王子様は心配性
内容にそぐわぬタイトルの昭和感。
よろしくお願いします。
「お嬢さん……ええと、レベッカさん?貴女はどう思っているの?彼を許してやることは出来ないのかい?思いつきで言っているわけじゃないよ。返事の内容がどうであれ、貴女は彼に答えをやるべきだ。」
「私…私は……」
エリオットはハッとして顔を上げてレベッカを見た。
「いいんだ!無理に答えなくていい。俺は、これ以上君に負担をかけたくない。答えなんかいらない。どの道、不幸になるだけだ!」
「どうしてそう決めつける。二人で幸せになる道もあるかもしれないじゃないか。」
「いえ、おじいさん。いいんです。レベッカ。俺は、自分が幸せになりたいんじゃない。君に幸せになって欲しいんだ。君が幸せに過ごしていると思えれば、俺はどんなことでも耐えられる。今も俺のことを赦せないって分かってる。俺の家族のこと、母さんのことも、赦せるわけがない。ただ、思い出が欲しいんだ。お願いだ、今だけでいい。それが終わったら、君の中から完全に俺を消してくれていい。チャームも、持たなくていい。作らなくていい。頼む、頼むよ……!」
エリオットは必死の懇願をする。エリオットのことをレベッカの中から消せるなら、とっくにそうしている。それが出来ないから、レベッカは恋が出来ないのだ。
「君は自虐的過ぎる。何が君をそうさせる?いつかきっと後悔するよ。わたしのよりも、長く苦しむことになる。」
「そんなもの、もうしてます!」
「興奮するんじゃない。周りの家から人が出てくるぞ。静かだから大きな声は目立つ。二人が会っていることを知られたらまずいんだろう?」
「すみません……」
「また首を突っ込んで、あいつに怒られてしまうな。差し支えなければ、もう少し詳しく事情を教えてくれないか?役に立たんジジイだが、少しは力になれるかもしれん。」
エリオットは話した。父が、いや、商会そのものが、商売のためにレベッカの意志を無視して婚約を取り付けたことから始まり、それを不満に思った自分がレベッカを貶めてきたこと、母のメリーによってレベッカが精神的虐待を受けていたこと、そのせいでレベッカが人間不信になったこと、森の魔女と騎士団を巻き込んだ婚約破棄騒動の顛末を。
こうして二人が会っていることが露見すれば、商会は騎士団との取り引きがなくなってしまう。エリオットの所業が世間に知られても、当時色々と噂が立っていたので今更痛くも痒くもないが、騎士団との取引停止は商売への影響が大き過ぎる。
エリオットはこれ以上実家に迷惑はかけられなかった。
「それはなんともまあ……」
「お聞きになって分かる通り、私にはレベッカに愛される資格がありません。理由もありません。今は、私が無理を言って付き合ってもらってるだけです。彼女の幼い頃の夢は、好きな人と、彼女の両親のような仲睦まじい夫婦になることでした。私には、その夢を叶えられません。」
「エリオット!だからそれは子どもの頃の話で!」
「君には守ってくれる人が必要だ。支えてくれる誰かがいれば……嫌だけど、安心出来る。ひとりは寂しい。俺はよく分かった。レベッカにこんな思いはさせたくない。」
「ひとりになんかならないわ!両親や友だちがいるもの!」
「親はいつかいなくなる。友人だって、結局は他人だ。違う家族の中に混じっても、余計孤独感を増すだけだ。」
「そんなことない!」
「レベッカさん、落ち着いて。彼の気持ち、わたしにはよく分かる。事情は違えど、彼もわたしも孤独なんだ。わたしには娘が二人いるが、同居しているわけでもないし、たまに会ったとしても、婿さんと娘と孫たちで家族なんだなと思うよ。わたしはいつまで経ってもお客さんだ。」
「同僚の家に行ったとき感じたんだ。家族の絆の強さを。うちの家族は機能不全だった。普通じゃなかった。同僚もその家族も、俺のことを当たり前のように暖かく迎えてくれたけど、一緒にいると異物感がすごいんだ。自分だけ、溶け込めずに、浮いてるんだ。レベッカだって、それを感じたことはない?少しでもあるなら、俺は安心出来ない。」
レベッカは思い当たる節があった。テレサがロジャーと並んでいる姿、リリの子どもたちに向ける眼差し。それを目にすれば、ひとたび自分の周りに囲いが生まれて、向こう側にはどうしてもいけない。
レベッカは口を一文字に結んで俯き、答えない。
「エリオット君、今日はもうその辺でやめときなさい。時間はまだあるんだろう?鍵を貸すから、明日からはうちの空き部屋を使いなさい。今日みたいに朝からあそこにいるとそのうち誰かに気付かれるかもしれん。特に君は目立つから。来られん日もあるだろうが、昼は用意しとくからここで一緒に食べよう。場所代と思って付き合ってくれ。」
「ありがとうございます。そうさせていただきます。」
エリオットがそう言うので、レベッカも顔を上げて頷いた。
帰り際に二人にそれぞれ鍵を渡された。部屋番号のタグがついた鍵は、あの日、封筒に入っていたものと同じ意匠が施されている。
「これでわたしも共犯者だな。」
ジョンは笑った。
「巻き込んでしまってすみません。」
エリオットが謝罪する。
「普段、刺激のない生活をしているんだ、たまにはこういうのもいいさ。友人には、何にでも首を突っ込むなと怒られるがね。わたしのことはジョンじいさんとでも呼んでくれ。もっと気安く話してくれると嬉しいよ。」
「ありがとうございます。」
エリオットは礼を言う。レベッカは目礼に留めた。
二人は、曇って輝きの鈍くなった真鍮の鍵を強く握りしめた。
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