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顔だけ男は眠り姫の呪いをかけられる  作者: 里和ささみ


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王子様とお姫様はプチ喧嘩する

体調不良が二週間ほど続いております。

皆様も健康にはお気をつけください。


今回はイチャイチャしながら喧嘩してます。

エリオットはジョンから借りたシーツをいそいそとマットレスに掛けている。エリオットの姿にレベッカの心がざわついた。そわそわする心を抑えて、換気のために窓を開ける。初夏の心地よい風が吹き込んできた。


「終わったよ。」


「お茶淹れる?」


「今はいいかな。レベッカ、こっちに来て。」


手を引かれた先はベッドだ。鼓動を抑えたはずのレベッカの心臓がまた早鐘を鳴らす。


エリオットは靴をポイポイと脱ぎ捨て、先にベッドに寝そべった。


「ん。」


エリオットは腕を広げてレベッカが来るのを待つ。

レベッカが顔を赤らめて躊躇っていると、待ちきれないのかエリオットは口を尖らせて拗ねたように言った。


「来ないの?」


こんな表情も可愛くて、他愛もないやりとりが愛おしくて、恋とは不思議なものだ。一方的だった頃のエリオットが同じ顔をしたら苛ついていただろう。そしてその苛立ちを心の底に沈めて溜め込んでいたのだ。


レベッカはベッドに腰掛けて靴を脱いでいると、エリオットがレベッカの腰に絡みついてきた。緊張で身体に力が入ってしまう。


「……ちゃんと食べてる?レベッカ、細い。」


「食べてるわよ。」


「のに、胸はある。」


「ちょっと、どこ触ってるの!?」


「胸。」


「やめて。」


「いやだ。」


「私だっていやよ。」


「本当に?」


エリオットは腰の横から流し目で見上げてきた。とても色気がある。レベッカは耐性がないので、鼓動は速くなるばかりだ。


「すごい心臓がドクドクいってる。」


「恥ずかしいのよ。だからやめて。」


「やめない。」


「もう!」


「ちゃんと心臓の音が聞こえる。夢みたいだけど、夢じゃない……。」


エリオットは抱き締める腕に力を込めて、レベッカの腰に顔を埋める。レベッカはエリオットの腕に右手を重ねた。


「夢じゃないわ。ここにいる。」


「うん。」


レベッカの身体から力が抜ける。エリオットは会う度にレベッカの存在を確かめるように触れてくる。彼も不安なのだ。暗闇に見えた一筋の光は、また闇に閉ざされて消えてしまった。突破口が見えない八方塞がりの状態だ。


何もかも捨てて、エリオットの元へ。考えはするが踏み出せない。エリオットはきっと、レベッカのためにレベッカ以外の全てを捨てることが出来るだろう。それなのに、レベッカの望みを叶えるため、一番困難な道を自ら選んでくれた。同じだけの愛情を返せていないようで、心苦しかった。


レベッカはエリオットの腕を外し、自分もベッドに横にりエリオットの腕の中に潜り込んだ。エリオットの方を向けば、レベッカの世界にはエリオットしかいない。自分を抱き締める腕の温もりとエリオットの鼓動は、レベッカにとって失いたくないものになってしまった。


自分は欲張りだ。自分勝手だ。レベッカはエリオットに頭を撫でられながら、彼の胸に顔を埋めて、心の中で自分を責めた。


「レベッカ、こっち向いて。」


エリオットに声をかけられても、レベッカは顔を上げられない。きっと、自分はひどい顔をしている。

エリオットはレベッカの顎に手を添えて、上を向かせた。


「泣かないで。」


「泣いてないわ。」


「泣きそうな顔をしてる。」


「でも、まだ泣いてない。」


「強がりだね。泣かないでなんて嘘。泣いていいよ。」


「泣かないわ。泣きたくない。」


「そんなことないだろう。自分を責めてるだろ?泣く資格もないとか思ってない?」


「……思ってる。」


「泣いていいよ。俺しかいない。」


「随分と優しくなったわね。昔と大違い。」


「昔も優しかったよ。ただ、他人と優しさの認識に違いがあったんだ。今はもう、分かってる。」


「でも、私は傷ついたわ。」


「ごめん。愛してる。」


「愛してるから許せってこと?」


「そんなこと思ってないよ。愛してるから、愛して欲しい。レベッカに愛されたいだけだ。」


「愛してるわ。エリオットが、好きよ。」


「許せないのに?」


「どうしてそんなこと言うの?」


「泣きたくないとか意地を張るから、喧嘩したいのかと思って。違うな、俺がレベッカと喧嘩してみたかったんだ。まともに喧嘩なんてしたことなかっただろ?俺たち。再会してからは、たまに喧嘩っぽくなってるけど。」


「そうね。いつも貴方は言いたいことだけ言って他人の話なんて聞かなかったもの。自分は何をしても許される、特別な人間だって思ってたでしょう?」


「俺は随分と嫌な奴だったんだな。」


「そうよ。自覚なかったの?」


「レベッカのおかげで自覚したよ。俺は、特別な人間じゃなくて頭がおかしい人間だったんだ。母さんの価値基準が世界の常識だと思ってた。あの年まで気付かないなんて、世間知らずすぎたよ。俺の世界は俺と母さんしかいなかったんだな。」


「貴方、友達いなかったものね。」


「そうだね。子どもの頃に遊んでた奴らも、成長するにつれて離れていった。当然だな。嫌味な奴となんか友達でいたくないだろ。」


「寂しいとかつまらないとか思わなかったの?」


「いつも周りに女の子がいたし、あの頃は思わなかった。今思えば虚しいだけだ。彼女たちは俺の顔と金が目当てだったんだから。連れて歩くのにはちょうどいいんだよ。見栄えがするから自慢出来るし、箔もつく。」


「そうじゃない(ひと)もいたでしょう?」


「みんな同じだと思ってた。楽しい思いをさせてあげれば、それで満足なんだと思ってたんだ、本気で。」


「でも、違ったじゃない。」


「そうだね。そういう子は、入れ込みすぎる前に縁を切ったつもりだった。でも、上手く隠してた子もいた。だから、眠らされたんだ。」


「最低ね、貴方。」


「ホント、クズだね、俺。嫌いになった?」


「嫌いだった。」


「じゃあ、今は?」


「嫌いだったらこんな風にしてないわ。」


「はぐらかさないで、もう一度、ちゃんと言って?」


「……好きよ、エリオット。愛してる。もう、他の女の人のところになんか行かないでね。」


エリオットは満面の笑みになって、レベッカをますます強く抱きしめた。


「なんだそれ!嫉妬してくれるの?嬉しいよ、レベッカ、可愛い。俺も愛してる。レベッカが思うより、ずっと、ずっと、深く、愛してるよ。」


エリオットの瞳を見れば、普段は空のような青が、逆光で深い海の青に見える。その目に吸い込まれるようにレベッカはエリオットに顔を寄せて、唇を重ねた。


レベッカは、このまま海の底に沈んでしまいたかった。

お読みいただきありがとうございます。

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