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顔だけ男は眠り姫の呪いをかけられる  作者: 里和ささみ


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王子様とお姫様は夫婦

午後は子どもたちと鬼ごっこをしたり、縄跳びを教えたりして過ごした。


三人の話は尽きないが、子どもたちがくたびれて寝てしまう前に解散となる。いつもはこのままレベッカの家かテレサの家でお泊まり会なのだが、テレサが妊婦なので疲れさせてはいけないと休止中だ。


リリは住まいのある森に続く西門へ向かい、レベッカとテレサは共に家のある方の北へ向かう。レベッカは荷物を持ってやり、テレサはトマスと手をつないで歩いている。母親をひとりじめ出来る時間が残りわずかとなってきた。


それを察しているのか、トマスはひたすら嬉しそうに、楽しそうに歩いている。つないだ手を見つめて躓いたり、時折母親に声をかけてはお腹は痛まないか聞いたり、ただ歩いているだけでもなかなか忙しい。


五番街に差し掛かると、グッドマン商会からは遠い道を歩いているにも関わらず、テレサはまた注意喚起した。


「何度も言うけど、ホンットーに!気をつけてね!あいつ、毎日昼頃になると店を出てくのよ。どっかで食事してるんだろうけど、やけに帰りが遅い時もあるし、昔の女にでも会ってるのかしら?とにかく!見かけてもすぐに逃げるのよ!」


「リリも言ってたけど、契約があるから大丈夫よ。テレサがあんまり気にし過ぎるとお腹に障るわ。」


「でも……」


「ママぁ、レベッカ、にげるの?おにごっこ?」


「そうね、そんなものよ。」


「逃げないわよ。私、強いもの。」


「レベッカ……」


「ぼく、レベッカまもってあげる!あ、レベッカはフィルのだった。ぼくはダイアナのなの。」


大人二人は思わず立ち止まって顔を見合わせた。テレサが問う。


「どういうこと?」


「フィルはぁ、レベッカとけっこんする!ぼくはぁ、ダイアナとけっこんする!でしょ!?レベッカはフィルがまもるんだよ!だんなさまだから!」


「ええ〜っ!子ども同士でそんな話してるの!?」


「けっこんしきごっこしたの。ダイアナがおしえてくれた。」


どこで知ったのだろう。ダイアナは次代の魔女なので、普通の結婚は許されていない。二人は少し心配になるが、子どもの言うことなので、いずれ意見が変わるだろうと考えるのをやめた。


「ま、おままごとの延長の話ね。あー、びっくりした!子どもって、時々突拍子ないこと言うからおもしろい!」


テレサはそう断じた。レベッカは、心に消えては現れる黒いモヤを吹き飛ばしたくなって、いつもより声を張って答えた。


「そうね!本当にかわいいわ!」


トマスに合わせてゆっくりと進む脚が、早く駆け出したい衝動にかられていた。


テレサとトマスを家まで送り、レベッカは帰るふりをして七番街へと戻る。走って行きたいけれど、目立たない程度の早歩きしか出来ない自分がもどかしかった。


疲れた脚で階段を上がる。運動不足はレベッカもだ。階を上がるにつれ、脚が上がらない。気ばかりが急いていた。


鍵を取り出して、扉を開ける。念のため、中にいても内鍵をかけるようにジョンから言われていたので、施錠だけではエリオットがいるかは分からない。


中に入ると無人だった。レベッカは落胆した。グラスを取り出して水を飲む。


ふと目をやれば、寝室の扉が少し開いている。


そっと近づいて中を覗けば、エリオットが剥き出しのマットレスの上で眠っていた。


レベッカは、あの日のようにそっと近付いて、エリオットに触れた。今日は見るからに生きているのが分かるので、あの時のような緊張はないが、何故かとてもドキドキしていた。


そばに座り、そっと頬に触れ、髪を撫でた。額を出せば、美しいエリオットの顔がより分かる。レベッカは頭のてっぺんから昔より長めの襟足まで、優しくひと撫でした。


「寝込みを襲いに来たの?奥さん。」


エリオットが目を閉じたまま言う。


「ごめんなさい、起こしたわね。」


エリオットはレベッカの方に向かって寝返りを打った。撫でていた手は、エリオットの頭に下敷きにされてしまった。レベッカは引き抜こうとすると手首を掴まれて、掌に頬を擦り寄せられた。


反対の手で、もう一度、頭を撫でてやると、エリオットはゆっくりと目を開けた。


「ちょっとのつもりだったのに、完全に寝てたな。いつ来たの?」


「今よ。待たせてごめんなさい。」


「おはよう、奥さん。」


「おはよう、あなた。」


二人はどちらからともなく口付ける。


「起きるよ。」


「私も、横になりたい。子どもたちと走り回ったからクタクタなの。」


エリオットは眠気まなこを見開いてレベッカを凝視する。その勢いにレベッカは少しのけ反った。


「な、何?夫婦なんだもの、同じベッドで横になってもおかしくないでしょ?」


「夫婦が同じベッドに寝るって、どんなことか分かってる?」


レベッカの手首を掴んでいた手が離れて、伸ばされた。耳の上から輪郭をなぞり、首筋を撫ぜられる。ゾワリとした。


「分かってる……と、思う……」


自信なさげに弱々しく答えた。恥ずかしさと居た堪れなさと、悲しさと悔しさで、レベッカは目を閉じて俯いてしまう。


夫婦なのに、夫婦なら当たり前のことが出来ない。二人の関係が仮初めであることを否が応でも認識させられる。


添えられた掌に頬を擦り寄せ、手を重ねた。


「ごめん、キツく言いすぎた。おいで。狭いけど、一緒に寝よう。」


エリオットはレベッカの腕を引き寄せる。少しずれて、レベッカのスペースを作った。レベッカはエリオットの腕枕にひたすら頬擦りをして、涙を堪えていた。

お読みいただきありがとうございました。

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