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顔だけ男は眠り姫の呪いをかけられる  作者: 里和ささみ


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王子様の罪と罰

よろしくお願いします。

「どうして?」


「おそろいがいいから。」


「他の人が持ってたって、おそろいじゃない。それじゃダメなの?」


メダリオンのデザインはシンプル過ぎるほどだ。誰かのプレゼントにするなら、もう少し凝ったものにするつもりではいたが、レベッカとエリオットだけが同じものを持つとなると、話が違ってくる。


「いやだ。」


「いやだって……子どもじゃないんだから。」


「我儘?」


「そうよ。我儘よ。」


「我儘が言いたい。」


「だから、どうして!」


「言いたいから。それを、レベッカが受け入れてくれたら、もう、それでいい。」


もう、それでいい、だなんて、一方的過ぎる。レベッカにはメリットがない。むしろ、チャームが目につくたびに苦しくなるだけだ。


「どうしても、ダメ?」


エリオットがわざとらしく下からレベッカの顔を覗き込んだ。上目遣いが、とてもあざとい。こうして女をたらし込んでいたのかと思うと、あの頃にはなかった怒りが沸いてきた。


「ダメ!」


そう怒り口調で言えば、エリオットはしょげ返る。


そうか、と言うと項垂れてしまった。わざとらし過ぎる。


「じゃあ、レベッカ用に違うやつ作って。色は俺が決めるから。」


「使うかどうかは分からないわよ?」


「持っててくれるだけでいい。石もこっちで用意する。明日、一緒に持ってくる。」


「もう決めてるの?」


「石はヘリオドール。タッセルは空色。」


今度はエリオットの色を指定してきた。もう訳が分からない。お互いの色のお揃いのものを持つなど、若い恋人同士のすることだ。


「ヘリオドール!そんな稀少品!?」


ヘリオドールは〝太陽の贈り物〟という意味の黄色い石。ゴールデンベリルの別名だ。ダイヤモンドほど高価な物でもないが、あまりお目にかかることは出来ない。


「俺の個人的なコレクションだから。原石だし、そんな大きいものじゃない。」


そんなものをコレクションしているなど、初めて聞いた。


レベッカはどこから突っ込めばいいか分からず、ただ絶句するだけだった。


「一体、何がしたいの?」


「お守りが欲しい。つながりがあるって思えるような。レベッカが作ったものなら、本当は何でもいい。俺のためだけに作ってくれたものが欲しい。」


エリオットは顔を上げようとしない。目を合わせない。離した手は祈るように握りしめられ、ひたすら懇願するような声色で話す。


「戒めじゃなくて?」


レベッカは思わず嫌味を言ってしまった。


先程からずっと傍若無人に振る舞っているエリオットだが、本来はそんな性格ではない。支店に行って多少変わったようだが、本質は変わらないはずだ。


エリオットは分かっていた。この時間が、二週間の限りあるものだということを。それが終われば、二度と訪れないということを。しかも、二週間の間、必ずしも毎日会えるわけではない。


初めて自覚した恋心を、エリオット自身も持て余していた。


「そう思ってくれてもいい。そういう気持ちで作ってくれればいい。ただ、俺のために、俺のことを思って、作って欲しい。望みはそれだけだ。」


「そんな……。そんなものを私にも同じように持てって、なんでなの。」


「使わなくてもいい。仕舞い込んで、目の届かないところへ置いてくれて構わない。本当に持っているだけでいいんだ。それでも俺は、それだけで、寂しくない。」


そうだ、エリオットは寂しかったのだ。口に出して気付く。


自分はこれから、母を抱えて、結婚も出来ず、ひとりで生きていくだろう。それが怖かった。


支店の同僚はエリオットに親切にしてくれるようになったが、家族ではない。実の家族は、遠く離れて暮らしている。母がいる以上、自分からそこに戻りたいとは言えない。エリオットがいなくなったら、母は今度こそ孤独になるからだ。


レベッカから贈り物をもらえたら、それに見るだけで、触れるだけで、つないだ手の温もりを思い出せる。寂しくない。エリオットはそう考えていた。


「そんなの、いつか虚しくなるだけよ。」


必死なエリオットに、レベッカの怒りはすっかり萎んでしまった。背中を丸めて祈る姿は、幼子のようにひどく小さく見えた。


「寂しいなら、傍にいてくれるようないい(ひと)を見つければいいじゃない。」


「無理だ、母さんがいる。女の人は、きっと、みんな嫌がる。それに、俺は、幸せになる資格がない。俺は、レベッカに償えてない。レベッカが幸せにならなきゃ、俺も幸せになろうなんて思えない。でも、レベッカが、他の誰かと結婚するなんて、嫌だ。嫌なんだ。なのに、俺じゃダメなんだ。そうだろう?」


償いとはなんだろう。遠くへ行くことになって、その為にエリオットは様々なものを失った。それが、償いではなかったのか。


「償いなんて、これ以上いらない。私にとっても、重荷になるわ。エリオットは充分、罰を受けたじゃない。後継者の地位を失って、本店にいられなくなって、母親から罵倒を受けて、それでもまだ足りないの?もう私のことなんか忘れて、幸せになればいいのよ。結婚だけが全てじゃないって、私だってもう知ってる。私はもう、花嫁に憧れる小さな女の子じゃないのよ?結婚しなくたって、私、今、幸せよ。それじゃあ、いけないの?」



エリオットがようやくレベッカを見た。また泣いている。


レベッカは、涙をそっと指で拭ってやった。エリオットの手はあんなに冷たかったのに、触れた涙は温かかった。

お読みいただきありがとうございました!

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