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顔だけ男は眠り姫の呪いをかけられる  作者: 里和ささみ


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お姫様はピクニックをする

閑話のような回。

よろしくお願いします。

この日は、食後のお茶が終わったら時間切れになった。


レベッカは、二人の時間も大切だが、ジョンと三人で過ごす時間も大事にしたかった。絆されやすいのは自分でも分かっているが、ジョンの孤独を少しでも紛らわせればと思っていた。


エリオットも、いつかの未来の自分を見ている気持ちで、それでもしっかりと生活して自分の人生と向き合っているジョンを尊敬し、心配もしていた。


借りた部屋へ荷物を取りに行くため、二人はまた手を繋いで階段を登る。お互いの温もりに幸せを噛み締める反面、静かなアパートメントに響く足音は物哀しくもあった。


部屋へ入るやいなや、エリオットはレベッカを引っ張って腕の中に収めた。レベッカも抵抗せずに抱きしめ返す。夫婦なら、当たり前のことだ。


「明日は?」


「明日は土曜日だから、友だちと会うの。元々の予定なのよ。」


「そうなのか。予定、動かせない?」


「テレサとリリだから……危ないわ。テレサはエリオットがこの街にいることを知っているもの。忠告もされたし。勘繰られたら怖いわ。」


「そうだな……残念だ……。」


「みんなは子連れだから、陽が落ちる前に帰るし、夕方なら来られるわ。一時間もいられないけど。」


「本当?それでもいいよ。会いたい。」


エリオットがつむじにキスをする。レベッカは顔を上げて、自分から口付けた。勇気を、もらいたかった。


「後悔してる?」


「してないし、しないわ。」


「そんなこと分かるの?」


「分かるわ。私、きっと、もう恋なんてしないもの。心の中では、ずっと、エリオットの妻だわ。いいでしょう?」


「いい。そうしてくれ。俺も、ずっと、レベッカの夫だ。」


「じゃあ、もう、私に、結婚しろとか、幸せになれとか、言わないわよね?」


「言わないし、言えないな。君は、俺の、奥さんだから。俺が、君の、夫だ。」


「私たち、幸せよね?」


「ああ、幸せだ。」


二人は抱き締める腕に力を込めて、その存在を確かめ合った。


すぐに訪れる別れの時が来ても、いつまでも、その輪郭と温もりを忘れないでいられるように。


エリオット滞在六日目。


レベッカは作業椅子に座って、昨日の帰りにテレサの実家で受け取った黄色い石を朝日に翳していた。


ヘリオドール、太陽の贈り物。レベッカにとっての太陽、エリオットから贈られた物。


この国の宗教は太陽神信仰だ。レベッカはエリオットが教会にある太陽神の彫像のような格好をしているのを想像してしまい、少し笑ってしまった。


思いの外、爽やかな朝だった。レベッカは今日も、エリオットの妻だった。それが本人たちとジョンしか知らないことでも。それでもその事実が、レベッカの心を浮立たせた。


朝食の後に少し作業進めて、動きやすい格好に着替えて家を出た。今日はテレサとリリの子どもたちと三番街の公園でピクニックをする。高級住宅地には広い公園が三つある。公共のものなので当然、地域住民以外も利用できる。


レベッカは今日を楽しみにしていた。友人の子どもたちは皆かわいいが、特にトマスはテレサが妊娠しているので、外で遊ぶ機会が減っていて不憫だった。


長いキュロットスカートを履き、帽子を被る。リンダに持たされたお弁当を片手に、公園へと向かった。


「レベッカ!久しぶり!」


リリが遠くから大きく手を振っている。その下でリリの子どもたちが元気に飛び跳ねて、同じように手を振っていた。


「レベッカ!二ヶ月ぶりね!先月は急にキャンセルしてごめんなさい。」


「気にしないで、子どもが急に熱を出すなんてよくあることだもの。」


「レベッカちゃん、ごめんねえ?フィルがおねちゅだしたから、ごめんねえ?」


少し舌ったらずなのがリリの下の男の子、フィリップだ。五歳の割には喋り方が幼くて、リリは少し気にしていた。


「フィル、おねちゅじゃないわ、おねつ、よ。」


言い間違いを訂正するのは上の女の子、ダイアナ。六歳で弟と年子なのに、とてもしっかりしている。顔立ちはリリには似ていないが、黒髪黒目の美少女だ。父親は貴族だが、その中でも恐らく相当な美形であることは察せられた。


「あら、ダイアナ。この前のプレゼント、してきてくれたの?」


ダイアナは胸を張って、首に下げたペンダントを見せた。


「レベッカからもらったんだもの!つけてくるのはあたりまえでしょ!」


こうしていると小さなリリのようにも見える。ちょっとだけ偉そうなのはご愛嬌だ。


「あっ!とみーがきた!」


フィリップが駆けていく。家では常に弟なので、年下のトマスに構うのが楽しいらしい。会えば世話を焼いたり、一緒に遊んでコロコロと転げ回っている。


「レベッカ!リリ!お待たせ!」


「久しぶり!なあに、テレサ、もうお腹、目立ってきたんじゃない?」


「そうなのよ!あっという間にお腹にお肉が集まってきた感じなのよね。ほとんど脂肪よ、脂肪!」


「分かるわぁ、ソレ!歩いてお腹張ったりしない?アンタ、ワーカホリックだから、座りっぱなしだってよくないのよ!鉄分の錠剤作ってきたからね。トミーのとき、お腹大きくなった頃から貧血気味だったでしょ?今回はちゃんとサボらずに飲みなさいよ!」


「ありがと、リリ!ちゃんと飲むわ!持つべきものは魔女の友だちね!愛を感じる〜!」


テレサがリリに勢いよく抱きつく。レベッカはお腹の赤ちゃんが心配になった。


「本当にゲンキンな女ね!ダンナにもそれくらい言ってやんなさいよ!?買い物行ったときにわざわざアイツが出てきてアタシに頼んできたんだから!!」


「え〜、それはちょっとなぁ〜、後がめんどくさいなぁ〜。」


「ロジャーさん、心配なのよ。面倒でもちゃんとお礼を言った方がいいわよ。」


レベッカはテレサを嗜める。お礼を言った次の瞬間には、テレサはロジャーに愛の言葉を捧げられたり、キスの雨を降らされたり、愛で回されることだろう。


「ホラ!もういいから、シート広げましょ。ダイアナ、手伝って!」


「はい、母さん。」


「テレサは子どもたちを見てて。準備は私たちがするわ。」


「ありがとう!歩いてきたら腰が痛くって!最近はデスクワークばっかりだから運動不足ね。」


「適度に運動しなさいよ!血流悪いと胎児にもよくないわよ!」


「はいはーい、分かってますよ、ママ。」


「アタシはアンタのママじゃない!」


いつも通りの日常なのに、レベッカはなんだかとても懐かしく感じた。

お読みいただきありがとうございました。

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