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顔だけ男は眠り姫の呪いをかけられる  作者: 里和ささみ


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王子様の小さな姫君

静かな時間です。


よろしくお願いします。

「うん……。」


レベッカは小さく頷くのが精一杯だった。綺羅綺羅しかった王子様は美しいままだが、少しやつれて陰を帯びた空気を纏っている。


「ごめん、俺、すぐに分からなくて。本当にごめん。もう行くよ。」


「ま、待って!」


レベッカは慌てて踵を返したエリオットを思わず引き留めてしまった。声をかけた理由が自分でもよく分からなかった。


振り向いたエリオットの顔色がより一層悪くなったように思えて、レベッカの心は騒ついた。幸せに過ごしているようには見えないエリオットに、罪悪感を抱いているのかもしれない。そう思うと次の言葉が出てこない。


エリオットは迷ったが、レベッカが深刻そうな顔をするので、離れられずにその場で立ち止まってしまった。


「ごめん、レベッカから離れなきゃ、俺怒られる。ぶつかったのはわざとじゃないんだ。本当に偶然で……。」


「それは、分かってる……。そうじゃなくて……。」


「本店に用があって来たんだ。さっき着いて、ちょっと昼飯でも買おうと思って出て来たんだけど……。多分、あと二週間くらいはここにいると思う。次は見かけても声はかけないから。」


沈黙が流れる。レベッカは俯いてしまった。エリオットも立ち去れないでいる。


「……すまなかった。十年以上経って、何言ってんだって感じだけど。あの頃は、いや、子どもの頃からだな。ずっと、俺はレベッカを傷付けて来たね。人として、未熟だった。今もちゃんとした大人かどうかは自分じゃ判断つかないけど、レベッカのお陰で少しはまともになれたと思う。ありがとう。それじゃ、元気で。」


レベッカは言うだけ言って戻ろうとするエリオットの袖を掴んだ。


「……この辺は知り合いが多いから、誰かに見られたらさすがにまずい。悪いけど、離して。」


レベッカは黙りこくったまま、袖を離さない。エリオットはひとつため息をついて、場所の移動を提案した。


「七番街へ行こう。あそこなら多分、大丈夫だから。少し離れてついてきて。」


七番街はスージーのアパートがあった場所だ。午前中は朝早くから老人が小さな広場に集まっておしゃべりをしたりボードゲームに興じているが、昼にはみな家に戻っていき、午後は静かで人通りもない。あの日のように。


エリオットは迷わず歩みを進めた。時折、後ろを振り返り、レベッカがついて来ているのを確認する。途中でパン屋に寄って、昼食を買った。


小さな噴水の水の音だけが響く広場に着いた。立ち並ぶアパートの陰になっているベンチに二人腰掛ける。


「久しぶりだからいろいろ買ってみたんだ。レベッカもどう?」


エリオットは紙袋を開いてレベッカに見せた。少し躊躇いがちにひとつパンを取る。


「あ、ありがとう。」


レベッカは緊張していた。自分でも理解出来ない行動に出てしまって、戸惑っていた。レベッカは震える手でパンを一つ取る。包み紙を開くと、チョコチャンクの入った丸いパンが出てきた。


「それ、昔から好きだよね。」


特に選んで手にしたわけではないが、確かにレベッカの好物だ。エリオットはそれを覚えていて、買ってきてくれたのかもしれない。


「よく、覚えてるね。そんなこと。」


「そうだね、自分でも驚いてる。」


風が吹いて、隅に植えられた木々がさわさわと葉を揺らしている。二人はそれに耳を傾けながら、パンを頬張った。


ひとつめのパンを食べ終えたところで、エリオットが口を開いた。


「どうして引き止めたの?」


「私にもわからないわ。ただ、顔色が悪いように見えたから気になったの。」


「そう。今いるところから強行軍で来たから、疲れと寝不足かな。年には勝てないね。」


エリオットはおどけてみせた。気を遣われているのが分かる。


「痩せた……?」


「ああ、うん。痩せた、かも。レベッカはあれだね。綺麗になった。最初、本当に分からなかったよ。背も伸びたし、ソバカスもなくなって……って、悪い。」


ソバカスを馬鹿にして嫌悪していたことを思い出したのだろう。レベッカは今更どうでも良かった。テレサがリリのアドバイスで作った化粧水を使い始めて、確かにソバカスは薄くなったがなくなったわけではない。メイクで誤魔化しているだけだ。


「ソバカスは……消えたわけじゃないの。お化粧してるから。背は、少しは伸びたけど、今日はヒールのある靴を履いてるから。」


「そっか。すっかり女の人だな。ずっと、記憶のままの小さな女の子だと思ってた。どれだけ君に向き合っていなかったんだろ。不甲斐ないな、俺。」


そんなことない、とは言えない。あの頃だって、もう小さな女の子ではなかった。もしかするとエリオットにとってレベッカは、成長しても出会った頃の子どものままに見えていたのかもしれない。


それが何の免罪符にならないことをレベッカはもう知っている。


エリオットだけでなく、レベッカ自身も久しぶりに、あるいは初めて、お互いに向き合っている実感を得ていた。

お読みいただきありがとうございました。

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