58 フルメタルジャケット× サコーは〝ホローポイント〟を使用
素早く火花杖を革ケースへ収めて帰り支度中、メリッサ・ミストレインが勧誘の声をかけてきた。
「ウォル! おまえ特別にオレたちのパーティー〝Slowly・Stay・Sisters〟略称SSS団に入れてやんぜ! その腕前なら申し分無ぇ!」
『いいよ、結構』
「よし! 話が早ぇぜ! 決定だな!」
『 お断りだと言ったんだ! 』
「待ちな! ここに来てるメンバーだけでも紹介するぜ。気が変わるかも知れねぇからな」
メリッサは、細面の厳つい中年男を示す。
「コイツはサンジェント・ハルトマン。通称〝鬼軍曹〟だ! 新ぺ…新人の、教育係だぜ」
『おまえ今[新兵]とか言いかけなかったか?』
【「 私の楽しみは、貴様達のもがき苦しむ姿を眺めることだ! 」】
『お前アイアンか。ミスリルの俺……いや僕に、何を教えてくれるって?』
「おっとおっと次へ行くぜ!」続いて魔導師は小太りの若い奴を出す。
「そしてコイツがディヴソン・イスマイリィ。通称〝微笑みのディブ〟だぜ。
新人で、入団当初はまるで使い物にならなかったけど、現在はハルトマンのおかげで銅等級にまで昇格できたんだぜ!」
【「 …… …… …… 」】
(「師匠。このヒト目が怖い。ニヤニヤ笑ってるだけで、一言もはなさないし」)
(『〝微笑みのディブ〟だからな』)
「どうでぃ! 気が変わったか?」
『全然。つかお前、〝シスターズ〟なのに男のメンバーがいるのかよ?』
「最初はオレとレェムの二人で結成したからな。まあ細けぇことはどうでもイイんだぜ!」
『おいギルマス。SSS団とやらに所属してる奴が、追い立て役に入ってるぞ。この娘二人は特に僕への偏見も思い入れも無いとか言ってたが、ウソじゃないのかい?』
「いや本当だよ。メリッサとレェムの二人はあんたがコロンポルへやって来た時はクエストに出掛けてて不在だったし。クレームだって、一切つけて来てないよ」
『ふん。……まあいずれにせよ、この地のギルドパーティーに加わるつもりは無いんだが』
「どーしてだっ?! パーティー内の訓練された冒険者と、オレやレェムみたいに良く訓練された上級冒険者たちが、待ってるんだぜ!」
『お前等二人の等級はシルバーだろ。上級じゃないだろうが』
――一般的に〔ゴールド(金)〕等級から遡る地位を指して〝上級冒険者〟と称されている。
『それと、お前みたいな人に惚れ込みやすいタイプを、俺は信用しない事にしてるんでな』
「あら? ウォルちゃんって、自分のことボクって言ってなかったかしら?」
レェム・エルンストルが、耳ざとく俺の一人称の変化を指摘した。
ああそうだよ。面倒臭くなってきたからもう素で行かせてもらうぜ。
ところが、メリッサは急に顔を赤らめてほざいた。
「ウォル……おめぇ! ひょっとしてオレに惚れちまったのかぁ?!」
『 いいや 』(「ええっ!? どうしてそうなるのさ?」)
「オレは百合でもロリコンでも無ぇんだからなっ!」
『 ふぅん 』(「そんなコト、どーでもいいんだけどっ コッチは!」)
「 オレに色仕掛は通用しねぇぞ! 」
『 あっそ 』(「師匠の〝すとらいくぞーん〟からだいぶ外れてるし!」)
それからも・・・・・
くり返されるしつこい勧誘をようやく振り切ってから街まで引き返した。
ギルド本部へ寄ってギルマスに等級認定書の登録(即行でやれよな)を約束させた頃には夕方だった。
(「あのメリッサさんて悪い人じゃないけど、耳と頭がどうかしてるんじゃないの?!」)
(『同感だ。性格だけ見れば、上級冒険者に居てもおかしくないレベルの変わり者だな』)
なんやかや。これで地元冒険者からのやっかみ半分な中傷の声も収まるだろうと安心して、せっかくだから贅沢な食事をしようとシェスを誘い二人(実は3名)揃ってレストランへ行く。
楽しいひと時を過ごした後、宿泊しているホテルの部屋へ戻ってくつろいでいると、シェスから意外な事を訊かれた。
「ウォルフェさん。火花杖のことなんですけど……もしかしたら、先端にある小さな穴から何かがすごい速さで飛び出しているんですよね?」
『いやっ、それは……だな』
「火花杖は、基本的に〝弓矢と似た道具〟と考えていいのでしょうか? 木の部分は全体に石弓とよく似ていますから。指をかけていた輪の中の小さな金具とか、共通する部分が――」
『すまないシェス。君には嘘をつけん。いや、つきたくない。だからこれ以上の質問はしないでほしい』
(はっ!)そんな顔色をして彼女は発言を慎む。
「そうですよね………………ごめんなさい。余計な詮索でした」
つい夢中になってしまって。そう言って本当に申し訳なさそうな表情で謝罪された。冒険者に対してタブーな事を訊こうとした。ルール違反をしたのだと、大げさに捉えてしまった様だ。
今日の試射で使用した実弾は結局一発のみだった。
帰宿後にすぐ個室へ駆け込み、銃身内部にボア・スネークを数回くぐらせた程度でメンテは済ませたんだが。シェスの目に触れないようにこっそりとやっておいて良かった。
(『あれくらい慎重でなかったら、察しの良い彼女はどこまで見抜くことやら』)
(「確かにね。杖の中が筒状になっているのを知ったら、もう答えが出ちゃいそう」)
好奇心に輝いていた顔を曇らせ、済まないことをしたと思う。罪悪感もあるが、こればかりは企業秘密であり仕方が無い。
――それにしても、期待を込めた笑顔も無邪気で可愛らしかったな。シェスは。
これ以降はあの若い吟遊詩人との約束があるため、ゆっくり休んでいてほしいと彼女に言い置いて、俺(たち)は再び街へ出る。




