59 お上手な吟遊詩人に経歴を騙る
目的の場所に向かう道すがら、ウルが尋ねてきた。
(「でも師匠。どうしてシェスはあんなこと知りたがったんだろう?」)
(『分らないが……杖の実射を見ていて、何か思うところでもあったのかな。
いずれにせよ昼間の、そろいも揃って阿呆な冒険者連中と違い、大した観察眼じゃないか』)
もっともここは火薬すら未開発のため存在しない世界であり、〔鉄砲〕という道具は人の手で爆発的なエネルギーを凝縮したロケット弾を作る技術が発明され、始めて想起可能な概念だ。
この世界の住人たちが知るのは、まだまだ先になるだろう。
若者と落ち合う約束をした場所は、目抜き通りにあるエールガーデンだった。
詞作の前提として入念な取材をしたいとか。どうもこの男、やっていることを見れば語り部というよりもジャーナリストかルポライターみたい印象。
そんな表現がぴったりくる感じだ。
「今回は火花杖の力を見る機会をいただき、改めて感謝申し上げます。また、話を伺う機会をいただいて、ありがとうございます」
『なぁに。だけど、訊かれたことすべてに答えられるとは限らないよ』
「勿論です。答えられる範囲でけっこうです」
――「 ねねっ!! それからね、バシュックさん! 」
「 ははいっ?! 」
突然ウルが俺の意識を押しのけ吟遊詩人につめ寄る。待ってましたとばかりの勢いだったから、若いのは少し仰け反って閉口してしまった。
ほらほらウル、顔が近すぎるんだって! 彼だって困ってるよ。
「ボクは今の勇者にとぉーても興味があって、何でも知りたいの! そっちの質問が全部終わったらセシル・メサイアのことについて、知っていることだけでいいから教えてくれる?」
「ええ、……いいですよ。よろこんでっ…………」
(『ウル。口調や態度が急変したら、今みたいに相手も面食らうよ。少し慎まなきゃ』)
「あ……」
ウルはバシュックから離れて座り直す。
「ごめんなさい。つい自分のことだけで頭が一杯になっちゃって」
「いいんですよウォルフェさん。一方が訊くんじゃなくて、フィフティ・フィフティの関係にして頂いて、こちらとしても気が楽なんですから」
下げていた視線をウルが上げて微笑むと、若い吟遊詩人は言った。
「実は上級冒険者の方に失礼だと思って今まで控えていたのですが、怒らないでくださいね。…………やはりあなたは、歳相応に可愛らしい人だ」
「 わぁ………… 」
うぬっ・・・このバシュックという若いの、なかなかにお上手な男だ。ウルも照れちゃって……
まあ、実際に可愛いからなウルは。
これはお世辞じゃない素直な感想だろう。
「まず最初にお尋ねしたいのは、あなたの先生にあたるノル・ホタカミ氏との接点についてですが。出会いのきっかけとか。……何時ごろなんでしょうか?」
「えっと、それはね――」
『それは物心つく前の事だから、経緯を知っている大人から聞いた話になるが』
(「あっそうだ。本当のことを話したら、つい最近知り合ったのがバレちゃうもんね」)
(『その通り。彼はシェスとはわけが違うからな』)
――師匠としてはボクが孤児院の出で、脱走したことをバシュックさんに隠しておきたいんだろう。自分の心が今はボクの中に同居していて、そうなった理由もぜんぶ含めて……。
『僕の生まれた集落は、まだ赤ん坊のころ皇帝龍の襲撃を受けて焼き払われてしまったんだ。両親も亡くなって人買いの手に渡りかけた時、師匠の目に留まって引き取られたらしい』
(ああ。……このくだりは前にパメラから聞いたような……)
ボクは、奴隷商人から双子の兄妹を救い出したというパメラの話を思い出した。
「魔法の稽古などは、何時ごろから始められたんでしょうか?」
『おそらく4歳くらいの頃かな。最初の記憶は模造の火花杖――
……全体が木で作られた軽い品だが、それを構えてぶら下げた幾つもの木ノ実を揺らし、それぞれに狙い目をつける据杖っていうのをやっていた。詠唱も習っていたか。いずれも遊び感覚で、長時間では無かったと思う』
「まだホンの幼児期のことだから?」
『そうだ。飽きるほどやっても身につかないし、修行自体を懲役と感じて嫌気するようになれば、苦手意識が芽生えて投げ出してしまう。師匠としては先々を考えての事だろう』
(『うわっスゴイやホタカ。それだけぽんぽん息を吐くみたいにウソがつけるんだ?!』)
(『あのねぇ……イザという時困らないように細かい設定までいろいろ考えてたの! キミとは後で少々話し合う必要がありそうだ』)
「その頃はどんな職に就きたいと思っていました? 冒険者以外にあったら答えて下さい」
『特にナシ。何も考えちゃいなかった』
「先生から、充分に技を習得した。と認められた時の気持ちは?」
『遊びはもうお終い? って感じだったか』
「あなたにとって、今の仕事の意味とはなんですか?」
『毎日の糧を得る手段。と同時に、己を向上させる励み』
「他者からこう見られたいと思う理想像は?」
『同族から「子供でさえあれだけやれるんだ」と勇気づけられる冒険者かな』




