表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
顔だけ男は眠り姫の呪いをかけられる  作者: 里和ささみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/90

王子様の帰還

それから。また時間が経過します。

レベッカ、26歳。


よろしくお願いします。

十年が経ち、レベッカはとうに二十歳を越したが、未だに誰とも縁付いていない。


レベッカたちが成人した年に、隣国と国境線を巡っての小競り合いが起こった。建国以来、国の北側にある隣国が、数十年に一度の大寒波が起きる度に温暖な土地を求め、山越えをしてまで攻め入ってくるのが常になっていた。前年に中央の気象学者が大寒波の発生を予測していたので、国は早くから戦争に備えていた。


国境いにあるこの街は補給の最前線となった。実際の戦地は国境線に程近い山の手前の草原地帯だが、ここが近隣で一番大きな街だったので重要な拠点となり、人の出入りが激しくなった。


グッドマン商会は一時期評判を落としたが、戦争が始まるとリチャードとの約束を守って率先して無償で物資を提供し、愛国心のある商会だと信頼を取り戻した。戦争というのは、人々の判断の基準を変える。嗜好品や贅沢品を控える傾向になりがちの戦時下で、戦争のために嗜好品や贅沢品を購入する者が増えるという珍しい現象が起きた。


戦争は一年で終結した。もっと早く終わるはずだったのに案外長引いたとリチャードが言っていた、とリリは語った。


リリはその後、二十歳で一人目の子を産んだ。女の子だった。次代が出来たから子どもはもういいと言うが、リリにはあまり顔立ちの似ない赤子を見つめる目がたまに寂しげでレベッカの心を締め付けた。


と思っていたら、翌年にまた次の子を産んだ。今度は男の子だ。やはり顔立ちはリリに似ていないが、姉になった長女にはよく似ている。どういうことか、下世話なテレサが直球で尋ねたが、いろいろあったのよ!で済まされてしまった。


騎士団への納品時は自宅で仕事をするレベッカに、実際に世話をするのはリンダだが、預けて行くのがお決まりになった。子どもたちはかわいく、レベッカや両親にもよく懐いた。


ジェフとリンダはなぜか「ジェフじいちゃん」「リンダばあちゃん」と呼ばれていて、特に下の男の子はジェフじいちゃんが大好きだ。


二人が子どもたちにせがまれておもちゃ屋へ向かう途中、偶然会ったリチャードに「ジェフじいちゃん」と呼ばれているのを聞かれて、微笑みながらも威圧されたとレベッカはリンダから聞いた。


テレサはグッドマン商会の同僚と結婚した。エリオットと入れ替わりで支店からやって来た彼は、エリオットの穴を埋めるために選ばれたと思われる見目麗しい男だった。美人のテレサと並ぶととても絵になる夫婦だ。


とても情熱的で、仕事一筋のテレサをあの手この手でアプローチし続けて口説き落とした。仕事を続けることを条件にプロポーズを受け入れたテレサは、子育てと上手く両立しつつ、新製品の開発に勤しんでいる。只今、第二子を妊娠中だが、産むまでバリバリ働くつもりらしい。


レベッカは大通りを歩いていた。自由業なので、休みは己の裁量次第。初めの頃はなかなか上手くスケジュール管理が出来なかったが、今は割と余裕がある。ビーズのパーティーバッグを作ったことで人気に火がつき、ジェフのジュエリーに比べれば規模こそ小さいものの、父親の足跡を追うように名声を高めていた。


本人はそんなものはどこ吹く風。最近では両親も結婚のことを口に出さなくなった。両親がリリの子どもたちに愛情を注ぐ姿を見ると、嬉しい反面、申し訳なさが立つ。


レベッカは相変わらず臆病だ。自分の意見や気持ちは口に出せるようになったが、他人と関係を深めたがらない。レベッカが私生活で関わりがあるのはリリを除いて学校にも上がらぬ小さな頃から知っている者ばかりだ。


レベッカは毛糸を探しに来ている。テレサの出産は秋なので、それまでにコットンニットで赤子用のブランケットを編むつもりだ。一人目の分と色違いで、同じ意匠で作りたい。ついでに、自分の服でも買って帰ろうと思っている。


もちろん、グッドマン商会には近寄らない。初めのうちはどこで会うか怖くてこちらの方へはなかなか脚を運べなかったが、リリとテレサのリハビリのおかげで、今では行きつけの店に買い物に行く程度はしている。


グッドマン商会の面々とたまにすれ違うこともあるが、あちらが気付くとサッといなくなるので、こちらも気にしないように努めた。


春の風は思いの外強い。大きめの買い物鞄を抱えて、今にも飛びそうな帽子を押さえながら歩いていたら、人にぶつかってしまった。


「あっ、ごめんなさい!」


「いえ、こちらもすみません。イテッ、目に何か入ったかな?」


「ハッ、ハンカチを……」


レベッカがハンカチを差し出して見上げると、そこには見覚えのある顔があった。


「ありがとう、お嬢さん。助かりました。」


「エリオット……」


「あれ、私のことご存知ですか?あ……」


二人の視線がぶつかると固まってしまった。お互い目を逸らせない。


「レベッカ……?」


エリオットはようやく気付いた。エリオットの瞳には記憶の中の少女ではない、洗練された大人の女性に成長したレベッカが映っていた。

目にゴミが入るとなかなか目が開けられないですよね!


お読みいただきありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ