魔女の恋愛事情
女子会再び。
よろしくお願いします。
時は過ぎ、レベッカとテレサは学校を卒業し、成人を迎えた。年に一度行われる成人の儀には、リリも共に参加した。
三人はすっかり仲良くなって、しょっちゅう集まってはランチをしたり、ショッピングをしたり、時にはお泊まり会もした。
ただ、いつも三人でばかり遊ぶので、皆恋愛ごとには縁遠かった。
テレサはグッドマン商会に入った。リリには斜陽商会によく入ろうと思ったわね、と嫌味を言われたが、リリから得た知識を手土産に見習いを短期間で終わらせ、美容部門へと配属が決まった。テレサが手がけた美白化粧水の売れ行きは好調で、仕事が楽しくて恋愛をしてる暇がないといつもぼやいている。
レベッカは父のジェフに似たのか、器用な手先を生かして、ガラスビーズによるアクセサリーや小物作りに勤しんでいた。慰謝料はそのまま取り置いて、地道にコツコツと物作りに励んでいる。自宅の一室を工房に改装して仕事をしているため、外に出る機会がなく、出会いがない。母のリンダはそれを嘆いているが、当人はあまり気にしていなかった。
リリは引き続き、魔女として薬を作っている。時折、テレサの相談に乗ってやったりしているが、商会と直接関わるわけではないので、レベッカ同様出会いがない。
いつものように三人で集まり、レベッカの家でお泊まり会をしていた時、レベッカとテレサが魔女の暮らしについて尋ねたことがあった。魔女の家系と言うが、男がいなければ子は産まれない。
「リリのお父さんって、どこにいるの?一緒に住んでるの?」
「戸籍上はいないわよ。魔女はみんなどこかで子種をもらって、女だけで育てるの。男が産まれたら成人までは一緒に暮らすけど、成人したら家から出るわ。魔女を継ぐのは女だけ。まあ、別に男が出来ない仕事じゃないんだけど、元々魔女の故郷で女が就いていた職だから、それをそのまま踏襲してるだけね。男は有事の時には兵士として取られてしまって、国に残ってあれこれするのが女の仕事になってしまったのよ。あそこは軍事国家だから。」
「ちょ、ちょっと待って!子種をもらってくるって、どういうこと!?」
テレサが驚いて話を止めた。レベッカも、そういえば、という顔をしている。
「騎士団からよ。地元の人だと後々面倒だから。騎士なら何年かで異動になっていなくなるでしょう?子が出来るまでは同じ相手とお付き合いするけど、兄弟の父親が同じとは限らないの。私はひとりっ子だけど、母なんかは腹違いの兄がいたのよ。今は別の街へ行って、医師をしているわ。」
「えっ、えっ、じゃあ、リリのお父さんもこの街の騎士だったの!?今どこにいるとか知ってるの?会いたいって思ったりしないの?」
「テレサ!さすがに失礼よ!」
「別にいいわよ。魔女は国の管理対象だからね。アイツらにとってアタシたちは人じゃないのよ。相手は中央騎士団の貴族の中から適当に候補を見繕われるの。一応、選択権がこちらにあるのが救いね。」
「魔女から不満の声はないの?」
「他の街の魔女にもたまに連絡取るけど、聞いたことないわね。祖母も母も私も、そういうモンなんだとしか思ってないわよ。」
「そうなんだ……」
レベッカは衝撃だった。両親が理想の夫婦のレベッカは、魔女になれそうもない。家庭を築いて子を成したら、共に育てるのが当たり前だと思っていた。
この国にやってきた未婚の魔女たちは、国の提案に対して否やを唱えなかった。相手候補には、未婚で若く、見目がよく、尚且つしっかりと教育された者たちが選ばれるので、意に沿わぬ相手でも強制的に結婚させられていた祖国よりはるかに恵まれていた。
特に騎士団に所属する者は紳士たれと教育される。魔女だからと手酷いことをする者はいない。そもそもそんな者は候補に挙がらない。魔女は管理対象であると同時に保護対象だ。何かしたら仕返しに薬と称して劇薬を仕込みかねない魔女を無碍に扱う騎士はいない。
「なんか、悪かったわね。恋のこの字もなくて。」
「ううん。でも、こんなこと教えてくれて大丈夫なの?」
「まあ、普通は子の父親になる騎士とは異動したらそれっきりだから、ほんの数年の話だもの。他言しなければ平気よ。」
「言わないわ!もちろんよ!」
「リリのお相手は決まってたりする?」
「もうっ、テレサったら!」
まだまだ食いつくテレサをレベッカが制したが、リリはなんてことない顔で告げる。
「成人したからね。候補はいるわよ。でも、まだアタシ成長期だから、すぐにどうというわけではないわね。成長期の出産は母体も危険だから、アンタたちも気をつけた方がいいわよ。」
「成人してすぐに結婚する子もいるけど?」
「それで早く跡継ぎを産めってね、それで若くして産んで出産時にトラブルが起きて不妊なんて、割と聞く話じゃない?最近は初婚年齢も上がってきてるから、昔よりはマシだけど。」
レベッカはぞっとした。あのままエリオットと結婚してそんなことになったなら、更なる地獄の始まりだっただろう。
「リリの話だと恋バナって言うより、なんだかお医者様と話してるみたいね。」
「魔女が恋をしないわけでもないのよ。選んだ相手と恋愛関係になる魔女もいるし。ただ、貴族はみんな婚約者がいるから、お別れは避けられないわ。」
「それは……悲しいわね。」
「アタシの母さんもそのクチだし。だからアタシはひとりっ子なのよ。無事に出産を終えた時点で男の方は異動になるからね。」
「じゃあ、リリは父親のこと知らないのね。」
「ん……ま、そうね。」
珍しくリリの歯切れの悪い返事に、レベッカはもしかして、と考える。レベッカの考えが正しければ、リリは父親を知っている。
そうだったらいいな、とレベッカは温かいお茶とともに言葉を飲み込んだ。
リリの恋愛観は独特です。
しかし、恋バナが出産話になってしまいました。
うーん、困った。
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