魔女、お姫様の義母になる!?
おこちゃまあるある。
よろしくお願いします。
三人は芝生に広げたシートに座って、近況報告を始めた。
子どもたちは仲良くボールで遊んでいる。
「ふう、最近暑いから、冷たい飲み物が嬉しいわ。」
「余り体を冷やさないようにね。それでなくても普段から薄着なんだから、アンタは。」
「分かってますよー。今回はちゃんと腹巻してます!偉いでしょ?」
「エライエライ。その調子で夏も気を付けてよね。」
「そういえば、レベッカ、ウチに研磨頼んだんだって?珍しいこともあるもんだって、父さんが言ってたわ。」
テレサは八番街に住んでいるので同居しているわけではない。実家はレベッカの家と同じ、九番街だ。こんなに早く情報が回るとは思っていなかったので、レベッカはギクリとした。
「とうとう高級ジュエリーに手を出すの?」
リリは驚いている。常日頃、ジェフの跡を継ぎたいわけではないと公言しているので、研磨が必要な宝石とレベッカが縁がないことは分かっていた。
「違うの。ちょっと、人から頼まれて。」
「アンタに直接頼むような人、いるの?碌に人付き合いないじゃない。」
「しっ、仕事の関係で!取引先の人よ!碌に人付き合いないって、リリ、ひどくない?」
「あら、事実じゃない。私たちと親と、それくらいしか関わりないでしょ?」
「テレサも!私にだって、二人の知らない交友関係くらいあるわ!」
「でも、レベッカがそんな個人的な依頼、引き受けるの珍しいわね。」
「私はお父さんみたいなネームバリューがないから、話が来ないだけよ。」
「そう?ウチでも人気商品よ。新作予告の広告出すと、予約入るもの。作家買いしてるのか、他の店で出してるバッグとか持ってくる若い子も多いわよ。まあ、でも、購買層が若いからオーダーメイドとはいかないか。」
レベッカは必死にウンウン頷いた。つくづく隠し事に向かない性格をしていると自分で思う。
テレサは空になったカップに飲み物を注いで話を続けた。
「それはそうと、レベッカ、エリオットに遭遇したりしてない?最近、出歩いてるみたいじゃない。気をつけてって言ったのに。」
「何よ、あの男、こっちにいるの?それにしてもレベッカが出歩くなんて、引きこもりが珍しい。」
「あ、その、その個人的な依頼人と打ち合わせしたり、新作のためのスケッチに行ったり、買い物したり、おかしなことはしてないわよ?」
「なぁーんかあーやしー!」
リリが疑いの目でレベッカを見る。
「もしかして、依頼人って男!?」
テレサは驚愕の表情だ。いくらなんでもそこまで驚かなくてもいいではないか、とレベッカは少し傷付いた。
「男だけど!おじいさんよ!伝手で、話が来て!娘さんやお孫さんへのプレゼントの依頼を受けたの!亡くなった奥様が大事にしてた花をモチーフに何か作って欲しいって!だから、お庭にスケッチしに行ってるだけ!」
「なぁーんだ、お年寄りかぁ。レベッカ、昔から老人ウケいいもんなぁ。」
テレサは納得したようだ。お年寄りでも独身ならワンチャンある……?などとつぶやいているが、勘弁してほしい。レベッカは心の中でジョンに謝った。
「レベッカらしい話ね。まあ、あの男と偶然会ったとしても契約があるし、あっちも近寄ってこないでしょ。レベッカから話しかけるなんてないし。」
思わずレベッカの目が泳ぐ。再会は偶然のこととはいえ、思い切り自分から関わってしまっている。しかも、正式ではないが結婚までしたのだ。
「そうよね。商会の人間として、あいつの失態の巻き添えを食らうのはごめんだわ。支店の人たちには好かれてるようだけど、本店ではまだ視線は冷たいわよ。あっ、でも、旦那を夜連れ出してくれたのは感謝してる。家にいるとひっついてくるから、仕事が進まないったらないわ!こっちにいる間だけでも毎日飲みに行ってくれればいいのに!」
「分かっちゃいるけど、相変わらずね。アンタのダンナ。さすがのアタシでもあの異常性は分かるわよ。」
「そうなのよ!アヒルの子かってくらい後ついて回るし、うるさいし、うざいし、邪魔で仕方ない!これが一生続くのかと思うとうんざりするわ!」
レベッカは、初めて明確にテレサに嫉妬した。一生、一緒にいる。レベッカにとっては、夢のまた夢の話だった。手の中のコップの、冷えた茶の波紋を見ながら、レベッカは静かに言った。
「いいじゃない。羨ましいわ。好きな人に、愛され続けて、一生一緒にいるなんて。」
テレサは気まずい顔をして黙ってしまった。リリは、どうやら呆れているようだ。魔女はこういうことに感覚が違う。
「そういうのはね、まず、好きな人を作ってから言うべきものよ。レベッカは奥手どころか人見知りなんだから、もっと外に出なさいよ。」
「引こもり魔女だって似たようなモンじゃない。」
「アンタってば、ホント失礼ね!一般論よ、一般論!」
「そうよね。リリの言う通りだわ。テレサ、ごめんなさい。」
「ううん、こっちこそ。レベッカがそんな風に思ってたなんて、気付かなくて。羨ましいだなんて……初めて聞いたわ。本当にごめんなさい。」
「レベッカはいざとなればウチのチビがいるから大丈夫よ。結婚してお婿さんになりたいんですって。それでおじさまの跡を継ぎたいんだそうよ。それがダメでも、レベッカとは絶対に結婚するんだって。笑っちゃうわよね!」
「あら、とても光栄な話だわ。これからもよろしくお願いします、お義母さん?」
「ちょっとやめて!一気に老けた気になる!」
「リリは若いわよ。出会った頃と変わらないくらい。」
「そうよね、変わらず、綺麗でかわいいわ。」
「そんなのは分かってるし、若く見えるのは人種的な問題で……って、もうっ!やめやめ!ほらー、子どもたちー!お昼ご飯にするわよー!戻っといでー!!」
リリは照れ隠しに大声で子どもたちを読んだ。初夏の日差しに爽やかな風が吹く。レベッカの心は風に攫われ、エリオットの元へ飛んで行った。
気持ちのいい、土曜の正午だった。
ありがとうございました!




