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55 アストラ教団・スカイラブ東方

 翌朝・昼前頃。


 宿泊先の玄関前にギルドの馬車が乗り付けた。迎えが到着したので、俺《ウル》は火花杖を入れた革ケースを携え、シェスを伴なって乗り込み目的地へ向かう。

 ホロホロ鳥のドードーは、次の目的地へ出発するまで、あと少しの間お休みだ。


  会話を挿んで三十分ほど馬車に揺られていると、道の先に小川と橋が見えてきた。


「あの辺り一帯がアバトォル平原だよ」


 カイゼル髭のギルマスが河向こうを指さして言う。少し離れた奥から、背の高い木の密生地が所々に点在し、さらに遠方には森が広がっているようだ。モンスターが身を隠し易い状況を呈していて、なるほど厄介な場所だ。


「こここでしょっちゅうオーガが徘徊して物騒なんだよな。今回はなんとか一匹追い立ててここまでくる手はずだから、仕留めてみせてくれ」


 『ギャラリーはどこだ? どれくらいの人数が居る? どうせお披露目なら、沢山集まって見てくれた方が良いな』

 (「後々面倒も無くて、ありがたいんだよね」)胸中でウルも囁く。


 「立会人が他2名。あとは勢子《おいたて》役を務めるウチの冒険者連中が目撃するから、それで充分だよ」


 『やはりな。……ソイツ等なんだろう? 俺のランクに対して疑問をぶちまけたってのは』


「ははは、実はその通りだ。でも今からこの場へやって来る立会人の二人は、あんたに何ら思い入れや偏見を持ってない人物だよ」


 ――そうそう。その二人ってのは、すでに現地で待ってるのか?


 車窓際から覗いて見るが行く先に人影らしきものは確認できない。目的地へ着いて馬車が止まり、降り立っても待っている人間は現れなかった。


 『立会人はどこだ? まさか、これから別の馬車でノンビリ到着するのかよ』


「いやいや。……って、来た来た! ホレ、あそこさ!」


 ギルマスが指さした天空へ目をやった俺(たち)は感嘆の声を洩らす。

 コロンポル方面からゴマ粒みたいな黒い点が飛来したと思ったら、あっという間に真上に到達してぐるりと大きく旋回する。


 箒《ほうき》に乗った若い女2人とわかった。


 (『おお、飛行魔法かよ。あいつは魔法使い…………魔導師だな』)


 (「ヒトが空を飛ぶ方法なんて竜騎兵くらいしか聞いたことなかったけど、本当にホウキに乗って移動するんだね! しかも早いなあ」)


 両名を乗せた箒は、やがてゆっくりと降下し始める。地上から1mほどの位置で静止した。

 箒のタンデム部分に横座りしていた方が地表にぽんと飛び降り、続いて操縦者が右足で箒の柄上をひょいと越して下り、二人してこちらへ歩み寄る。


 後ろに座っていた娘に俺は注目した。


 神官だ。ただあの娘は同じ神官と言っても、シェスとは少し違う趣の衣装をまとっている。


 右前あわせでふりふり付きの赤いパレオ状を腰に巻いて、白一色である他の女神官たちとは明らかに一線を隔している。そういえば以前、どこかで同じ取り合わせのファッションをした神官を見かけたような憶えがあるな…………。


 俺たちの前までやって来ると、黒服で大きなウイッチ・ハットの娘が飛行ホウキの柄を地面へ逆さに突き立てて、堂々と胸を張り名乗る。


「オッス! オレはメリッサ・ミストレイン。魔導師なんだぜ。シクヨロな!」


 ――おおっと。こいつ自分をオレって呼称するのか。それじゃこっちとしてもキャラが被らないように気をつけなきゃな。


 黒い尖がり帽子の前にこれまた白い巨大なリボンをつけた娘に、俺はウルの口調で応じる。


 『ボ……ボクはオルフェ。魔法士なんだ。よろしく』


「おっ、おまえボクっ子かい。こりゃ気が合いそうだぜ!」


 (「あっ、ホタカ。このヒト良い人だ。一目でボクが女の子だってわかってる」)


 (『だからキミは充分可愛らしい女の子してるんだって。見抜けないヤツが馬鹿なのさ』)


「わたしはレェム・エルンストル。はじめまして」


 大きな赤いリボンで後ろ髪を結った娘は、ウチの神官に視線を向けつつ自己紹介した。

 挙手を見ているに、降下してきた時から赤リボンの女神官はタイミングを計っていたようだ。神職同士、シェスに対しては一目で好印象を抱いたんだろう。


「はじめまして。シエスティア・ミィムンです。よろしくお願い致します」


「あなたも神官なのね。仲良くしましょ、可愛らしいお嬢さん♪ わたしは見ての通り、東方聖教会からの出向よ。あなたは?」


「……アストラ修道会です……」


 ※《 !! ………………………………………………?! 》※


 聞いた途端、エルンストルという娘は明らさまに目を見開いて絶句した。


 ――オイオイ、何だよ。……コイツもアストラ修道会に偏見とか含むところがあるヤツなのか? 表情を引きつらせてるじゃねえか。


内心で顔をしかめた俺は、シェスの反応が気掛かりで視線を向けた。ウルも一瞬で息を呑み、ハラハラしながら推移をうかがう気配がする。


「そう、お噂はかねがね。……よろしくね。アストラ系の方とは初めてなものだから、少しびっくりしちゃった。うふ、ほっほほほほほほほほほほほほほほ………………………………」


〝系〟ってなんだよ?!

 笑える。

 汗を拭きふき慌てて取り繕った感じだが、……まあいいだろう。


 どうやらこの娘の衣装は、東方聖教会とやらの神官服らしい。白と緋の上下配色は俺の世界でいう神道の巫女装束と相通ずるものがある。


 その時、馬車の方から言い争うような声が聞こえてきた。

 見ればギルドの御者が一人の若い男を抑える姿が目に飛び込んできた。ギルマスは足早にそこへ近づいて行き、俺(たち)もその後方から従った。

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