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顔だけ男は眠り姫の呪いをかけられる  作者: 里和ささみ


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48/90

王子様は言葉が欲しい

エリオットはあっという間にタッセルを仕上げた。片づけをするレベッカを見ながらニコニコとしている。


「そんな風に見られるとやりにくいわ。」


「レベッカが俺の視界にいるのが悪い。」


「何よ、それ。」


「嬉しくて。」


「いちいち言わなくていいわ、恥ずかしい。」


「ジョンさんも言ってただろ?言葉にして伝えないとダメだって。」


エリオットは席を立ち、キッチンへ向かった。二つのグラスに水を入れて戻って来た。


「お茶を淹れてる時間、なくなったから。」


「ありがとう。」


レベッカは腕時計を見た。時刻は二時二十分。そろそろ帰り支度をしなければならない。


「明日は来られる?」


「明日は研磨に出した石を取りに行くわ。午後に来て欲しいって言われてるから、二時までなら大丈夫。」


「午前中は?」


「何もないわ。作業してる。」


「それ、ここで出来る?」


「出来なくもないけど……あなた、仕事でしょ。」


「十一時には来られる。なるべく一緒にいたい。」


「……分かった。」


「帰る前に、そばに行ってもいい?」


「いやだと言ったら?」


「レベッカはその質問が好きだな。いやならしない。本当だよ。」


「こちらが折れるまでお願いするんでしょ。」


「俺のこと、よく分かってるじゃないか。それで、ダメ?」


レベッカはこのやりとりは時間の無駄だと思った。


「どうぞ。節度は守ってね。」


「もちろん。俺なりの節度だけどね。」


レベッカは許可してしまったことを後悔した。


エリオットはさっと椅子ごと移動して来て、レベッカ横に座った。膝に置いた手を掴まれる。


「こっちを向いて。」


恐る恐るエリオットの方を向くと、真剣な眼差しで見つめられた。エリオットは空いてる方の手でレベッカの頬を撫で始めた。


「確かに、この距離で見るとうっすらソバカスが見えるね。」


「そうよ。あなたの嫌いなソバカスね。」


撫でる手がぴたりと止まる。


「あー、ごめん。今はそんなこと思ってない。チャーミングだよ。」


「嘘くさいわ。」


「そうだよね、ごめん。でも、今は本当に、好きだ。懐かしくて…‥愛おしい。」


レベッカは添えたままのエリオットの手に、少し頭を乗せてみる。エリオットは親指でソバカスの辺りを擦っていた。


「お化粧が落ちちゃうわ。」


「素顔が見たいな。」


「いやよ。私だっていい歳なんだから、素顔で外を出歩けないわ。」


エリオットは難しい顔をした後、そうだよね、とつぶやいた。そんなに考え込むようなことでもなかったのに、どうしたのだろうかとレベッカは不思議だった。


「キスしていい?」


「だからそういうこといちいち聞かないで。」


恥ずかしくなって視線を逸らしてそう言うと、レベッカは両手で顔を挟まれ、エリオットに軽く口付けられた。顔はまだ挟まれたまま、エリオットの顔も至近距離にある。


「なんでするのよ!」


「いちいち聞かなくてもしていいんだと思って。」


「そんなわけないでしょ!」


「もう一回、するよ。」


今度は返事も待たずにキスをする。レベッカは唇にぐっと力を入れて引き結んだ。


「それじゃ唇を重ねられないよ。ぶつかってるだけだ。」


「それでいいのよ!これならまだ事故みたいなものだわ!この前みたいなのは絶対にいや!」


なるべく口を開かないように喋ったのでモゴモゴとしている。エリオットは眉間に皺を寄せて少しムッとした顔をした。


「あれの方が気持ちいいよ?」


レベッカは顔を真っ赤にしたが、唇は頑なに開かなかった。しかし、目までつぶったのは失敗だった。


「仕方ないな。もっと気持ちいいことするね。」


とんでもない発言にますます身を固くしたレベッカを、頬から肩、腕、背中とエリオットの手が撫で回す。唇はバードキスをしたり、柔らかく擦り合わせたり。舌で唇の輪郭と(あわい)をなぞられたレベッカは、ひっ、と小さく喉を鳴らした。


その声にびくりとしたエリオットは、もう一度軽くキスをしたあと、レベッカを抱き寄せて肩に顔を埋めた。


「ごめん、調子に乗った。」


「最低。」


「知ってる。嫌わないで。」


「嫌いじゃないわ。」


「嘘だ。本当は顔も見たくないんだろ?」


「昔の話よ。」


「じゃあ、今は?」


「今……?」


「どう思ってる?俺のこと。」


レベッカは困惑した。エリオットと再会してから感情を抑えつけていた心の蓋が、カタカタと鳴っている気がした。


「エリオットのこと……私……」


エリオットは抱き締める腕に力を込めた。


「本音でいい。嘘でもいい。最後の日、俺に答えをくれ。それが、俺の、真実になるから……。」


エリオットは震えているようだった。彼は自らジョンと同じ道を進んでいっているように思えた。


レベッカは抱きしめ返して、背中をトントンと叩いた。


エリオットは顔を上げ、レベッカの額に自分の額を擦り合わせる。


「分かった。最後の日に。」


二人はもう一度、今度は優しいキスをして、部屋を後にした。



お読みいただきありがとうございました。

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