲み込み周辺の木々や大地、川、谷、山もすべてを巻き込んで、それでも光の膨らみはいや増して ――――――――――――――――
ついには、世界の半分までを覆い尽くした」
「それが神威の全開放?!」
「うん。この光を浴びると、魔王の全身が塩の塊へと変化して死滅するんだ。
そして黄金の光はそのまま夜中である世界の反対側、地平線や水平線を夜明けみたいに照らし出す。これが全方位の暁だ。……中核というか、司令塔を失った魔物やモンスター達も塵散りに壊走して、魔王軍は崩壊したわけさ」
(さてこれ以降が、問題の悲惨な結末への流れか)――バシュックが曲調を極限まで低めたことで、俺はそれを予感した。
「勇者が神威の全開放を行って、世界中の者達が《全方位の暁》を見た。
終戦が知れ渡り、魔王は岩塩の塊になっている事も確認されたので、商会の依頼を受け塩を切り出すため光炸地までやって来た労働者たちが、鎧胴の中に納まり蹲っている痩せこけた白髪の男性を保護した。
彼は呆けてしまっているのか事情を尋ねても返事はなく、只ただ輝きを失った目に時どき意味不明の薄ら笑いを僅かに浮かべるだけで、一切話すことはなかった」
「……まさか?! その人って」
「実はそうなんだ。…………埃にまみれ全体的に白っぽい、この憐れな男は何者だろう? 彼が近くの村へ送られ多数の人々の目に触れると、その疑問は解決した。悲劇の発覚だった」
『 ラルフ様!? 』
『そうだっこの白銀の鎧。勇者様が聖都の巷に寄ったとき見た。俺はハッキリ憶えてる!』
「勇者ラルフ・ファンスロットは廃人に――生ける屍と化していた。
在りし日の、溌溂とした彼の雄姿を見知っていた人々は、強い衝撃を受けたんだ」
――〝 やっぱりベルクは怪物だ。勇者様の心まで喰らい尽くしていった 〟
――
「それから……。勇者はどこへ運ばれていったの?」
「リヒトネスカ。現在のウェザー藩王国領内にある小さな町だけど、コロンポル同様ずっと以前に修道士達が造った古い聖堂があってね。創造主教会の聖地のひとつとされているんだ。当時は治癒魔法の使い手が多く居たらしいから、其処へ運ばれたらしい」
「それで、治療の効果はあった?」
「……残念ながら……。ラルフの場合、心だけでなく身体も大きなダメージを受けていて、治癒も殆んど効果は無かったようだ。栄養失調がひどくて、おそらく昆虫とかトカゲなんかを、本能的に生のまま口に運んで食い繋いでいたらしい」




