52 冒険者 “等級” に関するシビアな現実
『俺のランクについて、疑義が生じてるだと?』
「うん。あんたの持ってるミスリル製ゴルゲットなんだが。……本当にあんた自身の物なのか、少なからぬ関係者の間で疑う向きがあってな」
『どういう意味だ?』
「つまりさ、ノルとかウルとか……同業者から二つ名を名乗ってるって情報もあったしさ。そこの所をはっきりさせたいワケだな。あんたノル・ホタカミの弟子なのか? 名前を受けついだって事なのかい?」
――ふふん。なるほど、襲名ってやつと思ってるのか。
「 そう! ホタカはボクの師匠なのっ 」
おおっと! 突然ウルの意識が口をついて出た。どうやら我慢がならなかったらしい。
「彼は今どうしているんだ? まさか亡くなったとか」
「死んでなんかいないよ。なに言ってるのおじさん!」
(『待ってくれウル。事態が複雑になりそうだから、ここからは俺にまかせてもらうよ』)
死んではいないが生霊ではある。――――――
『いま師匠は少し体調を崩して静養中なんだよ。ただ引退するつもりは更々無いから、僕は彼が復帰するまでは言いつけに従って、単独で活動してるんだ』
「じゃあどこかのギルドで正式にウォルフェとしてランク判定はしているかい?」
『いいや。上位ランク冒険者、ノル・ホタカミの裁量で免許皆伝を受けたのさ。ゴルゲットを預かって引き継いでも、何ら問題はないだろう?』
ゴールド級以上の冒険者はトラストの規定によって、指名した後継者へのゴルゲット譲渡が無条件で許容されている。これは高位冒険者のスキル発揮時に、秘匿性の高い訓練法や特殊なコツが含まれている場合、継承者の不在によってそれらが失われてしまうのを防ぐためだ。
たとえば魔導師が冒険者だったケースなどが分りやすい。
あれは特殊な修練法や呼吸・詠唱時の精妙な拍子、などといった秘事のオンパレードだ。
師が人生をかけて自得したものを弟子へ継承したければ、手に手を取り、それこそ器から器へ水を移すみたいに伝える必要がある。ウルは火花杖という魔法具を使う魔導師という建前だから、この規定はうってつけだった。
「彼はミスリル級だから、ランクの継承は規約違反ではないねぇ。でもギルドの連中の中には疑問を向ける者もいるだろうなぁ。言いにくいが、問題はあんたの外見、種族なんだなァ」
『チビで子供の小人族が、ってかい? フフン……』
初めてこのギルドに訪れたときの事を思い出す。
下のレストラントホールで隅のテーブル上から、額を突き合わせヒソヒソ話をしながら歩く俺(たち)の姿をチラチラと目で追っていた奴等が複数いた。
刺すような敵意や侮蔑するような視線ではなかったが、反撥とはいかずとも明らかに内心の違和感を示すもので、全然好意的な印象のものではない。
だがまあ、丁度いい機会だ。この地のギルドで俺がミスリル級の実力を見せつけ、ハーフリング冒険者を見る周囲の目も一気にアップデートさせちまうか。
『ランクに見合った力量があれば、何者かなんてどうでも良くなるんだろう。なら実力を見せてやった方が早いんじゃないかね? あんた自身も確かめたくはないかギルマス。俺の攻撃魔法ってやつを』
ギルマスは「まってました!」とひざを打った。
「実のところ今、やたらとオーガが出没して難儀している場所があってな。うちのギルドから派遣した冒険者パーティーを、幾つか張り付けて牽制してるんだ。あんたの〝杖〟が噂通りのものなら、見せてくれると有り難い」
『それを早く言えよ。てか、最初から俺をそっちへ遣りたかったんじゃないのか?』
「ははは、スマン。有り体に言うと、それもあったんだな」
このオヤジ、まったく調子のいいヤツだ。
……大方、その複数パーティーとやらが物言いをつけて、俺(たち)を計りに乗せろと五月蝿かったから、試験場の建付けを条件に出して黙らせたってことなんだろう。
この世界には、いわゆる〝魔力量を判定する水晶玉〟とやらは存在しない。
従ってどれはど膨大な魔力量を秘めていても手をかざした途端、玉がひび割れたり粉々に吹っ飛ぶなんて場面には決してお目にかかれない。
魔導師の力量を測るには、実地でモンスターを討伐して見せる方法がもっともベーシックであり、一番手っ取り早いのだ。




