お姫様の父は自分の罪が分からない
違う連載に投稿してしまい、焦りました。
今ちょっと発熱があるのですが、ぼんやりしていてダメですね。
よろしくお願いします。
「リンダ、今まですまなかった。俺が悪かった。だから、離婚はしないでくれ。俺はリンダを愛してるんだ。な?」
諭すような声でジェフがリンダに語りかける。リンダは下がりかけた苛立ちがまた嵩を増した。
「悪かったって、本当にそう思ってるの?」
「思ってるさ!」
「具体的には?」
「え?」
「具体的に何が悪かったのか言ってみてよ。それで、今後同じようなことがあったらどうするつもりなのか、教えてちょうだい。」
ようやくジェフの方を向いたリンダの目には涙が滲んでいた。
「そ、それは……えっと……」
「ほら、何も分かってないんじゃない。」
「いや!そうじゃないんだ!」
「まあまあ、リンダさん。ジェフさんは突然のことで動揺してすぐに言葉に出来ないだけですよ。少し時間を置きませんか?」
リチャードが口出しをした。リンダは今すぐにでも決着をつけたい気分だったが、貴族のリチャードの提案は命令と同じだ。拒否は出来ない。
「……分かりました。」
「ジェフ、リンダも一人になって考えたいだろう。お前は今夜、ウチに来い。リンダ、それでいいか?」
マックスの言葉に、リンダは目を伏せて頷いた。
「お母さん……。」
レベッカがリンダの微かに震える手を握ると、リンダは更に手を重ねて握りしめた。だが、レベッカの方を見ようとはしない。
「ごめんなさい。あなたも、今日はどこかへ泊まってくれる?少し、一人になりたいの。」
「う、うん……。」
「リンダさんはとりあえずお帰りなさい。我々はまだ少し話したいことがありますのでね。」
リチャードがリンダに退室を促した。
「……リチャード様、お気遣いありがとうございます。失礼させていただきます。」
リンダは席を立った。ジェフが不安げな顔でリンダを見ているが、リンダはもうそちらを見ようともせず、一礼して部屋を出て行った。
扉が閉まるのを見届けて、数人がため息をついた。
「まさかこんなことになるなんてな……。」
マックスが独りごちた。ニールは眉間に出来た皺を伸ばしたいのか、指で揉んでいる。
「俺は、どうしたらいいんでしょう。どうしたら、リンダは許してくれるんだ……。」
ジェフは頭を抱えてしまった。
「お父さん……。」
誰もジェフにかける言葉が見つからない。本来は部外者である弁護士も、ジェフに憐れみの目を向けている。
「甘えてますねぇ。まだリンダさんに甘えるんですか。許してもらいたいだなんて。もう解放して差し上げたらどうですか?その方が彼女も幸せになれると思いますよ?」
リチャードがいやらしい笑みでジェフに嫌味を言った。リンダの怒りは昨日今日の話ではない。ジェフの望むような解決は難しいと誰もが、娘であるレベッカも思っていた。
「貴方、リンダさんが何を言っても聞いてあげなかったんでしょう?歩み寄る努力を怠って来たんでしょう?どうせ貴方の考える解決方法なんて、これからは全部リンダさんの意見を優先するとか、そんなものでしょう?それでは意味がないことをお分かりになりませんか?」
「じゃあ、どうすればいいんですか!どうしたらいいか教えてくださいよ!俺には分からない!」
「それはご自分で考えなければ!人に考えてもらった意見など、すぐに見抜かれますよ。」
「うぐぅ……」
ジェフは嗚咽を漏らした。レベッカは父親が泣いているところを初めて見た。ずっと聖人のような人だと思っていた父親は、ただ他人の感情を蔑ろにしていただけだった。レベッカは父のようになりたいと常より口にしていた。母は、それをどう感じていたのだろうか。途端に罪悪感に苛まれた。
「このような状況のところ、申し訳ありません。今日お集まり頂いた契約解消についてはいかがなさいますか?レベッカ
さんのお母様はお名前がありませんので、このまま手続きすることも可能ですが……。」
弁護士はジェフを見た。
「先生、申し訳ないが、日を改めてもらえるか?リチャード様もよろしいですか?」
マックスが答えた。こんなことになって、誰も気持ちよく書類にサインなど出来ない。
「ええ、構いませんよ。レベッカさんとエリオットくんも、いいかね?」
「……はい。」
「お手数をおかけして申し訳ありません。」
「君たちが会うことをもう誰も咎めないよ。レベッカさんの希望ならね。そうだろう?」
リチャードはリリに問いかけた。ジェフの嗚咽が鳴り響いているが、話は進んでいく。
「そうね。レベッカが望むなら。ねえ、どこかに泊まるなら今日はウチに来る?」
「あ……。」
レベッカはジェフが気にかかった。だが、レベッカがジェフの側についているのは、リンダを裏切ったように思われるかもしれない。二人とも、大切な両親だ。どちらかに肩入れするのは不公平な気がした。
「レベッカ。ジェフは私が預かるから、気にせんでいい。親父も家で報告を待っている。親父から話をさせよう。」
「よろしくお願いします。」
レベッカは頭を下げた。リチャードが手を叩いて締める。
「では、今日のところはお開きと致しましょう。続きはジェフさんとリンダさんの話が決着してからですな。レベッカさん、それでいいかい?」
「……はい。」
「ジェフ、いい加減泣き止め。行くぞ。リチャード様、失礼致します。」
リチャードはヒラヒラと手を振って退室を許可した。マックスとニールでジェフを抱え起こし、弁護士とサマンサもリチャードに礼をして後をついていく。
「レベッカ。」
エリオットがレベッカの名を呼んだ。エリオットの瞳は穏やかだった。レベッカは少し安心した。
「では、私も職務に戻るとするか。失礼するよ。」
リリに部屋の鍵を預けて出て行った。部屋には三人が取り残された。先程までの悲壮な空気が嘘だったかのように、窓からは真昼の太陽の光が差し込んで暑いくらいだった。
「レベッカ、このままウチに来る?それとも、ちょっとソイツと話してからにする?」
「あ……。そ、そうね。」
「いいの?森の魔女。」
「もうリリでいいわよ。その代わり、外で魔女って呼ばないでよね。そうね。来る頃になったら、クロを飛ばして。西門まで迎えに行くわ。」
「ありがとう、リリ。」
「そうして寄り添ってると、とっても自然よ、アンタたち。今日はウチのバカが引っ掻き回して悪かったわ。後でシメとくから。……でも、こういうのはいずれは起きたことよ。女は言わずに溜めるからね。アンタも身に覚えがあるでしょ?」
エリオットは痛いところをつかれた。リリの薬で眠りにつかされたのは、スージーが不満を言わずに溜め込んだからだ。言われていたら、あの頃のエリオットなら恐らくその場ですぐにスージーと別れただろう。他の女たちもみな、エリオットに直接不満を訴えた者は少なかった。
「だから、レベッカも!罪悪感なんて感じなくていいのよ!あくまで夫婦の問題なんだから、夫婦で解決しなきゃいけないのよ!子どもの出る幕はないの!」
「うん……。」
俯いたレベッカの肩をエリオットがそっと抱き寄せる。リリはフウ、と肩をすくめた。
「ホラホラ、もう出て!鍵を返さなきゃいけないんだから行くわよ!アンタたちはどっか行ってイチャイチャして気分転換して来なさい!」
リリにぐいぐいと押されて二人は部屋を追い出された。
「ジョンさんのところへ行こうか。」
レベッカは頷いて、エリオットに手を引かれて騎士団を後にした。
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