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顔だけ男は眠り姫の呪いをかけられる  作者: 里和ささみ


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38/90

王子様のおねだり

エリオットの猛攻。

よろしくお願いします。

エリオット滞在二日目。


レベッカが打ち合わせを終えて七番街の広場へ行くと、エリオットはすでに来ていた。ベンチに腰掛けて、本を読んでいるが、足音に気付いて顔を上げた。


「やあ。」


エリオットが微笑んだ。見慣れた笑みだったはずなのに、レベッカは胸がギュッと締め付けられた。息がうまく出来ない。


「こんにちは。」


「今日は暑いね。夏みたいだ。」


「そうね。」


エリオットがベンチの端に寄るので、昨日のようにレベッカも座る。


「今日もパン買って来たんだ。食べる?」


「いただくわ。飲み物買って来たの。最近流行ってる、屋台のジュース。」


「ありがとう!そうだ、昨日帰ってから喉がカラカラで、夜はつい飲みすぎたよ。レベッカは大丈夫だった?」


「確かに喉は渇いてたわ。エリオット、二日酔いは?」


「なったことないのがちょっと自慢なんだ。だから、大丈夫。」


昨日よりも顔色が悪いようだが、二日酔いになったことがないのが自慢と言うならば、大丈夫なのだろう。


「良かった。昨日より体調が悪そうに見えたから。」


「心配してくれてありがとう。嬉しい。」


ニコニコと屈託なく笑うエリオットに、レベッカは驚いて少し体をのけ反らせた。


エリオットは気分が高揚していた。昨夜はまた泣いてしまったが、人生で初めて好きな人が出来て、例え報われなくても、一緒にいられる時間を大切にしたい、そう結論づけた。


そこにたどり着くのに、夜明けまでかかってしまった。寝不足なのは否めない。


「炭酸にシロップと生のフルーツが入ってるのか。見た目も綺麗だな。」


「こっちがベリーで、こっちが柑橘。どっちにする?」


「レベッカ、ベリー系好きだろ。こっちでいいよ。」


そう言うと、サッと柑橘のジュースを手に取った。そんな小さなことを覚えていてくれたのかとレベッカはくすぐったくなった。


「小さい頃、暗めの赤が好きだったろ。好物のラズベリーの色だし、近所のおじいさんが育ててる薔薇が綺麗だからって。俺が血の色みたいって言ったら、レベッカ大泣きしたよな。あれでテレサに滅茶苦茶怒られてさ。昨日のイヤリングがそんな色だったから、思い出したんだ。今日のオリーブグリーンもいいね。かわいいよ。」


かわいいだなんて、エリオットに言われたのは初めてだった。


「あ、ありがとう。そんなこともあったわね。」


「テレサはすぐ怒るよな。特に、レベッカが関わると手がつけられない。ロジャーさんにだって冷たいじゃないか!昨日だって、テレサが身重だからって飲みの誘い断ろうとしたのに、たまにはゆっくりしたいから行ってこいって追い払うように言ったんだぜ?」


「照れ隠しなのよ。ロジャーさんにもたまには息抜きして欲しかったのよ。」


「そうかなぁ?そうは見えなかったけど。」


二人は食事を済ませると、静かな時間を満喫していた。エリオットは噴水を眺めたまま、つぶやいた。


「手、つないでいい?」


返事をする前にレベッカに近付いて、右手に自分の左手を載せた。


「うん。」


レベッカは緊張で真っ赤になって、辛うじて返事をした。


「明日は、ずっと、家にいるの?」


「明日は……そのつもりだったけど、昨日、買い物出来なかったから。また、こっちに、来ようかなって。今日は、荷物が多いから。持って帰るの、大変だし。」


自分に言い訳をしている。エリオットは明日は何もないと言っていた。また、ここで、会える。


「そっか。じゃあ、ここで、待ってるよ。」


待ってる。その一言が、嬉しかった。ドキドキと心臓の音がうるさい。


「レベッカの手は、あったかいな。」


「そう?エリオットの手が冷たいからじゃない?」


緊張で手汗をかいているのではないか。レベッカは急に恥ずかしくなった。


「かもね。でも、ちょうどいい、あったかさだ。」


エリオットは今日もまた、レベッカの髪に顔を埋めた。


「いい匂いがする。」


「テレサの作ったヘアオイル使ってるの。誕生日にもらって。私をイメージして、作ってくれたんですって。」


「そうなの。確かに、レベッカっぽい。悔しいな……。」


何が悔しいのだろう。レベッカには分からない。エリオットが顔を埋めたまま、大きく息を吸い込んではゆっくりと吐く。気恥ずかしさで、動けなくなった。


エリオットが甘えてくる理由は、考えたくなかった。


ふと、エリオットが顔を上げる。温もりが離れて、レベッカは寂しく感じた。


「そういえば、そのバッグチャーム、昨日も気になったんだけど、それも商品?」


「ああ、これ?チャームは何回かデザインしたことがあるけれど、これは特に商品として売ってないわ。昨日言ってた、新しいイヤリングのタッセルを使って、上の部分はメダリオンみたいにして、太陽をイメージしたの。誰かの誕生日に作ろうかなと思って、この前、練習を兼ねて作ってみたのよ。」


敢えて大きめのメダリオンには中心に深紅の半球のガラスが嵌められ、放射状に太陽のような意匠を施してある。その下には同じ色のタッセルがついていた。


「……まだ、他の誰も持ってない?」


「ええ、そうね。」


「俺にも、作ってくれる?」


「チャームを?いいけど、こんなもの使うの?」


「使う。付けたい。色はリクエストしてもいい?真ん中の石は、用意する。まだ原石だから、テレサの家に研磨をお願いして欲しい。」


「いいけど……どんな色にしたいの?」


「メダリオンは同じデザインで、ヘーゼルのタッセルを付けて。石は……レベッカと結婚したら指輪にして渡す予定だったスモーキークォーツを明日持ってくる。石はかなり濃いめの色してる。」


確かに男のエリオットが鞄に付けるのにはいい色合いだ。


だがそれは、レベッカの髪と瞳の色と同じ。


それをエリオットが持つ意味は。


「それから、出来れば、メダリオンのデザインは、同じものを他の人にあげないで欲しい。ダメかな?」


レベッカはエリオットを見上げた。縋るような瞳から目を逸らせなかった。



お読みいただきありがとうございます!

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