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顔だけ男は眠り姫の呪いをかけられる  作者: 里和ささみ


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お姫様の決意

「で、ご両親には話したの?」


「まだよ。何て切り出せばいいか……。」


「ただ結婚しますっていうわけにはいかないわよね。相手が相手だもの。」


「うん……。」


「ま、正直に言うしかないんじゃない?」


「そうね。エリオットがここにいる間には言わないと。」


「早い方がいいわ。レベッカも、今後どうするか決めないとね。」


「リリ、ごめんね。」


「いいのよ。レベッカが、家族に憧れてるのは知ってたから。」


「結婚への憧れは捨てたつもりでいたのに。そんな風に見えた?」


「見えたわよ。テレサも気付いてるわ。」


「私、誰かを好きになることも、想像出来なかった。自分が欠陥品なんじゃないかって、ずっと思ってた。どこか、心がおかしいんじゃないかって。だから、エリオットのこと、好きになって、舞い上がってたんだと思う。それで、子どもが……欲しいと思ったの。エリオットがいなくなっても、子どもがいれば、つながりを感じられるんじゃないかって。あきらめがつくんじゃないかって。あきらめられるんじゃないかって。」


レベッカの目から涙が落ちる。リリはレベッカのそばに来て膝をつき、レベッカの手に自分の手を添えた。

 

「子どもがいたって、忘れられるわけじゃないのよ。心の空白を埋める場所が違うわ。母さんがそうだったもの。」


「リリも、そう?」


「そうかもね。もう会えないかもしれないけど。」


「その人のこと、好きなの?」


「好きよ。母さんみたいにまた会えなくても、彼が今は他の人を愛していても、きっと、ずっと。」


「リリは、幸せ?」


「幸せだと思うし、不幸せでもあるわ。でも、アタシは魔女だから。掟は、守らなきゃ。」


「私、リリと友だちでいられて幸せよ。」


「アタシもよ。」


レベッカとリリは抱き合った。泣き止まぬレベッカの頭をリリは撫でる。しばらくして、レベッカは顔を上げた。


「今から、お父さんとお母さんに話すわ。リリ、一緒にいてくれる?」


「いいわよ。アタシで大丈夫?」


リリが挑戦的な顔をしている。レベッカはからかわれてるのが分かった。レベッカは精一杯の笑顔を見せた。


「人生の帰路で、私に勇気をくれるのは、いつもリリよ。」


そう言うと、二人は少女の頃のように手をつないで、階下へと降りて行った。


ジェフとリンダはダイニングでハーブティーを飲んでいた。


「話があるの。聞いてもらえる?」


「あら、二人でどうしたの?」


「大事な話なの。おばさま、おじさまの方に座ってもらえる?」


「え、ええ。」


リンダを移動させてレベッカとリリは隣り合って座る。


「どうしたんだ?二人ともあらたまって。」


レベッカがリリをチラリと見ると、リリは微笑んで頷いた。レベッカも頷き返す。


「お父さん、お母さん。私、結婚したい人がいるの。」


「えっ!本当に!?」


「そんな人、どこにいたの?まさか、最近知り合ったっていうおじいさん!?」


「まさか、違うわ!エリオットよ。彼と結婚したいの。だから、昔結んだ契約を無くそうと思う。リリも、リチャード様も、同意してくれたわ。」


「そりゃ、構わんが……」


「ちょ、ちょ、ちょっと待って!ジェフ、ちゃんと聞いてたの!?レベッカ、どうしてエリオット君の名前が出てくるの!?」


「彼、今、この街に帰って来てるの。仕事で、二週間ほどだけど。初日に、たまたま会ってしまって。」


「それはテレサから聞いたけど、で、でも、そういう時はすぐに距離を取るって約束じゃ……?」


「彼はちゃんと、立ち去ろうとしてくれたわ。でもね、私が話をしたくて引き留めたの。最初は拒否されたけど……。」


レベッカは少し考えて、誰からも視線を外した。本音を言うのが怖かった。少し、声が震える。


「私ね、子どもの頃、お父さんとお母さんみたいになりたかった。想い合って、支え合って、好きな人と一緒に生きていくのが、当たり前だと思ってた。なのに、八歳の時、エリオットとの婚約が決まって……好きでもない、好かれてもない人と結婚するのが心底嫌だった。婚約しても、優しくもない、むしろ意地悪な彼が、嫌いだった。お父さんとお母さんみたいな夫婦になりたいのに、好きな人との子どもを育ててみたいのに、何で、この人と結婚しなくちゃいけないんだろうって思ってた。だけど、婚約がなくなったのに、私は、人を、信じられなくて。また、怒られるんじゃないかって、馬鹿にされるんじゃないかって、思って。誰かと知り合うのが怖かった。私、多分、心の底で、ずっと恨んでた。私が、結婚出来ないのは、私が、幸せになれないのは、彼と、メリーさんのせいだって。私が孤独を感じるのは、あの人たちのせいなんだって。そんな感情、みんなに知られるのが怖かった。お父さんみたいに清廉な人になりたいのに、お母さんみたいに寛容な人になりたいのに、私、全然出来ないの。彼が、婚約破棄をなんとも思わないのも、分かってた。きっと、彼は、これからも、好き勝手に生きて楽しく暮らしていくんだろうって。想像するだけで、腹が立ったし許せなかった。私は、人並みにも、幸せになれないのにって。だけど、彼も、全然、幸せそうじゃなかった。やつれて、憔悴してた。知りたいって、思ったの。自分勝手に、欲望のまま生きてた人が、あんな風に様変わりした理由が。寂しそうな目をしている理由が、知りたかった。あの目は、まるで、自分を見ているようで、怖いけど、知りたくなったの。エリオットのこと、知りたいって思ったの。だから、この数日間、毎日会ってた。隠しててごめんなさい。」


レベッカは言い終えると俯いてギュッと目をつぶった。両親の顔が見られなかった。


「そんな……おじいさんの話は嘘だったの?」


「その人が、その、私たちの事情を知って、会ってるところを見られないように協力してくれたの。エリオットが薬を飲まされて眠っていたアパートの大家さんなの。」


「なんで、結婚なんて話になったんだい?」


「彼の話を聞いて、今の彼なら、分かり合えると思ったの。彼も私も、誰かと居てもいつも孤独なんだわ。テレサが結婚して、リリも子どもがいて、三人でいた頃はただの友だちでいられたけど、二人に新しい家族が出来て、幸せそうな様子を見てると、ああ、私とは違うんだなって感じるの。友だちだから、幸せなのは喜ばしいことなのに、疎外感がして、心が、モヤモヤするの。欲しかったものが目の前にあるのに、私のものじゃないのが辛かった。子どもたちは可愛いし、テレサもリリも親友だと自信持って言えるけど、私だけ違うって思うの。婚約がね、嫌だった割に、私、他の人と結婚するイメージが湧かないの。エリオットのお嫁さんになるんだって思ってたから。彼といると、ひとりじゃないって思えるの。彼を、ひとりにしたくないの。」


レベッカは、顔を上げた両親を見た。いつも、憧れていた、理想の夫婦。エリオットと、ジェフとリンダのようになりたい。絶対になる。そう決めた。


「彼が、好きだから。」



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