王子様とお姫様は結ばれる
「おはよう。こんにちは?ん?午前中だから、おはようでいいのかな?」
戸惑うエリオットに、レベッカはわざとらしすぎたかと反省した。
「おはようって言いたかったの……」
「あ、ごめん!嬉しいよ!おはよう、か。なんだか、夫婦みたいだな。」
エリオットが顔を赤くして照れている。レベッカも赤くなっていることだろう。気付かれたくなくて、視線を落としてスケッチブックに向かった。
「仕事?」
「うん。下の庭の花を描いたの。次のデザインの参考に。」
「へえ。見てていい?」
「ええ。」
レベッカは余白にデザイン案を描いていく。しばらく座って眺めていたエリオットは立ち上がってお茶を淹れ始めた。
「どうぞ、奥さん。」
「……ありがとう。」
エリオットはキョトンとした。
「絶対に文句言われると思ったのに。」
「言ったってやめないでしょ。」
「それはそうだけど。それも楽しいから。」
「そういうのはテレサとロジャーさんでお腹いっぱいだわ。」
「あはは、ロジャーさんらしい。」
エリオットはデザインをサラサラと描いていくレベッカの指先を見ていた。
「こんなにすぐ思いつくものなの?」
「まあ、そうね。実際に使えるのは数える程度だけど。リテイクになることもあるし。試行錯誤よ。」
「彫金のデザインが増えたのはジェフさんの影響?」
「ビーズだけじゃ表現しきれなくなってきて。取り入れられそうな物は何でも使ってみることにしてるの。」
「なるほどね。価格帯を抑えてるのは?」
「私はお父さんみたいに、格のあるジュエリーは作れないから……技術もないし。普段使い用なら、出来るかもって思って。」
「就職は考えなかったの?」
「エリオットの家に入るつもりでいたし、何にも考えてなかったから。新しい環境も…‥怖くて。家で出来る仕事を考えたの。」
「そっか……。俺が言うのもなんだけど、成功してよかったね。」
「まだまだよ。お父さんみたいな名声は望んでないけど。」
「そう?専売にしてくれたら、俺が高みに成し上げてあげるよ。」
「馬鹿なこと言わないで。出来るわけないじゃない。もうっ、全然集中出来ない!テレサの気持ちがやっと分かったわ。」
「ロジャーさんも?」
「そうよ。持ち帰った仕事をしてると、構って欲しくて話しかけて来るんですって。愛されてていいじゃないって言ったけど、確かにこれは迷惑なだけね。悪いこと言ったわ。」
「レベッカは、俺に愛されてる自覚ある?」
テーブルの上を片付けるレベッカの手が止まる。エリオットの方を見るのが怖い。
「……あるわ。自分でそう言ったんじゃない。私とジョンさんに嘘をついたの?」
「本心さ。愛してる、レベッカ。今だけは、ここにいるときは、俺の奥さんになって。」
エリオットはそっとレベッカの手に触れた。動かそうとしても、しっかり掴まれて離せない。
「……本当に、ロジャーさんみたいね。」
「顔、赤い。照れてはぐらかしてる?かわいいな。」
「ロジャーさんもテレサに似たようなことよく言ってるわ。」
「いくらロジャーさんでも、こんな時に君から他の男の名前が出てくるのは気分が良くないな。」
「大好きでしょ、ロジャーさん。」
「うん。尊敬してる。前に飲んだ時に聞いたんだ。貴族みたいに跪いてテレサにプロポーズしたって。」
「そうね。一度だけでなく何度も。テレサ、まだ働きたいって何度も断るから。私もリリもよく巻き込まれたわ。」
エリオットはレベッカの手を掴んだまま立ち上がり、横に来て跪いた。
「レベッカ、君を愛してる。何度でも言うよ。再会したあの日、俺は君に恋をした。それからずっと、レベッカのことだけを考えてる。日に日に愛は増すばかりだ。いけないことだと分かってる。受け入れてもらえないことも分かってる。でも、愛してるんだ。自覚してしまった。同情でいい。戯れでいい。思い切り、傷付けてくれていい。だから、次のお別れまでは、俺の妻でいて欲しい。愛してる。」
エリオットは言い終えると、レベッカの手の甲にキスをした。レベッカは、はらはらと流れ落ちる涙を止められない。最近、泣いてばかりだ。
「私……私も……私も、エリオットを、愛してる。ずっと、顔も見たくないと思っていたけど、久しぶりに会ったあなたは憔悴していて……心配になった。不幸になって、ざまあみろなんて思えなかった。そばにいたいと思った。会ったらいけないって、私も分かってる。私が、ひとりなのは、孤独を感じるのは、自分に勇気がないだけだって、知ってる。エリオットは悪くない。それを、伝えたかった。出来ることなら、私が、エリオットを、幸せにしたい。愛してあげたい。だから、だから、……私を、あなたの妻に、してください。」
「レベッカ!」
二人は立ち上がって抱擁し、誓いを込めてキスを交わした。
二人は幼い頃の、朧げな記憶の中の、ままごとの結婚式を思い出していた。
二人がイチャイチャし始めたら、ブクマ件数が増えました。ありがたい限りです。
お読みいただきありがとうございました。




